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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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◆その787 大激震2

2022/1/31 本日一話目の投稿です。ご注意ください。

「むぅ……」


 老練な達人を思わせるかのような唸り声を上げる少女――アリス。クロード新聞を読みながら、何度も何度も無意識のうちに唸っているアリスを見かねて、エメリーが声を掛ける。


「えーと……アリスさん?」

「うーむ……」


 聖騎士学校での騒ぎの中、アリスはずっとクロード新聞を読んでいた。そして、オリハルコンズメンバーが活躍した事による祝賀会のため、冒険者ギルドへやって来たのだが、ここでもまだずっとクロード新聞を読んでいたのだ。

 祝賀会とはいえども、ミケラルド、リィたん、ナタリーが法王国の冒険者ギルドでテーブルを囲う事は出来ない。公人としては勿論のこと、冒険者としても法王国に訪れる事は出来ない。

 しかし、それでも世話になった恩人、恩師を祝いたいという皆の希望の下、聖騎士学校に許可をとって冒険者ギルドにまでやって来たのだ。

 エメリーは小首を傾げ、更に続ける。


「何か気になる事でもあるの?」

「それは勿論、不死王リッチと魔人の事です」


 ギンとめをぎらつかせエメリーを見るアリス。

 その眼光に驚きつつも、アリスの疑問をさらに追及する。


「三名討ち取っただけも凄いと思うけど……?」

「いえ、法王国は動きます。取り逃がした事に対しての追及は(まぬか)れないんじゃないかなって思うと、ちょっと怖くて……」


 すると、エメリーは先日起こった話をあげた。


「この前、騎士団の士気向上の名目でアルゴス騎士団長に同行したんです」

「あ、あの早退した日ですよね?」

「そこで初めてお会いしたんですよ」


 エメリーがそこまで言うと、アリスはこれまでの話の流れから、それが誰かを言い当てた。


「ゲバン様……ですか?」


 頷くエメリー。


「あの人、かなり強いですね。少なくとも法王陛下に匹敵するだけのお力はあるようです」

「っ! 法王陛下っていったら、現役時代SSS(トリプル)の実力者ですよっ?」

「はい、でもそれ以上に……」

「それ以上に?」


 カタリと小首を傾げるアリス。


「……怖かったです」

「それはどういう意味で?」

「私もそうですけど、冒険者や聖騎士学校の人たちは、平時の振る舞いをわきまえていると思うんですけど……ほら、どんなに力を持っていても、それを街中で解き放つとかないじゃないですか」

「そ、それは当たり前ですよ」

「でもあの方の場合……」


 それ以上言わなかったものの、エメリーは俯いてその予感を体現した。顔をあげた後、そこだけ省きエメリーが続ける。


「闇ギルドとは違う怖さみたいな……なんかあの方の中には、善悪なんてないって感じが凄いしたんですよね」


 そう気まずそうにエメリーが言うと、アリスはぶるっと肩を震わせた。

 そんな二人の間にニュッと顔を出した男がいた。


「いるんですよね、そういう人」

「「ひっ!?」」


 気配を感じなかったのか、二人は声にならないような悲鳴をあげた。ぎょっとした二人の視線の先にいたのは、冒険者が似合わない聖騎士学校の制服をキチンと着た……リーガル国の貴族。


「「ミ――」」


 そう言いかけたところで二人がその口を手で塞ぐ。


「ミ?」


 爽やかな笑みで首を傾げる男。

 呼吸を整えた乙女二人がほっと息を吐く。

 そしてアリスが立ち上がって男を指差す。


「な、何しに来たんですか、ルーク(、、、)さん!」

「どうもルークです。あ、ミで思い出しました。ミルークでも頼もうかな。ははは」


 顔に似合わぬ親父ギャグにドン引きするアリス。エメリーが「あ、私が注文してきます!」と嬉しそうにカウンターへ向かう。

 わなわなと震えるアリスの前の椅子に腰掛けたルークの笑みが消える事はない。


「学校では皆さん余り構ってくれないので、寂しくて来ちゃいました」

「そ、それは……」


 言いながら身を低くし、声を落とすアリス。


「ルークさんの正体がバレたら大変だからって……!」

「いいんですよ。別にバレても。別の顔で来るだけですからね」

「何をのんきな!?」


 そうアリスが言いかけるも、


「ミルクでーす!」


 エメリーの声に止められる。

 小走りに持って来るエメリーを見て、ルークが言う。


「エメリーさん、あのままだと転ぶと思うんですけど、賭けません?」

「乗りました」


 間髪容れずに賭けに乗る史上最高の聖女。


「転ぶ方に白金貨十枚」

「転ぶけどミルクは無事、に白金貨十枚」

「あ、ずるいです!」


 アリスがルークに肉薄した直後、エメリーが足をもつらせる。


「わっ? わわわわわ!?」


 宙を舞うミルク。

 樽ジョッキからミルクが舞う。

 しかしここは冒険者ギルドであり、オリハルコンズのメンバーが集う祝賀会である。ラッツが樽ジョッキを掴み、未だ宙を舞うミルクは瞬時にその中へ誘導されていく。

 頭を抱えるアリス。

 ニヤリと笑うルーク。

 しかし、そこで意外な事が起こる。


「わー!? ……へ?」

「っと、大丈夫か、エメリーちゃん?」


 エメリーの身体を支えるラッツの友人ハン。

 歯を輝かせたハンスマイルに全てを崩されたルークの顔が歪む。


「バカな……!?」


 エメリーは転ばず、ミルクも無事。

 賭けは成立せず。

 ラッツから受け取ったミルクを持って戻り、テーブルに置くエメリーがとある視線に気付く。


「? 何でハンさんを睨んでるんですか、ルークさん?」


 そしてテーブルの異変にも気付くのだ。


「な、何で私の席に白金貨が二十枚……も?」


 積み上がる大金に小首を傾げるエメリーだった。

次回:「その788 祝賀会」


※本日3話投稿予定です。(現在1/3)

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― 新着の感想 ―
[一言] 言葉だけでなく、双方とも即座に白金貨10枚の現物をテーブルに出していたとは…。 上級冒険者恐るべし。 ポケットに入れてる小銭じゃあるまいに…。
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