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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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◆その778 はじめてのまかいしんこう1

 スパニッシュの首が消滅した時、ミケラルドは顔を歪め、頭を抱えた。


「し、しまったぁっ!?」

「む? どうしたミック?」


 リィたんが聞くと、四つん這いになり後悔を体現したかのようなミケラルドが言った。


「スパニッシュの首を証拠として持って帰らないといけなかった……」

「ん? どういう事だ?」


 小首を傾げるリィたんに、ショックの大きいミケラルドは答えず、代わりにジェイルが答えた。


「各国に魔族四天王を倒した証明が必要だったという事だ」「だが、今回はカメラマンが同伴だろう?」


 そう言って、リィたんは木陰に隠れているラジーンを指差した。木陰にいたラジーンがビクリと反応する。


(何であの位置から私の場所がわかるんだ……)


 ラジーンの付き添いこそ知っていたものの、リィたんはその隠れ場所までは知らなかった。しかし、それでもすぐにその居場所を把握したリィたんに恐怖を覚えつつ、ラジーンは諦めたかのように立ち上がった。


「しっかりと撮影致しました。その胴体と両腕があれば問題ないかと」

「え、そう?」


 言いながらミケラルドの表情が明るくなる。


「いや~、初めての魔界侵攻だから勝手がわからなくてさ」

「は、ははは……そんな散歩のような口調で……」


 困惑するラジーン。


「まぁ、今後は出来るだけ首を傷つけないようにしよう」

「ふむ、そういえばミックはパーシバルに土産を強請られていたしな」

「いや、リィたん……パーシバルのアレはそういう意味じゃないと思うけど?」

「さて、次は牙王レオの首だな。魔界にミナジリ共和国の侵攻が広まる前に北西の根城を叩く。ジェイル、遅れるなよ」

「それはラジーンに言うといい」


 言いながらリィたんとジェイルはラジーンを見る。


「ひっ!?」


 まぁ、レオの根城にテレポートポイントはないから、付いて行くのが一番大変なのは、カメラマンのラジーンだよな。


「ま、まぁ頑張ってよ」


 ミケラルドはそう言いながらラジーンの肩をポンと叩いた。

【疾風迅雷】や【ヘルメスの靴】、【スピードアップ】などの速度強化(バフ)魔法をラジーンに施し、ミケラルドは三人を見送ったのだった。


「塩漬けの首をパーシバルにお土産……か。アイツ泣くんじゃないか?」


 零した後、ミケラルドは北東のラティーファの屋敷に向かうのだった。


 ◇◆◇ 南西 不死王リッチの屋敷 ◆◇◆


 上空に佇む雷龍シュガリオン――シュリ。

 彼女は屋敷を見下ろしながら、事態に気付いたレイスたちを睨む。


「小物が我が享楽を邪魔するな」


 小さな紫電が走り、レイス、アークレイスを消滅させた後、シュリの肉眼は魔族の中でひと際大きな浮遊する骸骨を捉えた。


「いたな、不死王リッチ」

「…………」


 無言を貫くリッチ。


「我が古き記憶では、お前が喋った事はほぼなかったな。だが、その記憶も今日が最後だ。何かあれば聞いてやるが?」


 言うも、リッチは無言のままだった。

 怪訝に思ったシュリが一瞬眉を(ひそ)める。


(逃げるという選択肢以外を選ぶ愚かな奴ではなかったはずだが?)


 シュリも性格上、逡巡(しゅんじゅん)するという事はない。すぐさま空を蹴り、リッチの正面に回る。だが、それでもリッチは動きを見せなかった。


(我が動きを捉え切れぬならば何故出て来た……?)


 そのままシュリが五指を振り下ろす。

 直後、リッチの正面にあった魔力障壁が甲高い音を発して壊れる。それとともにリッチが後方へ吹き飛ぶも、傷を負う事はなかった。


(捉えられた? ……いや、奴の戦力がそれ程あるとは思えない…………っ! そうだ、思い出した! 過去数例しかない不死王リッチの力を!)


 思いながら、シュリは下方にいる無数の不死者たちを見た。


「そうか、リッチの固有能力【同期(リンク)】と【同調(リンク)】か……」


同期(リンク)】――不死者の王であるリッチは、他の不死者の視覚などの五感を共有する事が出来る。

同調(リンク)】――同期(リンク)によって五感共有をした不死者たちに同期(リンク)元と同等の運動性能を与える能力である。しかし、この能力を使うと、同期(リンク)元の運動性能が低下する。


「【同期(リンク)】によって自身の感覚を共有した不死者たちに、【同調(リンク)】によって自身の力を与えた」


 ふわりと浮かび上がってくるレイスとアークレイス。


「魔力こそ上がらないが、運動性能は格段に向上している。なるほど、遠目の矢を捉えるかの如く我が動きを読んだか」


 後方で不死者たちに守られたリッチは、更に魔法を発動する。


「闇魔法【ダークオーラ】でレイスたちの能力を底上げ……なるほど、他の魔族四天王がお前に従う訳だ……!」


 言いながら、シュリはレイスたちを睨む。


(いつかのリプトゥア侵攻もこの力を使えば勝てたはず。なるほど、リッチ自身の能力低下による自死を危惧したか。……それ以上に、勇者と聖女の拉致を優先させたとも言える)


 勇者と聖女への固執。

 魔族四天王リッチの狙いこそ読めなかったシュリだが、このままでは分が悪い。何故なら、リッチと同等の運動能力を持った不死者の数は、既に千を超えていたのだから。


「はっ!」


 次の瞬間、シュリの強大な魔力が解放された。

 過去ミケラルドを追い詰めた以上に発揮されたソレは、魔力の波動だけで不死者を後退させた。


()めるなよ……下郎!」

次回:「◆その779 はじめてのまかいしんこう2」

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