表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

730/917

その727 事実

 大暴走(スタンピード)の翌日。

 俺は、勝手に建てた(、、、、、、)とされる北、東、南の土壁を元の土に戻す作業に追われていた。

 ミナジリ共和国に備蓄していたマナポーションがすっからかんになったり、俺の腹が水っ腹になったりと色々大変だったが、その日の夜には何とか全ての土壁を元に戻す事が出来た。

 それを見届けた法王国騎士団のアルゴス騎士団長が俺に言った。


「それでは……ミケラルド殿……」


 アルゴスは俯き、申し訳なさそうに言った。


「えぇ、仕方ありません。事実は事実ですから消す事なんて出来ませんよ」


 苦笑して言うと、アルゴスは書状を開き声を張り上げた。


「ミナジリ共和国元首ミケラルド・オード・ミナジリ殿! 法王陛下クルス・ライズ・バーリントン様のご命令により、国外退去(、、、、)を言い渡す! これより我ら法王国騎士団が貴殿をリーガル国境まで護送致します!」


 これが、法王国の決定。

 法王クルスは最後までこの決定に抗ったものの、俺がやった事を考えれば当然の帰結と言えた。

 俺が奴に意識を奪われた時、奴は俺の身体を使い、法王国にとって様々な悪影響を及ぼした。


 法王国民からの魔力吸収。

 騎士団、及び聖騎士団からの魔力吸収。

 そして何よりいけなかったのが法王クルス本人への――攻撃。

 多くの目撃者がいる中、これを行使したのは奴だが、そんな事は目撃者にはわからない。つまり、俺がやったという事実に何ら変わりないのだ。

 奴が法王クルスに攻撃し、更には(とど)めを刺そうとした時、俺は気付いた。法王国と築き上げた交友関係が全て白紙……いや、マイナスになってしまったのだと。

 馬車に乗り込む俺の下に、勇者エメリーと聖女アリスが駆け寄って来る。


「「ミケラルドさん!」」


 心配そうな二人だったが、俺は手をヒラヒラとさせていつものように振る舞った。


「大丈夫大丈夫。国外退去で済んだだけよかったでしょ。賠償金とかないみたいだし?」

「そんなの、そんなの当然じゃないですかっ!」


 アリスの怒りは、俺の目を丸くさせた。

 強く握った拳は震え、その顔はとても悔しそうだった。


「私――!」


 エメリーが言う。


「私、お休みもらったらミナジリ共和国に行きます!」

「うん、ありがとう。そろそろ良い段階だと思うから、二人とも時間を見つけてウチにおいで」


 エメリーは苦笑を浮かべる。

 きっと、彼女の意図は別にあったのだろう。

 おそらく、勇者(エメリー)がミナジリ共和国に行く事によって、世間に対しその親交をアピールするため。そんな優しいプランが、彼女の中にあったのだろう。

 俺は二人に手を振ってから、そそくさと馬車の中に入った。もしかして、二人の悔しそうで悲しそうな顔を、見たくなかったのかもしれない。


「ふぅ……」

「聖騎士学校追い出されちゃったー」

「特別講師がクビ……か」

「私の学園生活が……」


 先に馬車に入っていたナタリー、ジェイル、そしてリィたん。

 三者三様に今回の問題について嘆いている。めちゃくちゃわざとらしいけどな。


「すみませんでした」


 しかし、この謝罪は必要だろう。

 三人に頭を下げ、迷惑を詫びると同時、ナタリーがスコーンと俺の頭を(はた)いた。


「ミックは悪い事してないでしょ!」


 ぷんぷんナタリー丸である。


「何、良い経験が出来た。我らの真実を知る者が多いのは、せめてもの救いだろう、ミック?」


 いつでも師匠のジェイル君。


「いざとなったらいくらでもやりようはある。お前は龍族に認められた数少ない存在なのだからな」


 いざとなったら法王国を滅ぼしそうな顔ですね、リィたんさん。

 俺は自分を指差し、にやりと笑いながら言う。


「法王クルス暗殺未遂犯」

「あ、それ歴史上初めてらしいよ!」

「ミックも出世したな」

「何しろ我が(あるじ)だからなっ!」


 と、ミナジリの皆がいつも通りなのは、ありがたい事だし、嬉しい事である。

 幸いな事にルークへの追求はなかった。おそらく法王クルスが口を割らなかったのだろう。これから法王国との交渉も、アーダインに会うのも全部ルークがやるしかないだろう。

 まぁ、特別講師からも解放された事もあり、今後は国益を優先させ、国力を蓄える方向にシフトしようと思う。

 法王国は勿論、シェルフ、リーガル国、リプトゥア国、特にガンドフとの国交を増やしていきたいところだ。


「何よミック? 国外退去なのに笑っちゃって」


 そういうナタリーも笑っているのだが?


「今回は色々準備不足が(たた)ったからね。ミナジリ共和国で出来る事を考えてるだけだよ」

「あ、それ気になる! ねぇリィたん?」

「何をする? ミックのためなら何でもしよう」

「ミック、新しいレシピの事を忘れていないだろうな?」


 ナタリーもリィたんもジェイルも……俺は本当に素晴らしい仲間に恵まれた。


「ところでリィたん、ジェイルさん、気付いた?」


 言うと、ナタリーだけが小首を傾げた。


「へ? 何々?」


 ナタリーの疑問は二人に向かう。


「無論気付いている」

「ミナジリ共和国まで付いて来るつもりだろうな」


 そこまで言うと、ナタリーは目を閉じ意識を集中させた。

 すると、この四人が乗る馬車を追う者の魔力に気付いたようだ。


「この魔力って……」


 俺はナタリーに頷く。


「レミリアさんだよね?」

「魔人との戦いで自分の不甲斐なさを痛感したのだろう。おそらく聖騎士学校も辞めてるだろうな」


 ジェイルの言葉にナタリーが驚く。


「うわー大胆!」


 剣聖レミリアが、再びミナジリ共和国にやって来るようです。

 何にしても、面白い事にはなるだろう。

 大暴走(スタンピード)も終わり、法王国を追い出され、俺の人生の中では中々にキリがいいところだろう。

 こういう時は、様式美としてこう(つづ)っておくのが正解なのだろう。


 ――俺たちの物語は、まだ始まったばかりだ、と。


 ま、過去にもやったし、二番煎じどころじゃないけどな。

これにて第三部は幕となります。

意外に100話くらいしかなかった第三部ですが、それでもライトノベル二冊分はあったようです。

これで少ないかもなーと思ってる私の感覚は、もしかしたら麻痺してるのかもしれません・x・

次回から第四部、舞台をミナジリ共和国にしつつ、色んな外交問題を書く予定です。

第四部中に、もしかしたら私の過去最長作である「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」の文字数を超えるかもしれません。

これだけ書いていられるのも、皆さんの応援あってこそです。本当にありがとうございます。

感想、メッセージ、お気に入り、評価ポイント、誤字報告、とても励みになっております。

引き続き「半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~」を宜しくお願い致します。


壱弐参ひふみ


次回:「その728 新たなる一歩」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ