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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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719/917

◆その716 大暴走5

本日、一話目の投稿です。ご注意ください。

 大地を転がる剣神イヅナ。

 その異常事態に皆が驚愕する。


「爺っ!」


 最初に反応したのがイヅナの近くで力をふるっていた剣鬼オベイルだった。だが、モンスターの波は色濃く、助けに行く事さえ出来なかった。


「カッハ……くっ……」


 血反吐を吐くイヅナがよろめきながら立ち上がる。

 眼前にやって来るモンスターを何とか捌き、ベルトに括り付けたポーチからエリクサーを取り出し、身体に掛ける。


「イヅナさん!」


 心配したレミリアがイヅナに近付く。


「……大丈夫だ」

「完全に回復するまで付き添います!」

「すまんな」


 そう言いながら、イヅナの目はモンスターの魔力を追っていた。


(今の攻撃は一体?)


 自分の胸元の創傷(そうしょう)を見るイヅナ。


(斬撃だった事を考えるに、SSS(トリプル)相当のモンスター? いや、この乱戦とはいえ私が追えない攻撃だと?)


 右に左に、イヅナの視線が動く。

 直後、オベイルの近くに黒い影が走った。


「鬼っ子! 上だ!!」


 かつて聞いた事のないイヅナの荒い声。

 イヅナが見せてきた性格が、オベイルに緊急事態を知らせる。


「ハッ!」


 オベイルが身体を捻り、回転しつつ自身の上部に剣の結界を敷く。

 ガチンと響く重い金属音。と共に、オベイルが吹き飛ばされる。


「うぉっ!?」


 何とか着地したものの、りんと響く大剣(バスタードソード)と、痺れた手。オベイルが後退するだけの危機が目の前にあった。


「どこだ! どこにいやがる!?」


 攻撃の主からの返答はなかった。

 しかし、モンスターたちの激しい足音の中に一つ。小さく、そして静かな足音があった。それを捉えたのは、これまでずっと警戒をしていたイヅナだった。


「っ! そこだ!」


 確信を得てイヅナが飛ばした斬撃は、直後、地面に叩きつけられた。

 ぼやりと滲む背景。地面に付く足跡。

 背景がパチパチと弾け、人間の輪郭を見せる。

 それを見た瞬間、勇者エメリーが叫んだ。


「皆、下がって!!」


 それを聞き、オベイル、イヅナ、レミリアが後方へと下がる。

 何故なら、エメリーの進言は、進言というには余りにも恐怖の色が強すぎたのだ。

 イヅナの言葉、オベイルを吹き飛ばす攻撃力、そして、エメリーの恐怖。これだけの情報があり、単独でその場に残るのは愚かである。


「ほぉ、最近の冒険者も粒揃いと言えるな。とはいえ、私の敵ではないがな……」


 男の声、徐々にその姿が鮮明になると共に、エメリー、アリスの表情が変わる。


「「魔人……!」」


 現れた男は、かつてミケラルドと引き分けた強者。

 その魔力、絶大。

 その圧倒的な存在感は、周囲にモンスターを寄せ付けない程だ。

 必然的にモンスターの波は街へと向かうも、アーダイン、クルス、リルハ率いる冒険者たちがこれを受け持った。

 ゾクリと粟立つオベイルの肌。


「やべぇなこいつ……」

「さて、歯が立つかどうか……」


 イヅナの言葉を受け、オベイルが後方へ指示を飛ばす。


「緋焔! クレア! 生徒たちをしっかり守れ! エメリー! アリス! 前だ! 俺と爺、レミリアとエメリーでやる! アリスは援護に回れ!」

「「はい!」」


 立ち並んだ四人――イヅナ、オベイル、レミリア、エメリー。後方にアリスを置き、魔人と対峙する。


「好都合だ、勇者と聖女がいればいい」


 魔人の言葉にピクリと反応するエメリー。


「まだ……まだ私たちを攫うつもりですか?」

「ふん、お前如きとかわす言葉は持っていない」


 エメリーの言葉など、まるで羽虫が如く魔人は気にする素振(そぶ)りすらしなかった。

 歯をギリと鳴らし、剣を強く握るエメリーの苛立ちを見抜き、イヅナがそれを止めるように手を出す。


「……待てエメリー。言葉すら武器として扱え。捌けねば自身の弱点を晒すだけだぞ」

「イヅナさん……」

「それに思い出せ。ボンは言葉を武器とし、自分の武器を増やしてきたのではなかったか?」


 頷くエメリーにレミリアが言う。


「エメリーさん、イヅナさんの言う通りです。ここで飛び出しては敵の思う壺です」

「レミリアさん……はい、もう大丈夫です!」


 (かぶり)を振って雑念を追い出したエメリーが腰を落とす。

 すると、オベイルが言った。


「俺が隙を作る。爺を起点に援護しろ。絶対に奴の正面に回るんじゃねぇぞ……!」


 皆が頷き、アリスの支援魔法が終わる。

 瞬間、オベイルが魔人に向かって駆けた。


「鬼剣! 大風車!」


 肩を起点とした大きく弧を描く大剣(バスタードソード)。真横からの強撃を前に、魔人はそれを剣で軽く受けた。微動だにしない魔人に驚愕するオベイル。


「んなっ!? (かて)ぇな馬鹿野郎!」


 そんなオベイルの肩にふわりと乗り、瞬時に真下に下り、魔人の懐に潜り込むイヅナ。


「神剣! 昇竜!」


 下段から首元へ穿つような一撃も、魔人は涼しい顔でこれをかわす。

 オベイルの大剣(バスタードソード)、イヅナの身体を死角とし、大きく、しかし素早く右へ回ったレミリア。


「聖剣! っ!?」


 がしかし、魔人の剣が地面を通し、レミリアの足元を爆発させて。


「ちっ、遠当てか! 何て威力だ!」


 吹き飛ぶレミリアを担ぎ後退するオベイル。

 その上から、エメリーが大上段を振り下ろす。


「勇剣! 烈聖!」


 かつて、武闘大会でミケラルドに放った強力な光の一撃。

 直撃の瞬間、イヅナは見た。


(これを……上から摘まむだと!?)


 エメリーの剣を摘まみ、くりんと手首を返す魔人。

 これによりガクンと体勢を崩すエメリー。


「……ぁ」


 魔人の強烈な蹴りがエメリーの腹部を襲う。


「くそが!」


 レミリアを左肩、エメリーを受け止め右肩に担ぐオベイル。


「咄嗟に受けたか。前回よりは研鑽を積んだようだが……それだけだ」


 オベイルにおろされ咳き込むエメリーを見て、イヅナが咆える。


「カァアアアアッ!」


 イヅナの身体から噴き出す白光。

 これを見て魔人が笑う。


「剣神化か、面白い……!」

話数未定ですが、本日複数話投稿予定です。


次回:「◆その717 大暴走6」

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