その775 それが筋
女性陣の応援によって力が湧き出た俺だったが、別件で【テレパシー】する相手がいた。
これまで交わした可愛く優しい声とは違い、野太く重みのある、歳に不相応な声だった。
『お久しぶりですゲラルドさん』
『吸血鬼の【テレパシー】……ですか』
『敬意が残っているようでありがたい限りです』
『貴方に敬意を抱けない者は武の道を理解しない者かと』
ちょっと意外。
『いや、少し意地悪をしたつもりだったのですが』
『ふっ、その意地悪とやらが武力行使ではなく安心しました。この時間に私に連絡をしてきたという事は……親父の件でしょうか?』
『えぇ、ちょっと魔界をぶっ潰そうと思いまして、近日中に魔族四天王にこれまでの報いを受けて頂こうかと。当然、魔界にはお父上――ゲオルグ・カエサル・リプトゥアがいますので、ご子息のゲラルドさん連絡した次第です』
『……ご配慮感謝します』
『それが筋、ですからね』
『とはいえ、生死は考慮しないという事なのでしょうね』
『えぇ、彼はそれだけの事をしでかした。可能ならば、貴方と直接話せる場を設けたかったのですが、どうもそうも言ってられない状況になったので』
『切迫しているようですね』
『思った以上に』
『そんな中、世界で一番忙しい国家元首の時間を頂いたのです。感謝こそすれ、恨みなどありません』
それは、きっとゲラルドの本心なのだろう。
悩む時間すら感じさせなかったゲラルドの言葉に、俺は一瞬ぽかんと口を開けていた。
『……入学当初からは想像出来ない口調でビックリしています』
『ミケラルド先生のご指導の賜物かと』
『ははは、かしこまり過ぎですよ。ゲラルドさんにはいつかミナジリ共和国にいらして頂きたい。歓迎しますよ』
『必ずや聖騎士の称号を得て伺います』
『結構です。子細は後日手紙にて知らせます』
『武運を』
『ありがとうございます。では』
そう言って、俺はゲラルドとの会話を終えた。
その後、ラッツとハンにも連絡を入れ、各方面に夜分の謝罪をまぜつつ連絡して回った。
冒険者ギルド総括ギルドマスターのアーダインからは「毎度根回しが好きだな、お前は」と呆れられていたが、彼もまたしっかりと応援してくれた。
そんな俺の大好きな根回しが終わる頃には、夜もすっかり更けていた。
元首執務室を覗きに来たナタリーに「いつまで仕事する気なんですか、ご主人様?」と爽やかな笑みで怒られ、部屋を追いやられた。仕方なくベッドにゴーホームを余儀なくされたが、ナタリーも俺が仕事してた時間まで仕事してたって事なんだよね。
いやぁ、本当に感謝ですわ。
◇◆◇ 翌日 ◆◇◆
「整列!」
剣聖レミリアが緊張の面持ちでそう叫んだ。
しかし、隣にいるドゥムガはそうではなさそうだ。
「ふふふふ、ようやく俺様の時代って訳だな。あのクソスパニッシュの首が飛ぶ光景をどれだけ待ち望んだ事か……えぇ? そうだろ、ガキィ!?」
そう俺に振るも、
「ドゥムガ、口閉じないと連れてかないよ?」
ナタリーの上長命令に一瞬で口を閉じるのだった。
だが、その鰐のような目はギンギンとギラついている。
まぁ、ドゥムガもスパニッシュには煮え湯を一気飲みさせられてるからな、ジョッキで三杯くらい。あんな態度になるのも仕方ないだろう。
「大丈夫ですよ、ガンドフの盾になるだけですし、基本的にはレミリアさん率いる竜騎士団だけでどうとでもなります」
「は、はい!」
「……今頃になって後悔してます?」
にやりと笑いながら聞くと、レミリアはドゥムガにも負けない程ギラついた視線を俺に向けた。
「いえ! これこそが本望ですっ!」
レミリアって、たまにどこか抜けてるところあるんだよなぁ。
聖騎士学校放棄して、ミナジリ共和国の軍属になっちゃうくらいだしな。
レミリアがこっちに来た時はアーダインに嫌味を言われたのは、今となっては笑い話だが、その話を出された時は嫌な汗をかいたものだ。
「お、おい!」
俺を呼び止めるような声が届いた。
振り返るとそこには破壊魔パーシバル君がおりましたとさ。
「ん? どうしたの?」
「ほ、本当に僕を残して行く気か……?」
「だって、ミナジリ共和国の防衛線を連れてく訳にもいかないだろう? 陸はフェンリル、空はグラムスとパーシバルって決まりだろ?」
「お前、最初からそのつもりだったろっ! こんな危ない国、どこの誰が攻撃仕掛けてくるってんだよ!」
なるほど、子供だから戦争に連れ出されないという事に不満があるようだな。だが、それがヤツとの契約だ。
これはどうする事も出来ないのだ。
「保険だよ保険」
手をひらひらさせながら流すも、パーシバルは納得いってない様子だった。
「その【魔力タンクちゃん】があれば、お前の実力はZ区分だよ。だから安心して任せるんだからな」
「くっ!」
「だけど、ミナジリ共和国に何かあったらお仕置きだからな」
「こ、子供扱いするな!」
ツンと顔を背けるパーシバルだったが、残念。そこにはエロ爺の顔があるのだった。
「げっ! 師匠っ!?」
「空の監視っちゅー自分の任務さえまともに出来ないやつが何寝言ほざいとるんだ、お前は?」
まぁ、その任務をほっぽって俺のところに来たのだ。
グラムスに怒られても仕方ないだろう。
「そりゃ子供扱いされるわ」
「くぅ! い、いいか! 絶対に勝って来いよ! それで、土産話をたっぷり用意しとくんだからなっ!」
「それ以上に、置き土産話のが気になるね」
「へ?」
「だってこれからグラムスからお仕置きだろ?」
そう言って俺はグラムスに視線を向けた。
パーシバルもその視線を追うと、そこには嬉しそうな笑みを零しているドS爺がおったそうな。
「し、師匠! これから任務ですから、僕はこれで!」
「安心せい、今も任務中じゃい! それに、お仕置きは任務の後でも出来るからのうっ! カカカカカッ!」
「そ、そんなぁああ!?」
ホント、ミナジリ共和国にはどこか抜けたヤツが集まっている。
そんな要素でもあるのだろうか。
俺はそんなくだらない事を考えながら、魔界へと転移するのだった。
次回:「◆その776 強襲1」




