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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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その753 リテイク希望

 オリヴィエ姫懐柔作戦第一弾――どうやら俺とリア充とは遠縁の親戚程も縁がなった。

 仕方ないので、夜這いという名のオリヴィエ姫懐柔作戦第二弾――夜這い中に花を贈ってキュンキュン必至作戦に移行したのだが、どうもそれも失敗したようだ。

 あの顔が物語っている。

 ドン引きされた。死にたい。


「あ、あの……」

「はい何でしょう……?」

「何故、このような夜更けにわたくしの部屋に……?」


 この質問は、俺の核心に迫る部分とも言えた。

 だが、これを全て話してしまえば、俺の作戦が公……というかオリヴィエにバレてしまう。


「それに、このように窓が割れているのにもかかわらず、見張りの者が来ないのも不可解です」

「えっと……それは音声遮断の魔法をかけているからですね……」

「何故そのような事を?」

「よ……呼ばれた気がしたから……ですかね?」

「呼んだ……?」


 二人のぎこちない会話は進むも、話の内容は一切進んでないような気がする。

 ロレッソには全責任は俺が取るって言ってやって来たけど、十三の少女にあんな言葉を吐かれたら、俺はいてもたってもいられなかったのだ。

 俺は深い溜め息を吐き、観念したように言った。


「助けに来ました」

「……それは、どういう意味でしょう?」

「えーっと、オリヴィエ姫は強欲だという事を耳にしました」

「っ! そ、それって!」


 ――誰かに助けて欲しい――というのは、強欲というものですよね……。


 オリヴィエは驚きを顔に見せ、火照ったであろう真っ赤な頬を手で覆った。


「ま、まさか耳に届くとは思いもせず……!」

「吸血鬼は人より耳がいいんですよ」

「ミケラルド商店で販売されている【吸血鬼解体真書】にはそのような事……」

「お読みになられたんですね」


 俺の印象を良くしようとエメラとカミナとクロードの三人で出版した本が、法王国の姫にまで渡っていたとは驚きだ。

 クロード新聞に載せた吸血鬼の情報の受けがよかったしなぁ。重版も近いって事で、ナタリーが喜んでいた。


「えぇ……そうです」


 何故読んだのか、というのは彼女には言えないだろう。

 だが、この状況からこれ以上悪くはならない。特に俺は。


「それはやはり、私に近付くためですね」


 だからこそ、俺ならではの聞き方というのもあるのではないか?

 俺がこれまでやってきた最良の方法の大体が、単刀直入ばかりだった。過去、シギュン相手に色々立ち回ったが、今回はそうじゃないような気がする。


「それは……ミナジリ共和国の元首が吸血鬼である以上、法王国の特派大使として来ているわたくしは、その理解を深める必要があるという事です」


 教科書のようなお手本回答だった。


「お為ごかしの言葉は結構ですよ。御父君、ゲバン殿の傍若無人(ぼうじゃくぶじん)っぷりを知らない私ではありません」


 一瞬言葉に詰まったオリヴィエだったが、目を強くして俺に言った。


「……父ゲバンの誹謗(ひぼう)()えて受けましょう。しかし、この出来事をわたくしが法王国に持ち帰るという事もお忘れなきよう」

「それは構いません。現状法王国から絶縁状態なので、正直それが何かしら変わるのでしたらこちらもやりやすい。ですが、そうなるとオリヴィエ殿の利にならないのも確かでは?」

「知った風な口を()かれるのですね。昼行燈(ひるあんどん)という言葉は、ミケラルド様のような方に相応しいのかもしれません」

「ははは、私は昼でも凄いですよ」

「うぬぼれもそこまでいけば称賛に値します」


 流石アイビス皇后の血筋、気が強いのなんのって。

 だが、二回の訪問で見せた顔とは明らかに違う顔。

 本当の顔乃至(ないし)、これまでとは別の顔を見せてくれたのは、一歩前進かもしれない。


「ですが、オリヴィエ殿を助けられるのは私以外にいないような気もしますが?」

「っ! 貴方にわたくしの何がわかってっ!?」


 これまでの偽証詐称を払拭するような、全てを吹き飛ばすかのような本心。部屋にりんと響いたオリヴィエの本意は、向けられた敵意以上に清々しいものだった。


「はて? 今、それを聞き出している真っ最中ですが?」

「っ……それが貴方の本当の顔という訳ですか」

「昼も出来るだけ出してたつもりなんですけどね。オリヴィエ殿も相当なようですが」

「貴国の迎賓館とはいえ、不法に入って来られるような方には敬意を感じられません」

「結構ですよ、その方向で。でも、私はそちらのオリヴィエ殿の方がらしい(、、、)と感じました」

「……盗人猛々(ぬすっとたけだけ)しいとはこの事でしょうね」

「え、何ですって?」

「盗人猛々しいと申しましたの!」


 俺はそう言われると同時、彼女にいつぞやの宝石箱を見せた。


「っ! それは……!」

「そうです、オリヴィエ殿が外の藪の下に埋めたクルス殿へのお土産です。あの時、空でオリヴィエ殿を観察してたんですけど、気付いてませんでした? 法王国では賊に盗まれたって事になってるって話じゃないですか?」

「そ、そのような妄言――」

「――因みに、ライゼン団長とクリス副団長も空にいました。お二人には深い謝意と正式な(ふみ)を頂きましたが、これはまだ公にしていませんし、するつもりもありません」

「……何故、そのような事を?」


 訝し気な目で聞いたオリヴィエ。

 俺は今日一番のミックスマイルを浮かべて彼女に言った。


「だから言ったじゃないですか、助けに来ましたって」

「うわぁ……」


 ドン引きである。

 やはりリテイクした方がいいのかもしれない。

次回:「その754 深夜の密会1」

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