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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第四部

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その734 大計画

「海上……都市? ミケラルド様、知らない言葉が出て来てはいませんか? この場に私の知らない言葉がありませんか?」


 ロレッソの頭がバグったようだ。

 俺は仕方ないと思い溜め息を吐くと共に、夢物語をゲロった。


「サマリア公爵領の漁港で造船業を始め、そこで船の研究を進めたい」

「それは……よろしい事ですね……」

「サマリア湾から、東の陸地に沿って北へ北へと船を進めれば、そこは――」

「――魔界……!」

「魔界の南にはガンドフ、北には海上都市ミナジリ。これがあれば、魔界を牽制する事も容易だし、いざ戦争になったとしても魔界の戦力を二分出来る、だろ?」


 聞くと、ロレッソは壁に掛けてある地図を覗き込みながら言った。


「いや……確かにその通りですが、そのような事が本当に可能なのですか?」

「実現出来そうじゃなきゃ、ランドルフ殿に会いに行かないよ。波の運動エネルギーを魔力に変え、それで海上都市の動力を補う。太陽、風、蒸気機関を使えば、高速移動も可能になるかもしれない」

「おぉ……」


 ロレッソは先程まで俺に突き出していた資料に目を落とす。


「同時に、長く行われてこなかった海図作成、周辺の島の探索、場合によってはミナジリ共和国の新たなる土地として資源を調達出来る。そしてゆくゆくは――」

「――ゆくゆくは?」

「魔界に上陸して街を造ろうかと」


 ポカンと口を開けるロレッソだったが、俺はそれに構ってる場合はなかった。


「何にせよ鉱物が圧倒的に足りない。特にオリハルコンかなー。竜騎士団への武具支給もそうだけど、海上都市の装甲はオリハルコンにしたいなーって思ってるんだよね」

「それこそまさに、天文学的金額になるでしょう……」

「そうなんだよね。リィたんと雷龍(シュリ)が楽しそうにオリハルコン稼ぎしてくれてるんだけど、リィたんは離れちゃってるから、暗部にオリハルコンノルマでも課そうかなってナタリーと相談中」


 そこまで言うと、ロレッソは俯き、黙ってしまった。

 しかししばらくすると、再起動したロレッソが言った。


「どのような事になるにせよ、ミケラルド様は道を示してくださいました。ならば、私も自分に出来る事をするだけです。こちらの秘術、早速使っても?」


 掲げられたのは【人造ダイヤモンド】の資料。


「勿論。外貨もジャンジャン集めよう。商人ギルドも呼べるかどうか打診してみて」

「はっ、ではそのように」


 深々と頭を下げたロレッソはすぐに外に出ていった。

 しかし、振り返った際の横顔が、どこか嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか?


 ◇◆◇ ◆◇◆


「――と、思ったんだけど、どうしたのその顔?」


 三分もしてロレッソはげっそりした顔で戻って来た。

 忙しい顔だなと思いつつロレッソに聞く。


「クルス様とアイビス様よりご連絡がありました」

「え? 俺にはきてないぞ?」

「私を通した方がいいというクルス様のご判断でしょう」


 という事は、世間話というより――、


「政治か」


 コクリと頷くロレッソ。


「何が起きた?」

「お二人の実子、第一王子の【ゲバン】殿が動きました」

「うちに関係がある事……なんだよね?」

「【ゲバン】殿には十三になるご令嬢がいらっしゃいます」


 つまり、法王クルスとアイビス皇后の孫。


「【オリヴィエ・ライズ・バーリントン】殿。見目麗しい姫君にございます」

「ま、あの、二人の孫だしな。ゲバンは見た事ないけど」

「ゲバン殿」

「殿。それで、そのオリヴィエ殿がどうしたの?」

「本日、ミナジリ共和国に向かい出立したそうです」

「は?」

「オリヴィエ殿がミナジリ共和国へ向かっていると申し上げました」

「いやいや、そんな話いきなり振られても困るんだけど?」


 焦る俺に、ロレッソも同意見なようで、困り顔を浮かべて見せた。だが、法王クルスがこちらに連絡してきたという事は、引き止めは失敗したという事。

 こんな事すれば……いや、待てよ?


「……中々策士だな、そのゲバンとかいうの」

「ゲバン殿」

「殿。こんな事をすればミナジリ共和国は法王国に対し懐疑的に思う。しかし、それはゲバン……殿の思う壺」

「えぇ、ただでさえクルス様を攻撃したミケラルド様に疑惑の目が集まっているのです。法王国の特派大使を追い返すような真似をすれば、これまでの対策が水の泡。国交断裂を世界に公表される事となります。かといって特派大使を受け入れてしまえば、ミナジリ共和国と法王国の仲をとりもったのは――」

「「――ゲバン」」

「おい、殿はどうした」

「少しくらいいいかと思いまして」


 犯罪者の供述みたいな事言ってきたな。

 まぁ、ロレッソを怒らせるだけの要素は十分だし、仕方ないのだろう。


「つまり、どちらに転んでもゲバン殿には都合がいいのです」

「ミナジリ共和国に喧嘩を売るか……」

「ゲバン殿はミケラルド様の性格を熟知しているのでしょうね」

「平和主義者だって?」

「ミケラルド様も暴力は使いますからねぇ」

「まぁ、それは否定出来ないな」

「とはいえ、法王国を攻撃しないという事は誰にでもわかる事です」

「なるほどな、俺に喧嘩を売っても攻撃されないと好き勝手動き、そのどれもが法王国に利をもたらすものであれば、法王国の次期法王はゲバン殿という事になる」

「ゲバン殿」

「言ったよね?」

「念のためです」

「でも、そんな重要な任務を十三の子供に任せるか、普通?」


 言うと、ロレッソは呆れ顔で言った。


「あわよくば、ミケラルド様との婚姻関係を狙っているに決まってるでしょう」


 今度、法王クルスに「クルスおじいちゃん♪」とか言ったら怒られるかしら?

次回:「その735 緊急会議」

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