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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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その773 謝罪弾幕

『何だと!? 正気かミック!?』

『えぇ、明日にでも魔界に仕掛ける事にしました』

『い、一体何故そんな事になるのだ……!』


 法王クルスが頭を抱えている姿が、容易に想像出来る。


『古の賢者からの助言、としか』

『そ、それはかなりの後押しだな……うぅむ、ミックが行動に移すのも頷ける。そんな状況で私がミックの立場ならば、確かにその通りにしたかもしれない』

『そうだと思います』


 法王クルスの性格は俺によく似ているしな。

 だが、それは個人の感情の話だ。王として大ベテランの法王クルスがそれを理解していない訳がない。


『……わかった。こうしてわざわざ【テレパシー】まで使ってきたのだ。ミナジリ共和国が急いでいる理由もわかる。だが、これはあくまで非公式だ。後ほど、書面にて各国にも連絡しておくのがいいだろう。まぁ、ロレッソ殿が既にやっているだろうがな』

『ははは、優秀な部下に恵まれました』

『だがなミック』

『はい』

『これは響くぞ(、、、)

『わかっているつもりです』

『わかっているならいい。私としてはミックと争う気はないが、もしかしたら……いや、この話は後にするべきか』

『ありがとうございます』

『武運を祈る』

『それでは失礼します』


 そう言って、法王クルスとの【テレパシー】は終わった。

 その後も、各国に謝罪【テレパシー】を送りまくった。

 皆応援こそしてくれたものの、やはりミナジリ共和国としては悪手だという事は忠告してくれた。


 ――これは響くぞ。


 法王クルスの言葉が重く心に残っているのがわかる。

 もしかしたらギルド通信の相手――古の賢者が偽物かもしれない。

 単なる狂言だったのかもしれない。

 そう捉えるのは簡単だ。しかし、俺の頭はそう捉えられなかった。

 そもそも、魔族四天王を倒すという案自体は俺も賛成なのだ。

 魔族四天王を倒せば、今後勇者エメリーや聖女アリスへのちょっかいもなくなるだろうし、不安の根源が拭える。

 (きた)る魔王復活まで、地盤を固めるだけという目標の一本化も可能だ。

 しかし、各国との関係の亀裂は免れない。

 国のトップが応援していたとしても、それは国家全体の意見ではない。後の歴史は他国の怠慢ととるか、ミナジリ共和国の暴走ととるのか。

 もし作戦が成功した場合、他国の怠慢という結果は、他国にとって受け入れがたいだろう。

 ならば、その結果を歪曲させるのが歴史であり国家なのだ。

「もっと上手くやる方法はなかったのか」と思う反面、「あぁ、こうして歴史が作られていくんだろうな」という達観した感想も出てきてしまう。


「はぁ……」


 深いため息を吐いた後、俺は自身の頬をパシンと二度叩いた。


「おし! もうなるようになるしかない!」


 そう言って気合いを入れ、覚悟を決めた直後、元首執務室へ【テレフォン】の連絡が入った。

 もう夜も深い。こんな時間に連絡してくるのは一体誰なのか。

 そう思い、魔力の波長を調べてみると……あらビックリ。


『き、聞こえてますか……?』

「聞こえてますよ」

『……お久しぶりです』

「お久しぶりです、アリス(、、、)さん」


【テレフォン】の連絡を入れてきたのは、今しがた俺が心配していた聖女アリス。

 もしもの時用に、勇者エメリー、聖女アリスには【テレフォン】のマジックスクロールを与えてあるのだ。

 しかしどうした事だろう?

 こういった時分に連絡してくるのは、アリスにとってNG行為なのではなかろうか?

 それに気になるのは……やたら小声なんだが、それは何故なのか?


『えっと……ナタリーさんに聞いて……その……』


 なるほど、ナタリーから俺が魔族四天王殲滅に動く事を聞いたのか。だが、やはり小声だ。ちょっと聞いてみるか。


「ご心配ありがとうございます。それで、何でそんなに小声なんですか?」

『それはその……ちょ、ちょっと押さないでくださいっ……!』


 聖女アリスは深夜、誰かに押されているらしい。

 いかがわしい事を想像してしまう俺だが、アリスの貞操が俺の頭ほど緩いとは思えない。


「……もしかして、寮の部屋に皆さん集まってるんですか?」

『あ、バレちゃったかー!』


【テレフォン】越しに聞こえてきたのは、キッカの声だった。


『ミケラルドさーん! 私もいますよ!』

『エメリーさん、シーッ!』


 結局アリスの声が一番うるさいな。

 なるほどな。聖騎士学校の冒険者寮に、皆集まっている訳か。

 学校関係者に深夜の密会がバレると怒られるし、仕方ないか。


「皆さんお久しぶりです。音の遮断はしていないんです?」

『私たちの三人の中じゃ誰も風魔法使えませんからねー』


 と、笑いながらキッカが説明する。

 確かに、この三人だとそういう事になるか。

 しかも、音の遮断は風の膜でするものだから、魔法でやるというものでもない。風の魔力を応用するのだ。つまり、魔導書(グリモワール)で覚える事は出来ず、風魔法の適正がなければ使えない。


『でも、こんなに大事な事……私たちに教えてもよかったんですか?』


 エメリーやアリスは聞かないが、キッカなら気になって聞くよな。


「ナタリーが大丈夫って判断したなら大丈夫だよ」

『へー、信頼してるんですねぇ~――わっ!?』

『わ、私たちに何か出来る事ありますかっ?』


 キッカを押しのけたであろうアリスが、心配そうな声で聞く。

 夜中に美少女たちと通話という思いがけない報酬は、もしかしたら魔族四天王殲滅の前払いなのかもしれない。

次回:「その774 前払い」

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