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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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773/917

その770 魔力の痕跡

2022/1/13 本日一話目の更新です。ご注意ください。

 皆にオリハルコンの輸送を任せた後、俺と拳鬼はリプトゥア国のミケラルド商店まで転移した。

【歪曲の変化】を使い透明になった俺と拳鬼がやって来た場所は、人通りが少ないという訳ではなく、大通りという訳でもなく、視界には必ず一人か二人は人が見えるような……そんな場所だった。


『ここ?』


 念のため【テレパシー】で会話。


『はい、この小さな家に子供たちは入って行きました』

『わかった、それじゃあ拳鬼は皆の手伝いをよろしく。ありがとうね』

『何が起こるかわかりません。ご武運を』


 そう言って拳鬼が消え、俺は家の壁に手を触れた。

 やはり、奴隷契約の魔力痕跡がある。

 しかし、それは家の外まで。中は完全に魔力の波が見えない。遮断されていると言っても過言じゃないくらいだ。

 だが、入れないという訳ではない。

 何だ、これ……まるで誘い込まれているような感じがする。

 中の様子を伺おうにも壁抜けが……出来るんだなこれが。

 どうしよう、入っていいものか?

 だが、これを放っておく手はない。

 家の中で顔だけ覗かせると、そこはごく一般的な間取りの何もない家のように見えた。

 ……どういう事だ? 家の中に入ってまで、魔力を探知できないなんて……?

 家の外壁には何の仕掛けもない。ならば、一気に入ってしまおう。


「……こんばんは」


 挨拶は重要だ。

 なにしろこれは不法侵入。ミナジリ共和国って国に知れたらクロード新聞の見出しにされてしまう。

 挨拶をすれば、もしかしたら不法侵入を回避出来るかもなんて浅ましい事は考えていない。たぶん。

 ……おかしい。人の気配すらない。

 俺は家の中を物色物色。

 しかし、それでも目立ったものは発見できない。

 最後に家の外への扉が近く――リビングとでも言うべきだろうか。一番広い部屋へと出て俺は驚愕した。


 …………まじか。


 壁に面して置かれている一人用の机と椅子。

 その机の上に、俺がよく知るものが置かれていたのだ。

 それは、かつて冒険者ギルドの支部同士が、遠方にもかかわらず通信する事が出来ていた過去の遺産とさえ言えるオーパーツ。

 ――ギルド通信。

 水晶型のこれは、間違いなくギルド通信だ。

 俺が【テレフォン】に総とっかえしたものの、未だどこかで使われていると思っていたが、まさかこんなところにあるとは。

 しかし、一体何故これが?

 光魔法【解析(アナライズ)】で見ても、どこもおかしな点はない。盗聴機能もしっかり付いてるが……もしや!

 俺は椅子に腰かけ、ギルド通信の横で、机をトントンと叩いた。まるでノックのように。

 すると、間髪容れずにギルド通信が反応したのだ。

 うわお、マジか。

 本当に釣られてたんだな、俺。


『……久しぶりだな』


 しかも相手は――、


「えぇ、助けて頂いてからですから、半月ぶり……でしょうか?」

『あんなものは助けた内に入らない。が、恩に感じているのであれば、しばらくそこを動かないで欲しいものだな』

「【古の賢者(、、、、)】殿からの招待ですから、断る訳がありませんよ」


 声の主は、いつぞや俺が寄生している正体不明の存在を、強引に黙らせた、同じく正体不明の古の賢者。

 彼が子供奴隷を使って俺をおびき寄せるとは意外だ。

 いや、待てよ?


「もしかして子供の奴隷なんて最初からいませんでした?」

『察しがいいな』

「【歪曲の変化】か【立体映像(ホログラム)】か、どちらにせよプリシラさんの師ならば容易い事でしょうね。しかも、【魔力探知】を掻い潜ってこの家を用意したとすれば、全てが私をここへ誘導するための()()だったと」

『あからさまだったが、ようやく引っかかてくれたな』

「最初に気付いた時に動ければよかったんですけどね。それで、プリシラさんより早く会おうとしていた理由は……やはりプリシラさんの死が関係しているんでしょうか?」

『それもある』


 プリシラの予知眼、俺と会わなければ彼女の死は確定しなかった。今言ってしまえば結果論だが、古の賢者もこの事は知っていたのだろう。

 だからこそ、俺と直接会う事を考えていた。

 ……が、俺が見落としてしまったせいで、俺はプリシラと会う事になってしまった、か。


「しかし何故、子供奴隷で私を? もう少し別のアプローチならば私も気付けたのでは?」

『私が身を隠している事は知っているはずだ』

「木を隠すなら森の中……あの時期の奴隷騒動にご自身の存在を隠す事で私を呼んだという事ですか」

『さて、どうだかな』

「しかし、今回はより目立った動きで私を呼んだ。そうまでして私を呼んだ理由とは一体?」


 そう聞くと、古の賢者はしばしの沈黙の後に答えた。

 重く、険しい声で……。


「忠告だ、今すぐ魔族四天王を倒さなければ後悔する事になるぞ」


 意外にも、現在俺が取り組んでいる内容だった。

 しかし、どうも引っかかる言い方だ。


「……私より貴方が行動した方がてっとり早いのでは?」

『私には世界の監視と観測という重要な使命がある。その程度の些事に構っている暇はない』

「まるで霊龍の代わりだとでも言いたげな口ぶりですね。後悔とは一体どういう事でしょう」

『言葉の意味すら解さないか』


 その言葉は、どこか苛立ちが交じっていた。

 いや、待てよ?


 確か今…………――後悔する事になるぞ(、、、、、、、、、)

次回:「その771 反芻」


※昨日更新出来なかったので、本日もう一話更新予定です。

この数日、生活が不規則で更新も不安定で申し訳ありません。

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