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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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その743 鍛治師ガイアス

 店の奥にある鍛治工房。

 そこから聞こえてくる面倒臭そうな声。


「本当に俺様の仕事を邪魔してまでの事なんだろうなっ!」

「勿論でさぁ! 親父言ってたじゃないすか! 『てめぇの眼鏡で計れねえシロモノが来たときゃ呼んでいい』って!」

「てめぇの眼鏡なんざ曇り切ってるからな! そんじゃ見せてもらおうじゃねぇか!」


 と、奥からやってきた炭だらけの顔。

 以前、【勇者の剣(仮)】を渡された時以来だが、相変わらず小さい爺さんドワーフである。

 顔より白髭のが面積あるんじゃないかってくらいだ。

 鍛治師ガイアス。世界が誇るオリハルコンの武具を唯一扱える職人である。

 ガイアスはチラリと俺を見た後、カウンターに載った蒼空の羽衣を見る。ゴツゴツした手ながら、羽衣を扱う手つきは非常に柔らかく()つ繊細だった。

 再び俺に視線を戻したガイアスはカウンターの隣のスイングドアを引いて招くように言った。


「入んな」


 首をクイと鍛治工房へ向け、そちらへ歩いて行くガイアス。


「お、親父……?」


 店員の疑問なんて意に介さず、ガイアスは奥に消えていく。


「驚れぇた……親父が工房に人を入れるなんて……」


 俺は羽衣を持ち、そう零した店員に黙礼した後、ガイアスを追って行った。


 久しぶりにやって来た鍛治工房。

 やはり、周りに人はいない。

 手拭いで汗を拭うガイアスがじっと俺を見る。


「随分久しぶりじゃねぇか、若造」


 ニヤリと笑うガイアス。

 なるほど、この人は気付いていたのか。


「お久しぶりです、ガイアスさん。よく私だとわかりましたね?」


 言いながら姿をミケラルドに戻すと、ガイアスは言った。


「そもそも隠す気がなかっただろ。お前さんが本気で隠そうととしたら、流石の俺様でもわからねぇよ」

「名工の神眼ってところでしょうか」

「はっ、煽てるのがうまいじゃないか。こっちはミナジリ共和国から流れてくるオリハルコン武具に、いっつも嫉妬してるってのによ」


 やっぱり、オリハルコン武具の安売りをし過ぎたか。

 多方面に売る事ばかりを考え、ガイアスの面子を蔑ろにしすぎたか……?


「だが、尊敬もしてる」

「っ!」


 ちょ、ちょっとびっくり……。


「まず、剣鬼オベイルの鎧だ」

「オベイルさんの?」

「鍛造で鎧を作るとは思わなかったぜ。普通は鋳型に流し込んで形を整えて(しま)いだ。驚いたぜ。他の武具もみーんな鍛造たぁ、流石の俺様も開いた口がしまらねぇよ」


 流石の俺様、本日二回目でございます。


「次に緋焔の武具だ」


 ラッツたちか。


軽鎧(けいがい)の繋ぎにミスリルの糸とは、流石の俺様もいよいよ廃業かと考えたもんだ。デザインもいい。しっかり装備するヤツの事を考えてる証拠だ。ラッツの大剣もハンの双剣もキッカの杖も、どんな技術、魔法を使うのか理解してねぇとあれだけの拘りは出来ねぇってもんだ」

「ど、どうも……」

「気になるのはレミリアの武器だ」

「あ、はい?」

「他の武器よりも作りが荒いがどういうこった? 流石の俺様もそこはよくわからなかったぜ」

「あー……まだオリハルコン武具に手を出し始めた直後だったからですかね? 魔力が安定してきてから前のオベイルさんや緋焔の武具を造りましたからね」

「なるほどな、時期的に鍛治を始めたばかりの作品だったのか。だが、魔力ってのはどういうこった? あいやまだだ、俺様が気になってるのはそれだ!」


 ガイアスが指差したのは、俺の持つ蒼空の羽衣だった。

 ぎろりと向けられた目は、それはもう驚く程に血走っていた。

 俺はガイアスに見やすいように羽衣を広げた。

 徐々に近付いてくるガイアスが再び羽衣に触れ、網目を覗き込む。


「オリハルコンの……糸、だよな?」


 窺うように聞くガイアス。

 交互に俺の目と網目を見ている。

 その目は、まるで新しいおもちゃを買い与えられた子供のように純粋だった。


「これだけの粘度をどうやって出した?」

「ミスリル以上の金属に、適量の魔力を圧縮して練り込むだけですよ。勿論、それ相応の魔力が必要ですし、鍛治(ブラックスミス)錬金術(アルケミー)は必須ですけどね」

「また魔力……か。流石の俺様もちとわからねぇな」


 まぁ、言ってわかるものでもないしな。

 これは実際にやってみないと理解できない技術だろう。


「そこで、だ!」


 中々に興奮していらっしゃる。


「無礼を承知で頼むが、お前さんの仕事を見てみたい。俺様に出来る事は何でもやってやる。一目でも構わない。魔力を通して造り出す武具がどんなものなのか。どう造るのか。見てみたい!」

「いいですよ」

「そうだよな。鍛治の秘技をおいそれと他人に見せる訳ないよな。すまねぇ。久しぶりに昂っちまって抑えが利かなかったんだ……――ん?」


 太い首を傾げるガイアス。


「いいですよ」

「ん?」


 どうやらダメ元だったらしい。


「ただ、今ウチはオリハルコン不足なので、こちらで用意して頂けるなら、ですけど」


 言うと、ガイアスは無言のまま慌てだした。

 目は泳ぎ、ポカンと口を開けながら周囲を見渡す。

 やがて目の端に見つけたオリハルコン。彼は真っ直ぐそこへ駆け、ゴテンと転んだ後、オリハルコンを拾い、またゴテンと転んだ。


「は……はは……!」


 嬉しそうだ。

 鼻血ぶーでちょっと不気味だが、言葉を失う程嬉しかったらしい。やはり、鍛治の世界では、自分の仕事を他者に見せるというのは中々やらない事らしい。まぁ、技術の安売りなんか誰もしたくないよな。

 俺は少年のように目を輝かせたガイアスからオリハルコンを受け取り、ニコリと笑ってから言った。


「じゃあ、何を造りましょうか?」

次回:「その744 最強の剣」

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