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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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その748 交渉のテーブル

「ようこそミナジリ共和国へ、リルハ殿、ペイン殿」


 深々と頭を下げる宰相ロレッソ。

 隣の俺は、二人に手を振るも、ペインに苦笑され、リルハには呆れられた。


「よかったんですか、ミケラルド商店本店(こんなところ)で?」

「構わない。時は金なり、金は有限なり、だ」


 へぇ、こちらではそんな言葉があるのか。

 ミナジリ共和国にあるミケラルド商店第一号店。

 その応接室に転移して来た二人は、俺たちとの挨拶を軽く済ませようとした。

 だが、それは俺にとって軽いものではなかったのだ。


「久しぶりだな。クルス、ヒルダと共にボロボロにされて以来か?」


 ニヤリと零すリルハに、俺はギクりとしながらも平静を装うしかなかった。


「ミ、ミケラルド様は、見舞い金以外にも正式に謝罪をされたかったそうなのですが、なにぶん法王国には入れないものでして」

「ルークに来させれば良かったんじゃないか?」


 ロレッソのフォローも虚しく、リルハに一蹴されてしまう。

 ま、確かにリルハはルークの正体を知っている数少ない人間だしな。

 しかし……ほんと、イイ性格をしていらっしゃる。ロレッソが黙っちゃったぞ。


「ルークはリーガル国の貴族という事になってるんですから無理ですよ。とはいえ、謝罪の場を設けられなかったのは私の不徳です。あの時は本当に申し訳ありませんでした」


 頭を下げる俺に、リルハは目を丸くしていた。

 ……ん?


「どうしたんです?」

「いや、そこまで丁寧に謝られると、こちらも恐縮してしまう」

「じゃあどうすればよかったんですか?」


 呆れて聞く俺に、リルハは言葉を詰まらせた。

 だからなのか、補佐のペインがフォローする。


「ど、どうやらあれは、マスターなりの冗談だったようです」

「うわぁ……」


 俺の視線に、リルハは気付いているだろう。

 しかし反応を見せないあたり、困っていらっしゃるようだ。

 なるほど、あれが冗談だったとは。

 まぁ、大暴走(スタンピード)を共に乗り越えた戦友とも言える。それくらいの軽口に付き合ってもよかったかもしれないな。

 隣のロレッソを見ると、俺が冗談を言った時の苦笑と同じで、ぎこちない笑みを浮かべていた。

 そして、ペインと視線を交わし頷き合っている。

 もしかして、この二人は似た者同士なのかもしれない。

 ロレッソは俺に、ペインはリルハに振り回されているのだろう。かわいそうに。


「ま、あれは終わった話という事で片付けましょう」

「おい、お前が言う事か?」


 リルハの絡みが面倒臭い。


「時は金なり、金は有限なり、身体も有限なり、ですよ」

「覚えたての言葉に付け足すな」

「それで、こちらに足を運んでくださったという事は、商人ギルド招致の件、前向きに考えてくださっているという事ですか?」

「確かにあの話(、、、)が本当ならば、マッキリー以外にも商人ギルドを置く事を考えねばならない」


 あの話――ダイヤモンドの事か。

 まぁ、ミナジリ共和国には山こそあれど鉱山なんてないしな。そろそろ別の企画も動かしたいけど、それはまだ黙っていた方がいいだろう。今回重要なのは、【魔力タンクちゃん】とダイヤモンドのみで商人ギルドをミナジリの地に呼ぶ事。


「ロレッソ」

「はっ」


 俺の言葉と同時に、ロレッソは【闇空間】を発動した。

 中から取り出したのは長さ五十センチ程の、大き目の宝石箱。ロレッソはそれをテーブルに置き彼らに見えるように開いた。


「こ、これは……!」


 ペインの驚きの言葉。

 リルハは目を見開き俺を見る。


「上段から【ポイントカット】、【テーブルカット】、【ローズカット】、【ステップカット】、【オールドマインカット】、【オールドヨーロピアンカット】、【ラウンドブリリアントカット】です。指輪、ペンダント、ティアラ、錫杖など、様々なサイズに応えるため、十段階ほどのサイズをご用意しました」


 大小合わせて七十ものダイヤモンドに、言葉を失う二人。

 そんな二人が注視しているのは、やはり法王クルス用と同じサイズの巨大ダイヤモンドである。


「マスター……」

「……なるほど、確かにこれだけのダイヤモンドがあれば輸出は困らないだろう。この加工技術も既に最大輸出国のガンドフを超えている。法王国、リーガル国、リプトゥア国の貴族、商家は大枚をはたくだろうな」

「ミスリルやオリハルコンにはない輝きがありますからね。もしよろしければこちらはお持ち帰りください」


 そう言うと、リルハが珍しく驚きを目に宿らせた。


「正気か? 屋敷付きの領地を買っても釣りがくるぞ」

「商人ギルド【ミナジリ支部】を建てるなら、幹部連中を黙らせるのに必要でしょう?」

「そこまで商人ギルドを動かしたい理由は何だ? ここからマッキリー支店までそう遠くはないだろう? そうまでして商人ギルドを招致したい理由が見当たらないのだが?」

「政治のためでもあります」

「クルスの件か」

「世界のためとも言えますね」

「あのクロード新聞には笑わせてもらったが、そこまで深刻なのか」

「正直、早いところ【勇者の剣】を造りたいんですよ。というか、世界がこんなに危ないってのに、何故か危機感なさすぎなんですよねぇ……」


 シクシクとわざとらしく顔を覆う俺だったが、こんな事でリルハは言葉を弱めたりしない。


「まだありそうだな?」


 リルハの言葉に、俺はてへぺろと舌を出して言った。


「勿論、世界流通の中心が、これからミナジリ共和国になるからですよ」


 ニヤリと笑った俺に、リルハは今日一番の唖然とした顔を見せてくれたのだった。

次回:「その749 資源」

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