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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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772/917

その769 オリハルコン共和国

2022/1/11 本日二話目の投稿です。ご注意ください

「「っ!?」」


 暗部の面々の顔が引き攣る。

 オリハルコンの山に目を疑い、首を振った者までいる。

 安全第一のヘルメットを被ったナタリーが、ピッピと笛を吹いて全員を集合させる。


「はい、それじゃあ全部運び出してね」


 指示はたったそれだけだった。

 ナタリーがパンパンとせかすような拍手をした後、暗部の人間たちは「えぇ……」という顔を……何で俺に向けるんだよ。

 どれだけナタリーの存在が怖いのかわからないが……まぁ、俺が暗部にいたとしても同じ反応してたかもしれないから黙っておくけどな。

 その後、張り切ったリィたんと雷龍(シュリ)がオリハルコンを運搬に適したサイズに斬り、暗部たちが【闇空間】で拾い集めるという面白い構図が出来上がった。


「うん、訓練にいいじゃん」


 ナタリー大明神は終始ご満悦である。

 俺は最初の暗部たちのように顔を引き攣らせナタリーの横顔を見ていた。


「あ、そうだミック」

「は、はっ! 何でしょう!?」

「何ビクついてんの?」

「あ、いや……遺伝子が反応しちゃって。脊髄反射かな?」

「何それ?」

「あ、いや何でもないです。それで、どうしたの?」

「ミックがこっちに来てる間にリーガル国から連絡が入ったよ。これ、ロレッソからの伝言ね」


 と、言われ、俺はナタリーに渡されたロレッソからの手紙を読んだ。


「何だって?」

「……どうやらサマリア港の一部を格安でレンタルさせてくれるみたい。【魔導艇】を造る名目で切り開くのも問題ないだって」


 そう言うと、ナタリーはほんの少し驚いた表情を見せた。


「へぇ~、相談に行ったのってついこの前でしょうっ? よくそんなに早く意見が通ったね?」

「リーガル国も、早いところ【魔導艇】っていう切り札(カード)が欲しいんだろうね。それに、意見を通すのは意外に簡単なんだよ」

「へ?」

「リーガル国で俺がまだミナジリ子爵だった時の功績が、今も残ってるって事」

「あー、確かに」

「それに、ミナジリ共和国になってからもリーガル国には恩を売ったしね。目の敵にしてた貴族連中も、おこぼれはあるだろうから、反対意見は少ないんだろうね。まぁ、それ以上に港がサマリア領って事もあるんだろうけど」

「ふ~ん、来週は世界会議でしょう? そしたらこの後どうするの?」

「今の内に魔導艇の設計図を見直して、外装をポイント毎に造っておくかなー」

「でも本当なの? 試作艇(プロトタイプ)ミック一人で(、、、、、、)造るって?」


 心配そうに見るナタリーだったが、俺はぽんと胸を叩いて行った。


「大丈夫大丈夫、暇な時にしかやらないし、俺には【分裂】があるからね」


 そう自信満々に言うと、ナタリーは心配という表情から怪訝な顔つきに変わった。物凄い変化を見た気がする。


「何か企んでる顔だよね?」


 本当に鋭いな、この子。


「……じー」


「私にも教えない気か?」という視線である。


「悪いけど、ナタリーにも内緒」

「えー、つまんなーい!」

「じゃあヒント」

「え! 何々!?」

首飾り(コレ)と同じ手法で造る」

「それって、ミックがシュリと戦った時に使ったすんごい【魔力タンクちゃん】だよね?」


 コテンと小首を傾げるナタリー。

 くすりと笑う俺に、ナタリーはまたじーっと見て来た。


「悪い事企んでるでしょ?」

「人聞き悪いな?」

「誰かを騙しそうな顔してる」

「はははは、それは間違ってないかもね」

「へ?」

「騙すんだよ、世界をね(、、、、)


 終始首を捻っていたナタリーだったが、仕事もあるので俺はミナジリ共和国に戻って来た。

 元首執務室へ赴くと、そこにはラジーンともう一人――リプトゥア国に使いに出していた【拳鬼(けんき)】がそこにいた。


「「おかえりなさいませ、ミケラルド様」」

「ただいま。拳鬼、首尾はどうだった?」

「はっ、やはりリプトゥア国には未だ奴隷の子供が残っているようです」


 以前リーガル国の首都リーガルのギルドマスター【ディック】に言われた報告。それについて暗部に調べさせていたが、このタイミングでわかったようだ。

 俺を調べる子供奴隷。まさか本当に残っていたとは。


「雇い主は誰?」

「調査したところ、どうやら相手は計り知れない存在かと」

「拳鬼にそれだけ言わせるってどういう事?」

「【魔力探知】に引っかからない場所に身を隠している様子」

「「っ!」」


 それを聞き、俺とラジーンは驚いてしまった。

【魔力探知】は奴隷たちを見つける最速の手段。

 しかし、これを有しているのは発明した俺、ミナジリ共和国だけ……だと思っていた。しかし、この対策をしているという事は、相手もこの魔法を知っているという事だ。

 子供奴隷が見つからない訳だ。リプトゥア国奴隷解放作戦時は身を隠していたのだろう。

 ならば相手を警戒するのは当然と言える。

 ナタリーのしごきによって、SSS(トリプル)相当にまで育った拳鬼の言葉だ。ここは慎重に動くべきだろう。


「ミケラルド様……いかがいたしましょう? 暗部を引き連れ私が行きましょうか?」


 と、ラジーンが言うも、俺は首を横に振った。


「いや、ちょっと危ないから俺が行くよ」

「かしこまりました。拳鬼」

「はっ、私がご案内致します!」


 そう言って、俺のリプトゥア国行きが急遽決定したのだった。

【魔力探知】を掻い潜る子供奴隷の雇い主……怪しいな。

次回:「その770 魔力の痕跡」

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