その765 世界テレフォン会議1
「ミケラルド様、本当にグループ通話が?」
「うん、それは調整しておいたから安心して」
ロレッソにそう言うと俺は、法王国、リーガル国、シェルフ、ガンドフに向け【テレフォン】を発動した。彼らに渡した【テレフォン】を弄る事は出来なかったので、こちらの【テレフォン】を四カ国に対して送受信出来るようにしたのだ。
だから法王クルスが声を出そうとも、それは俺のテレフォンを通じて他国にも届くという流れだ。
「皆さん、聞こえますか?」
『うむ、聞こえるぞ』
まずはリーガル国のブライアン王から返事があった。
『お久しぶりですな、ミケラルド殿』
シェルフのローディ族長。
『今日は是非建設的な話がしたいものだな』
議題が議題なだけに、一番張り切っているのが、ガンドフのウェイド王だろう。
『それでは始めようか』
法王クルスにも問題なく届いているようだ。
さぁ、これから世界の命運を決める大会議の始まりだ。
◇◆◇ ◆◇◆
『それでは、今回の世界会議の発案者として、ミケラルド殿の話から伺おう』
クルスのしきりによって、議題を振られる。
俺はロレッソと見合い頷き合った。そして、魔族四天王殲滅についての議題を改めて提言したのだ。
『『…………』』
「現在、我がミナジリ共和国の戦力は私、リィたん、雷龍、ジェイル、ワンリルなど、Z区分に届く実力者、および魔族四天王の喉元に届き得る武力を多く保有しております。具体的な実力で言えば、私一人で魔族四天王全員を葬る事も可能です。しかし、独断でこれを成す事は世界への裏切りに等しい。ならば、各国の理解の下、魔界に矛を向けるのが正道。そう思い、今回の議題を取り上げるようクルス殿にお願いした次第です。特に、ガンドフは魔界と隣接する関係上、この議題は慎重に取り扱いたいはず。今回だけで結論を出す気はありません。しかし、いつかはやってくる絶望よりも、今危機感をもって魔族と相対する事が、世界にとって必要なのだと私は考えております」
そこまで言うとクルスがウェイドに言った。
『というのがミナジリ共和国の主張だ。確かに我らにとって魔族四天王は目の上のたんこぶと言える。シェルフ、リーガル国、ガンドフ、法王国、どれもが魔族に煮湯を飲まされてきた事だろう。しかし、藪を突けば何が出てくるかわからないのが魔界だ。ミケラルド殿が言われた通り、魔界隣接国のガンドフは、これに対しどうお考えか?』
『正直な話、今回の話はガンドフとして正式にミナジリ共和国に協力するつもりでいる』
なるほど、最初の発言以上に今回の一件はガンドフは乗り気だ。
まぁクルスも言ってたしな。反対する理由がないって。
『ガンドフとしては支援出来るものがあれば何でもしよう。が、しかしだ……世界会議の決定をもって次の段階に進むというのはこちらの理解と遠いところにある。ミナジリ共和国としては直接ガンドフに交渉する手もあったのではないか?』
おっと、思わぬところで矛先が向いたな。
ぶっちゃけ回りくどいしな。
ガンドフとしてはモヤモヤするのもわかる。
『ミケラルド殿、何かあるかね?』
法王クルスの言葉に促され、俺はガンドフに伝えた。
「世界の利益のため、とお答えすればウェイド王の理解にも届くのではないでしょうか?」
『ふむ、詳しく聞かせてもらおう』
「たとえば、ミナジリ共和国とガンドフのみで魔族四天王を倒したとしましょう。世界的に見ても賞賛の声が集まるでしょう。しかし、参加しなかった国、何も知らなかった国はこれを快く思わないかもしれません。そして、後の歴史が語るでしょう。魔族討伐に参加しなかった痴れ者……と」
『なるほど、世界の国々の軋轢を生まぬため。後の歴史の事を考慮したか。世界の利益……ふっ、実にミケラルド殿らしい考え方だ』
目を丸くした俺はロレッソに小声で聞く。
「これって褒めてる? 嫌味あり?」
「世辞を言い合う関係ならば、この世界会議は必要ありません」
褒められている事を強調するロレッソに、俺はホッと一息吐く。すると、今度はシェルフからの声が届いた。
『よろしいかな?』
『ローディ殿、いかがしただろうか?』
『魔族四天王に狙われた過去のある国の長として申し上げる。我がシェルフは……既に結論が出ている』
『ほぉ』
凄いな。この短期間で結論をまとめたのか。
『以前、答えを引き延ばした結果、大変な目にあいましたからな』
それはもしや、龍族の訪問というやつでは?
これを聞き、ロレッソが俺に耳打ちする。
「すみません、これは嫌味でしょう」
「せめて世辞が欲しかった」
「とはいえ、これで手打ちにしようという心根が見えますね」
まぁ、後でバルトに聞いたら本当に大変だったらしいからな。
これくらいの嫌味くらいは言われる……か。
『シェルフは、魔族四天王殲滅に支援する用意がある』
『なるほど、シェルフの団結力を見せてもらったな。ミケラルド殿』
クルスの言葉に、俺も同意を示す。
少数のエルフという利点を利用した早期決断。素晴らしいの一言だ。
「えぇ、というより刃を磨いていた、ととるべきでしょうか」
『ふふふ、あの一件からミナジリ共和国には頭が上がりませんな』
そんなローディの言葉の後、クルスは沈黙を守っていたブライアンに聞いた。
『では、リーガル国はいかがか?』
さて、かつてのご主人様はどうだろうか。
次回:「その766 世界テレフォン会議2」




