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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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その754 深夜の密会1

「あ、今の顔いいですね。額に収めて飾りたいくらいです」


 言うも、オリヴィエはそれきり黙ったままだった。

 しかし、十一月という季節が俺に味方したのか、窓ガラスを割ってヒーローごっこしたのが良かったのかわからなかったが、窓から入ってきた寒気(かんき)がオリヴィエを襲った。


「……うぅ」


 俺は割れたガラス片を【サイコキネシス】で回収し、【闇空間】へ。そして、窓を【土塊操作】で強引に塞いだ。

 まるで、最初から窓なんてなかったかのように。

 その流れで、テーブルと椅子をオリヴィエの前に置き、ティーポッドを取り出した。


「お掛けください、温まりますよ」

「そのような事で懐柔されたりしませんよ」

「懐柔しようなんて思ってませんよ。【オリヴィエ姫懐柔作戦第二弾】が失敗した事でその線はなくなりました」

「第二弾ってどういう事ですの……」


 ガクリと肩を落としたオリヴィエは、諦めたように椅子に腰かけた。……が、視線は合わせてくれない。


「オリヴィエ殿の目の前で超カッコよく振る舞って、惚れてもらおう……というのが第一弾です」

「わたくしとしては、何故そのような愚行に走ったのか理解出来ません」

「勿論、ゲバン殿の愚行を公にするためですよ」

「先程からのお父様への無礼、一国の元首だとしても許せるものではありません」

「よかった、ゲバン殿がクルス殿の回復に時間をかけた事は無礼を通り越して反逆にすら値しますから、私の方がまだマシという事ですね」


 そう笑って言うと、オリヴィエは目元をピクリとさせた。


「常識を疑うような発言ですね」

「ゲバン殿も非常識ですし、お互い似た者同士という事なので、私に懐柔されてくれませんか?」

「真偽が不明確な情報を鵜呑みし、事実であったかのように話すのが貴国のやり方ですか」

「法王国も、私の身体の乗っ取りを信じず、事実であったかのように私を追放しましたが?」

「お父様は違います」

「よかった、なら私も違うという事ですね」


 そう笑って言うと、オリヴィエは目元をピクピクさせた。


「もうこのオウム返しにも飽きたんですが、まだ続けます?」

「……もう結構です。ミケラルド様には何を言っても響かないようですし」

「そうなんですよ。だから本題に移りたいんですが、よろしいですか?」

「これ以上、一体何を話すというのですか」

「『助けて欲しい』発言の真意をお伺いしたく」


 すると、オリヴィエは何を思ったが、そっぽを向いて――、


「そんな事を言った覚えはありませんわ」

「本当に?」

「記憶にございません」


 極まった政治家みたいな答弁である。

 仕方ないので、プロジェクターとビジョンを起動。

 白い壁に映し出される先程の光景。


『助けに来ました』

『……それは、どういう意味でしょう?』

『えーっと、オリヴィエ姫は強欲だという事を耳にしました』

『っ! そ、それって! ま、まさか耳に届くとは思いもせず……!』


【録画機能付きビジョン】によって、先程のやり取りが壁に映し出され、言葉を失うオリヴィエ。


「これを見る限り、『助けて欲しい』の言質はとれませんでしたが、それに続く言葉の発言は、オリヴィエ殿も記憶にあるようですね。あ、お茶冷めちゃいますよ」


 促すと、オリヴィエは観念したかのようにお茶を一気に呑み干した。

 クルスの血筋を思わせる呑みっぷりである。いや、クルスならまだお茶を濁すか。

 というか、この場限り、彼女は姫という称号を脱ぎ捨てたのかもしれない。


「……何故、そのような申し出を?」


 お茶を呑み干し、ようやく俺の目を見てくれたオリヴィエは、どこか不安が残るような表情をしていた。


「お為ごかしの言葉ですよ」

「つまり、わたくしを助ける事でミケラルド様に利があるという事でしょうか」

「というより、世界の利ですね」

「……話が見えませんわ」

「これは国家機密なんですけどね? 【勇者の剣】の製作をゲバン殿に止められまして」

「っ! まさかっ!?」


 がたんと立ち上がったオリヴィエが顔を引き攣らせる。

 どうやら彼女はこの事をまだ知らなかったようだ。

 ゲバンのやつ、オリヴィエにクロード新聞を見せていないのか。そう考えると、オリヴィエの手に渡るまでに、色々な検閲がありそうだな。


「まぁ落ち着いてください。先日クロード新聞でこれをやんわりと暴露したので、法王国民は大まかな内容は知ってるはずです。なので、かごの中の鳥さんであるオリヴィエ殿の耳に届くまで、そう時間はかからないでしょう」

「……いえ、お父様であればその情報すら止めるでしょう」


 これまで長かったが、ようやく愚痴を一つ引っ張り出せたな。


「まぁという訳で、ミナジリ共和国への特派大使のためだけに、見栄え重視の聖騎士団を使ってるあたり、各所からの不満は溜まるでしょうね。そして、これがいかに愚かな事か、法王国民も徐々に理解し始めているようです」

「お父様が……そのような事を……」

「クルス殿や法王国民だけではなく、世界まで裏切っている。しかし、法王国軍部の実権を握っているのはゲバン殿。これでは聖女アリスさんをガンドフに連れ出す事が出来ません。そこでオリヴィエ殿です」


 オリヴィエがことりを小首を傾げる。


「わたくし……ですか?」

「名付けて【オリヴィエ殿に恩を売ってゲバン殿の悪だくみを暴いて信用を失墜させよう大作戦】」


 オリヴィエの目元が、痙攣をおこしている。

次回:「その755 深夜の密会2」

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