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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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754/917

その751 リア充とは

「そんな微笑んだだけで女の子が恋に落ちるんですかぁ!?」


 間の抜けた声をあげた俺を呆れた様子で見るアンドリュー。


「重要なのは、女性の話の意図を汲んであげる事です。そしてそれを言葉にせず行動で表す事です。ただ微笑むのではなく、『私はわかっていますよ』という理解の笑みです」

「こ、こうですか……?」

「何ともいかがわしい笑みですね」


 そこで微笑まれても、俺はぐうの音も出ないのだが?

 そもそも、ナタリーやクマックスに表情読み取られる俺にそんな事が出来るのだろうか。

 いや、それでも俺にはシギュンと読み合ったという実績がある。しっかり正攻法でオリヴィエを篭絡してみせる。

 この……ミックスマイルで!


「私の暗殺でも企んでいらっしゃるのですか?」

「その前に私の心が死んじゃいますよ!」

「やはりミケラルド殿でも得手不得手があるようですね」

「くそぅ……俺のリア充街道が……!」


 いっその事、【フェロモン】の能力を使ってオリヴィエを……いや、ダメだ。そんな事したら、ナタリーが痛くて、怖くて、臨死体験するような事してくるからダメだ。

 それに法王クルスの孫だぞ?

 そんなの血を吸うのと同義じゃないか。

 やはりこの……ミックスマイルで!


「どのような業を積めばそのような笑みが出来るのですか?」

「ぐはっ!?」


 アンドリューの言葉がとげとげしいというか、最早(もはや)これは抜き身の槍みたいなものだ。

 ストレスで血を吐くところだった。


「はぁ……どうやらミケラルド殿にはこういった類の技は合わないようですね」

「そうですよ。やはり秘伝とか奥義を教えてくれないと……」

「私……こう見えても忙しいのですが?」

「そのジト目に応じた報酬を支払いたい所存であります……」


 深々と頭を下げ、涙目になる俺を見て、アンドリューは再び溜め息を吐いた。

 そして立ち上がり、何度か「う~ん」と唸った後、俺を見て言ったのだ。


「やはりここはシチュエーションに頼るというのはどうでしょう?」

「おぉ! 魔王が襲ってきたところを助けるんですねっ!?」

「そんな下心満載で倒される魔王が不憫でなりません。そもそも、魔王を倒したという功績があれば、法王国も大きくは出てこられないでしょう」

「た、確かにその通りです……でもシチュエーションって一体どんな?」


 俺が聞くと、アンドリューは全く悪びれないような爽やかな笑みで言った。


「夜這いです」

「馬鹿なっ!? 相手は十三歳! じゅうさんさいですよっ!?」

「貴族の姫は生まれる前から婚約者が決まってるものです」

「それとこれとは違うような気がしないでもないような!?」

「何も布団に忍び込むだけが夜這いではありませんよ」

「と、仰いますとっ!?」

「……やけに食いつきますね?」

「いえ、ちょっと興奮してしまいましてっ!」


 苦笑しているアンドリューを前に、俺は自分の顔を揉んでニヤケ面を矯正した。何だろう、こういう中高生的なネタは久しぶりで楽しいのだろうか?

 オリヴィエを夜這い……か。

 ナタリーにバレたら死だな。死しかないじゃないか。

 あの子はきっと墓に入った俺の骨まで、無表情で消滅させるだろう。

 だが、確かに悪くない手だ。


「オリヴィエ殿に夜這いをしようと思う程、好意があると見せるという事ですね……?」

「その通りです、流石はミケラルド殿」


 ミックスマイルをけなしていた人と同一人物だよな?


「相手は元々ミケラルド殿を篭絡したいのです。ならば、相手の土俵に乗り込んでしまった方が、隙を生むというものです」

「なるほど……それで、夜這いをしたらどうすればいいんですか?」

「え?」

「え?」

「それは……ミケラルド殿がどうされたいのかにもよりますが……」


 あぁ、確かにそうだよな。

 つまり、夜這いしたらなるようになるという事か。


「……ですが、正直この方法はおすすめ出来ません」

「へ?」

「念のため言っておきますが、相手は法王陛下直系の姫君です。たとえ何もなくとも『傷者にされた』と言われれば、賠償問題にまで発展するかもしれませんから」

「あぁ……やっぱりそうですよねぇ」

「友人として頼って頂いた事、本当に嬉しく思います。しかし、こればかりは責任がつきまといます故」


 目を伏せて言ったアンドリューに、俺は苦笑で返す。


「問題ありませんよ。念のため、ロレッソに相談してみます」

「十中八九……いえ、確実に止められるでしょうね」

「ですね。でも、このままじゃいけないんですよ」


 そこまで言うと、アンドリューは俺の言いたい事がわかっているかのように頷いて見せた。


「貴族とは(おの)が意見を見せず、曲げる生き物です。ましてや女ともなれば政治の道具というのが必定。ルナ王女殿下もレティシア殿も……ミケラルド殿が見ている世界は広いようで狭い。あの方々は非常に恵まれているという事をお忘れなきよう」


 それは、アンドリューなりの忠告であり、優しさだったのかもしれない。

 俺は、強く口を結び、独りよがりな否定の言葉を抑えこんだ。そして、すんと鼻息を吸って言った。


「わかりました。ご忠告感謝します」

「ご武運を」


 なるほど、締めるところはちゃんと締める。

 こういうところが、アンドリューのリア充たる所以なのかもしれないな。

めりくり


次回:「その752 オリヴィエの場合」

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