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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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その750 指南

 リルハたちとの交渉が終わった後、俺はミナジリ共和国にあるリーガル大使館にまでやって来ていた。

 そこにはクマが訝しみながら俺を睨み、槍を向けてきた。


「……一体何の用だ、ミック?」


 言葉も解するようだ。器用なクマだな。

 それに人間のような格好だ。善良なる隣人でも気取っているのだろうか?

 しかし解せない。何でこのマックス(クマ)は俺の事がすぐわかるんだ?


「ミック? 余はブライアン・フォン・フォンフォンだ」

「ギリギリ突きやがって、姿カタチを陛下にしたってバレバレなんだよ」


 誤魔化してもダメでした。

 まるで、ナタリーやアリスみたいだ。


「参考までに、何でわかった?」

「顔と顔と顔」

「よし、じゃあその三つを修正しよう」


 そう言うと、俺は【チェンジ】を使ってブライアン王の顔から別の顔へ変えた。

 すると、クマの表情が一変した。

 目を見開き血走らせ、鯖折りでもしそうな勢いで俺に向かって来たのだ。


「っ! エメラさんっ!!」

「えぇい寄るな毛むくじゃらめ!」

「んちゅううううう~~~~」

「わかった! わかったっ! もうふざけないからっ!!」


 くそ、放してくれない。

 クマの胸の中で暴れてると、大使館の方から視線を感じた。

 何かこう……冷ややかな視線である。


「あ、アンドリュー殿、お久しぶりです」


 クマの顎髭攻撃を喰らいながらも、俺は爽やかにリーガル大使に挨拶をした。アンドリュー・ロベル・ギュスターブ。リーガル国の子爵であり、ギュスターブ辺境伯の息子である。

 一時は仲違いもあったが、今では気さくに話し合う友人同士である。

 ……であるはずなのだが、やはりアンドリューの目が冷たい。


「マックス、これはどういう事か」

「っ!? ア、アンドリュー様っ!? い、いつからそこに!?」

「エメラ殿に抱き着き襲おうとするところからだ」


 そうか、俺は今エメラの姿だった。


「あ、え? あぁ……こいつはミックですよ」

「何っ?」


 アンドリューの視線が向く。

 俺はチェンジを解きながらアンドリューに言った。


「ほんとほんと。お久しぶりです、アンドリュー殿」

「っ! ミケラルド殿!? マックス、今一度聞く。これはどういう事か?」


 まぁ、マックスも門番サボって俺とふざけてたからな。文句言われても仕方ないだろう。


「ミケラルド殿も」


 俺もだった。はい、すみません。

 俺とマックスはアンドリューの前で直立不動になった。


「マックスさん、釈明を」

「いやいや、ここは俺が口を挟んだらまずいだろ」

「お前は口を当ててきたんだよ。気持ち悪いなぁ」

「エメラさんにチェンジするんだ、仕方ないだろう」

「顔だけだったろ。あんな歪なエメラさん、クロードさんに怒られちまうよ」

「おう、怒られて来い」

「お二人とも」


 いつまでも続きそうなうな密談だったが、アンドリューのジト目が俺たちを止めた。


「「はい!」」

「まずマックス、門番がそれでは感心しないな」

「面目次第もございません」

「次にミケラルド殿」

「面目次第もございません」

「まだ何も言っておりませんが?」


 珍しくアンドリューが呆れていらっしゃる。

 溜め息を吐いたアンドリューが背を向け言った。


「マックス、ミケラルド殿を応接室へご案内しろ」

「はっ!」


 おや?


「あれ、大使館に用があるって知ってたんですか?」

「ロレッソ殿から連絡が入ったのでここまでお迎えに上がったのです」


 流石ロレッソである。


「マックスと騒ぐかもしれないから様子を見に行くと面白いかも、とも」


 さ、流石ロレッソである。


「しかし、最近では陛下やランドルフ様、父上までもがマックスの名を間違えるのは何故でしょうか」

「ほんと、何故なんだろうな?」


 小声のクマが肘で小突いてくる。

 ロレッソもよく間違うからな。

 俺だって八割くらいしか正しい名前を言えてないから仕方ないかもしれない。そういう事にしておこう。

 その後、俺はマックスに案内され、リーガル大使館の応援室までやって来た。クマが去り、俺の前にはお茶が用意される。

 対面に腰掛けたアンドリューが言った。


「昨日は陛下とランドルフ様とお二人とお会いしたとか」

「耳が早いですね」

「ラファエロから【テレフォン】がありました」

「あぁ、早速使ったんですね。大使館とも連絡とれるようにしといたんですよ」

「何やら大きな動きがあるそうで」

「まぁ、近い内に」


 俺はお茶をひと口呑み、濁すように言った。


「しかし解せません。こちらへはどのようなご用件で?」

「明日、オリヴィエ殿がまたいらっしゃるんですよ」

「えぇ、聞き及んでいますが?」

「時にアンドリュー殿」

「……切り口が斬新ですね。嫌な予感がしてきました」

「ラファエロ殿に聞いたのですが、騎士学校では大層おもてになったとか?」

「ぶっ!? が、こほっ! こほっ!」


 お茶が気管に入ってしまったようだ。


「い、いきなり何を……?」

「その端正なお顔と上品なトークで多くの姫を(とりこ)にしたとか?」

「あの、ミケラルド殿?」

「明日、オリヴィエ殿がいらっしゃるんです」

「聞き及んでおります……っ! もしやミケラルド殿っ!?」

「その天性とも言えるジゴロっぷり、是非とも御指南頂きたく……!」


 オリヴィエ姫懐柔作戦第一弾……俺、リア充になる。

次回:「その751 リア充とは」

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