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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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722/917

◆その719 大暴走8

本日一話目の投稿です。ご注意ください。

「ミケラルドに毒された聖女がこれ程までに厄介とはな!」


 振り上げた剣がアリスを襲うも、これにジェイルが追いつく。


「ぬんっ!」


 魔人の剣を受け止め、遅れてイヅナが攻撃に加わる。


「もう抜かせん!」

「甘い!」

「っ!?」


 イヅナの攻撃を裏拳で振り払った魔人は、ジェイルへの攻撃に注力した。

 目にも止まらぬ剛剣に、流石のジェイルも攻撃を捌く事しか出来ずにいる。

 反撃に移ろうにも、魔人がその隙を与えない。

 覚醒によってようやく余裕を得た魔人と、それにより反撃すら出来ない二人。アリスの援護こそあるが、魔人の攻撃を防ぐために使う二人の魔力は回復出来ない。

 この三人の決着がつくのも時間の問題と言えた。

 そんな中、魔人は違和感を覚えた。


(……妙だ)


 それは、実力的余裕がなければ辿り着けなかった違和感。


(何故、ミケラルドはこちらに来ない? 私が覚醒すればそれこそ聖女の窮地となる。ならば救援に駆けつけるべき。人類の未来を考えれば、法王国の民など切り捨て、こちらに来るべき。天塩にかけた聖女(でし)と、敬愛する師匠(ジェイル)。計算高い奴なら他国の民など捨て置くべき。いや――)


 魔人の目がまたアリスに向く。


「プロテクション! パワーアップ! スピードアップ!」


 その目は鋭く、アリスの一挙手一投足を観察する。


(このレベルの戦いに……合わせ始めている……だと?)


 見れば、アリスの支援魔法は更に深みを増していた。


「っ!?」


 魔人はジェイルから受けた攻撃に驚きを見せる。


(支援魔法の精度が上がっている!?)


 どんな魔法であろうと、使用者が異なればその精度も変わる。魔法初心者の【フレイム】と、ミケラルドが放つ【フレイム】の威力が異なるように、アリスの支援魔法は、この戦いの最中(さなか)、成長していると言えた。

 魔人を見据える聖女アリスの魔力が研ぎ澄まされる。


(魔力の運びをもっと速く、もっと鋭く……!)

「くっ!」


 イヅナが受けた傷も――、


「ヒール!」


 血が出るより早く治療を。


「馬鹿な、見えているというのか!?」


 その問いに答える事はない。

 アリスは、魔人だけではなく、イヅナとジェイルの動きも捉え始めたのだ。そして――、


「ライトシュート!」


 遂には魔人に対して攻撃する余力すら生んだ。


「嘗めた真似をっ!?」


 これにニヤリと笑ったイヅナとジェイル。


((これならば!))


 聖女アリスの支援攻撃が加わり、魔人のとの戦いに再び均衡が生まれる。


(馬鹿な……っ! もしやミケラルドは!?)


 魔人がその答えに行き着くずっと前、ジェイルがイヅナたちの下に現れるほんの少し前、ミケラルドはジェイルに【テレパシー】を発動していた。


『ジェイルさん、(そっち)暇でしょう?』

『確かに、ランクの低いモンスターばかりだ。ちょうど今、戦線を北東へ広げたところだ』

『それは何よりです』

『ふん、気付いたから連絡してきたのだろう。何だ?』

『東に魔人が来てます』

『何っ!?』

『奴の作戦はわかってます。当然、勇者エメリーと聖女アリスの成長を止めるため。けど、今回の目標はおそらくアリスさんでしょうね』

『わかるのか?』

『見た感じ、エメリーさんの伸びしろ(、、、、)よりも、アリスさんの伸びしろのがありますからね。彼女を誘拐するのが一番効率的です』

『それで、私に連絡をよこした理由は?』

『助けに行ってあげて欲しいんですよね』

『ミックは行かないのか?』

『私は(こっち)がありますから。それに、私が行くと、早々に魔人は逃げちゃうでしょうしね』

『っ!? ミック、もしやお前……』

『そういう事です。女の子の窮地に助けに行くのがヒーローってのは時代遅れなんですよ。敵が聖女の成長を妨げようとしているならば、これを利用して聖女を成長させる。そう、女の子の窮地を演出する(、、、、、、、)のが私という訳です』

『聖女の危機を作り、聖女を成長させる……か。まったく、他の者には聞かせられない話だな』

『えぇ、だから信頼出来るジェイルさんに話を通そうと思いまして。行って頂けますか? イヅナさんが踏ん張ってくれてますし、ジェイルさんが行ったらイヅナさんの成長にも、他の方の刺激にも繋がると思うですよね』

『私一人を送るだけでそうなるのか?』

『推測と憶測と願望が詰まってます』

『フッ、ミックらしい返答だ。わかった、援護に向かおう』

『ありがとうございます。今度新しいレシピ教えますよ』

『まだ隠してたか』


 そんな二人の【テレパシー】を思い出していたジェイルは、その背で成長し続けるアリスに確かな未来を見た。


(危うい賭けだと思ったが、ミックの判断は間違いじゃなかった。かつての聖女アイビスは既に超えていると言っても過言ではない。私たちへの援護、魔人への遊撃、遂には背後のラッツたちの支援……三方に散らばるエメリー、オベイル、レミリアへの支援、アーダインまでもがその支援射程に入っている)

「ほっほっほ、歴代最高の聖女やもしれんな」


 アリスに聞こえぬよう、イヅナが小さく零す。アリスの成長を目の当たりにし、それを喜んだのだ。

 だからこそ、魔人は手を緩める他なかった。


「攻撃が疎かになっているぞ?」


 ジェイルが言うも、


「ふん、潮時のようだ」


 魔人は、自身の引き際を理解していた。

 後方へ跳び、モンスターたちを細切れにしながら去って行ったのだ。まるで、少しでもアリスの成長を遅らせようとするために。

 イヅナとジェイルはその背を見送る事しか出来なかった。

 二人には、魔人を追うだけの魔力は残されていなかったのだ。

 肩で息を切らす二人に、聖女アリスがマナポーションを届ける。


「これを!」

「すまんな」

「助かる」


 イヅナとジェイルが魔力を回復し終えると、再びその手に剣を握った。

 目の端に迫りくるモンスターの大群が見えたからだ。


「やれやれ、老人に優しくない世界だな……」

「ここからが勝負だ」


 未だ止まぬ大暴走(スタンピード)

 そこは、矢継ぎ早に現れるモンスターを狩り続ける……魔の地獄。

次回:「◆その720 大暴走9」

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