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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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786/917

◆その783 はじめてのまかいしんこう6

 初手、ミケラルドは大地に向かって拳を振り下ろした。


「ハッ!」


 大地が爆ぜ、散弾銃のように岩が飛び散る。

 ラティーファは魔力障壁でそれを防ぎ、魔人は戦意喪失しているゲオルグの剣を奪ってこれに応戦した。


「はい、よ、ほっ!」


 次に放ったのは、水魔法で作り出した二つの【水球】。

 極めて重厚な魔力で固められたソレを中空へと放り投げる。


「アタック!」


 バレーボールの如く【水球】でサーブをきめると、一瞬でそれはラティーファの魔力障壁を破壊した。

 その威力に驚く間もなく、二球目がラティーファを襲う。

 これを防ぐように動いた魔人。

 剣で受けよにも、それはこれまで使っていた勇者の剣(仮)ではない。ゲオルグが使っていた、ミスリル製の剣だった。

 どれだけの名匠がつくろうとも、ミスリルの剣でミケラルドの【水球】が防げる訳ではない。


「ぐぉ!?」


 魔人は剣の破壊と同時に吹き飛ばされてしまう。


「魔人の正体も気になるところなんですが、こればかりは血をテイスティングしないとわからないので……」


 言いながらミケラルドが未だ吹き飛んでいる魔人に追いつく。


「くっ、おのれ!」

「せーのぉ!」


 拳を振り上げ、魔人に振り下ろす。

 大地を砕き、めり込む程の威力。

 しかし、その威力は上手く流されていた。


「上手いですね。大地に触れた瞬間に【地泳(ちえい)】を発動するとは……」


 ミケラルドがそう言うと、ラティーファの隣の地面から魔人飛び出て来る。だが、魔人が見た先にミケラルドの姿はなかった。

 ゾクリという悪寒と共に眼下を見下ろす魔人。そこにいたのは、既に拳を振り上げようとしているミケラルドだった。


(馬鹿な、速いっ!?)


 相手は魔人と魔女ラティーファ。

 ミケラルドといえども手を抜く事は出来ない。

 些細な油断が両者を取り逃がすという結果を恐れたのだ。

【覚醒】、【解放】、【身体能力超強化】、【脚腕(きゃくわん)超同調】などの強化能力、【ダークオーラ】や【パワーアップ】の強化魔法すら余す事なく発動していた。

 ミケラルドはただ仕事の如く淡々と魔人を追い詰めた。

 叩き落とす事で魔人に【地泳(ちえい)】を使われてしまうのであれば、腹部を叩き、中空へ弾いた。

 大空で豆粒程の大きさにしか見えない魔人。ミケラルドの息もつかせぬ猛攻により、魔人は一気に追い詰められた。


「【フレアボム】!」


 ラティーファの援護も、ミケラルドを振り向かせる事すら出来ない。


「く、ならば【氷塊乱舞(ひょうかいらんぶ)】! 【闇雷(おんらい)(ばく)】」


 魔女と謳われる無数の魔法は全て魔力障壁に掻き消される。

 極大の氷の塊も、十方を囲む闇の雷も、ミケラルドに傷一つ付けられないでいた。

 ミケラルドは上空を見つめ、かつて雷龍(シュリ)に放った神の杖――【ミック弾】を投下。猛スピードで落下する分裂体が意識が薄れた魔人の目に映る。


「避け切れない……か」


 魔人は観念した様子で、ミケラルドも魔人への最後の一撃だと思っていた。


(よし、気を失った魔人の血を吸って、ラティーファに(とど)めだ)


 安全()つ効率的。この場でミケラルドのプランは全て成功していた。揺るぎない自信と動かしようのない事実。

 魔人という現魔界の最大の癌を倒す事が出来れば、この魔界侵攻作戦の半分は成功だとすら言える。


「なっ!?」


 ――だが、

 ミケラルドは(おの)が目を疑った。

 衝撃の出来事がミケラルド、魔人、ラティーファ、ゲオルグの目に映し出される。

 空へ打ちあがったはずの魔人、何とかミケラルドにダメージを与えようと魔法を放っていたラティーファ、その二人の位置がいきなり入れ替わったのだ。


「嘘よ……」


 上空へ転移したかのようなラティーファの最後の言葉。

 眼前に迫るミック弾、直撃と共に響き渡る断末魔。

 ラティーファの身体は空に霧散し、ただ血の雨だけが大地に降り注いだ。


「何を……したんだ……?」


 ゲオルグがそう零すも、ミケラルドは答えられなかった。


「……それはこちらの台詞ですよ」


 言いながらミケラルドが魔人を見る。


「【位置交換】なんて魔法、私は持ってないんですよ。貴方も驚いているようですけど、どうも別の意味で驚いていらっしゃるようですね、魔人さん」


 ミケラルドがそう言うと、ゲオルグは魔人の背中を見る。

 だが、魔人は何も答えなかった。

 直後、ミケラルドはまたも驚きを見せた。


「っ! 魔法っ!?」


 魔人はこれまで剣や拳などの体術を使って戦っていた。

 しかし、その魔人が手元に魔力を溜めたのだ。

 ミケラルドは攻撃を躊躇(ちゅうちょ)し、後退してしまった。

 リスクを回避するミケラルドの性格が災いしたのか、魔人が()えてそれを狙ったのか。

 警戒したミケラルドの前で発動した魔人の魔法は、またもミケラルドを驚かせた。

 魔人の手元に見える闇のオーラ。


(闇魔法……? だがあんな魔力じゃ――)


 その瞬間だった。

 魔人は何も言わず、ただニヤリと笑ってからその魔法を発動したのだった。


「あれは……クソッ!」


 その魔法がわかりミケラルドが慌てて駆け出すも、魔人の魔法発動の方が早かった。

 ミケラルドが最速の魔力砲を放つも、それが魔人に当たる事はなかった。

 闇魔法【闇空間】。

 魔人は【闇空間】の中に飛び込んだのだ。

 ラティーファ屋敷跡に残ったのは、茫然とするゲオルグと、悔しそうに肩を震わせるミケラルドのみだった。


次回:「◆その784 不完全燃焼」

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