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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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◆その724 大暴走13

 ミケラルドの土壁を肉眼で最初に捉えたのは、東で冒険者の後方から援護魔法を放っていた法王クルスだった。


「あれは……!」


 クルスはようやくホーリーキャッスルの上空で、ミケラルドが次なる手を打った事に気付いた。

 そして、ミケラルド狙いにも気付いたのだ。


「くそ、正気かミック!? だが……現時点ではそれしか手がない、か……」


 直後、クルスが叫ぶ。


「リルハ! ヒルダ! ほんの一瞬で構わない! モンスターを止める巨大な壁を作れ!」

「何!? っ! あの壁は……そうか、わかった!」

「合わせます!」


 クルス、リルハ、ヒルダが残り少ない魔力でそれぞれ魔法を放つ。


「フレイムウォール!」


 クルスの炎の壁、


「ウィンドウォール!」


 リルハの風の壁、


「アイスウォール!」


 そしてヒルダの氷の壁。

 ミケラルドの土壁の進行を妨げぬよう、しかし、その壁より東側へこれを発動した三人。

 この動きを見て、最前線で戦っていたジェイル、イヅナ、オベイルが叫ぶ。


「「下がれ!!」」


 直後、土壁がモンスターの間を縫うように通って行く。

 壁の内側に残ったモンスターは少数。

 ジェイルたちはこれを倒しながら、その壁を追った。

 向かう先は――、


「北だ! ミックは南と東のモンスターを全て北へ誘導しようとしている!」

「「っ!?」」


 ミケラルドの意図に気付かなかった者たちも、ジェイルたちの後を追い始める。

 リルハが上空のミケラルドを見上げながら呟く。


「あの吸血鬼、法王国の半分に蓋をしたのか……」

「行きましょうお姉様! 北ならばミナジリ共和国軍が保有するマナポーションがあります!」

「はっ、一カ所に敵を集め、一気に掃討。言うは易く行うは難し……何ともおかしな事をしてくれるもんだね、あの元首は。行こう、北だ!」


 残ったモンスターを駆逐しつつ、ミケラルドの意図に従うように皆北上していく。

 勇者エメリーは心配そうな表情でミケラルドを見つめ、聖女アリスは……顔を強張らせながらミケラルドを見ていた。

 それに気付いたメアリィがアリスに言う。


「どうしたの……?」

「あんな……あんなに魔力を使って……大丈夫なはずないじゃないですかっ!」


 怒気をのせそんな言葉を吐くも、アリスは口を結ぶ事しか出来ない。

 壁と共に、徐々に北上するミケラルドに向かって飛んで来る少年が一人。

 北から飛んでやってきたのは、破壊魔(はかいま)パーシバル。


「おいおい、それ大丈夫なのかよ……!?」


 ミケラルドの身体から溢れる魔力を見て、パーシバルの顔が歪む。


「はぁはぁ……五月蠅いな……気が散るからちょっと黙っててくれよ……」

「お、おい……その顔……!」


 パーシバルが直視したミケラルドの異常。

 ミケラルドは血反吐を垂れ流し、顔に(いびつ)な血管が浮き出ている。身体は震え、目は血走り、足下のエアリアルフェザーは既に消えていた。


「飛ぶ魔力すらないのかよ!?」

五月蠅(うるさ)いって言ってるだろ……節約だよ節約……【サイコキネシス】があれば飛べるんだよ……うっ!」


 ごぽりと血を吐き出すミケラルドに、パーシバルが言う。


「精神がもう限界じゃないか! そんな事やってたら死ぬって! おい! 聞いてるのかっ!?」


 ――五月蠅イ奴ダナ……死ヌカ?


「っ!?」


 直後、ミケラルドの瞳がぎょろりとパーシバルを捉える。

 ミケラルドの仮初(にんげん)の黄金の瞳、そして吸血鬼の深紅の瞳に変わり、更に色を闇に落としていく。闇よりも深き黒と殺意に染められた異常な程の負を宿した(くら)き瞳。

 パーシバルは呼吸さえ忘れ、その瞳に囚われた。


(こ、殺され――……!)


 瞬時に命の終わりを悟ったパーシバルだったが、それを止めたのもミケラルドだった。

 ミケラルドはパシンと自身の頬を右手で叩き、目を瞑った。

 そして、次に目を開くと、深紅の瞳に戻っていたのだ。


「悪い、ここはいいから北西からリィたんたちを頼む……」

「……え? あ? あ、うん……わかった……ごめん……」


 北西に向かい飛び、心配そうに何度か振り返るパーシバル。

 だが、ミケラルドは今それに構っている暇はなかった。


「は、ははは……やっぱりナニカ(、、、)いるなぁ……」


 ミケラルドが自身の変化に気付けたのには理由がある。

 法王国の城壁に上り、ミケラルドを見ていた男。


 ――――ルーク・ダルマ・ランナー。


 そう、ミケラルドの分裂体である。

 ミケラルドは外部にある自分の目を使い、本体の異常を認識したのだ。


「今日は出て来るんじゃないぞ……」


 自嘲気味にそう言うのも束の間、強烈な吐き気がミケラルドを襲った。


「っ!」


 口を押え吐き気を堪えるミケラルドの右目がまた闇に染まる。少ない魔力ながらも、自身の危険を把握したミケラルドは、ルークを空へ飛ばした。

 対峙するミケラルドとルーク。

 と共に、土壁が完成に至る。

 ナタリーが指示を出し、ダークマーダラーたちの手により、北に城塞を築いたからである。それにより、ミケラルドの消費魔力を可能な限り抑えられたのだ。

 ――だがしかし、ミケラルドの異変はまだ終わっていなかった。


「お前は……何だ?」


 ルークから発した言葉は、ミケラルドに向けられたものではなかった。それは、先程パーシバルを威嚇した者に投げかけられた言葉だった。

 ギンと睨むミケラルドの黒き瞳。

 発した言葉は――、


「違ウナ……ソウジャナイ」

「何?」

「ソレハ……私ガ聞クベキ言葉ダ」


 目を丸くしたルークが小さく零す。


「おやおやー、もしかして霊龍が教えてくれたのって……?」

次回:「◆その725 大暴走14」

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