◆その715 大暴走4
「鬼剣! 爆裂!」
何匹ものモンスターを巻き込むように大剣を振り切る剣鬼オベイル。
「ほっ! ほっ! ほっ!」
ただ一点、急所のみを捉え、その場でモンスターを絶命たらしめる剣神イヅナ。
これに続くのが剣聖レミリアだった。
「聖剣! 閃光っ!」
イヅナの剣を追うように、剣技を発動するレミリア。
ニコリと笑ったイヅナが、それに応えるべく剣技を放つ。
「神剣、雷槌!」
押し寄せるモンスターが止まる事はない。
ゴブリン、アースラビット、ホブゴブリン、キラービー、カタパルトスパイダー……更には最弱のスライム。上を見ればなおの事キリがなかった。
ランクSモンスターでさえも現れる中、先陣を切るのはゲラルド、ラッツ、ハン、キッカ。
「うっそだろ!? 今ムシュフシュがいたぞ!?」
「レミリアさんが倒したでしょ!」
ハンの驚くも、キッカはすぐに情報を更新した。
「数が多い。乱戦だけは避けねばならんな」
「こちらは問題ないが、気がかりはあっちだ」
ゲラルドの話にラッツが反応し、勇者エメリーを見る。
勇者エメリーは、聖女アリスやクレア、メアリィ、ファーラ、更には二年生たちと固まり、多くのモンスターを倒している。
しかし、その偏りからアタッカーが少ない。
ラッツはそれを懸念をしていたのだ。
「勇剣! 烈火!」
勇者エメリーの剣は、聖女アリスの【聖加護】もあり、過去類を見ない程に研ぎ澄まされていた。
これにクレア、ファーラが続き、向かって来るモンスターを倒しているものの、押し寄せる大波に抗うにはまだ足りない。
「皆、大物相手以外には魔力は抑えて!」
二年生に指示を飛ばし、エメリーは善戦していると言えた。
「ひっ!」
二年生が対処し切れないモンスターが現れると、
「やぁああっ!」
エメリーは斬撃を飛ばし、クレアと共に援護する。遠距離を得意とするモンスターには、ファーラとメアリィに的確な指示を出し妨害、排除させる。
年若い勇者としては優秀過ぎる対応。
だが、それでも尚、大暴走という暴力の嵐は彼女には早すぎた。
「カァアッ!」
「マスターゴブリン!?」
ランクSモンスター、マスターゴブリン。
三匹という数は決して多くない。だが、相手するのが二年生となれば、対処のしようがなかった。
「くっ!」
クレアがナイフを投げ、一匹の体勢を崩す。そのマスターゴブリンにエメリーが止めの斬撃を飛ばし、まず一匹。
「おらよっ!」
遠方からオベイルがゴブリンチャンピオンの武器を投擲。
ぐちゃりとマスターゴブリンの顔を吹き飛ばすものの、残る一匹の対処は誰にも出来なかった。
「ダメッ!」
エメリーが願うように叫ぶ。
「――ふん!」
瞬間、巨大な影がマスターゴブリンを踏み潰したのだ。
大地を穿つ程の衝撃に、皆目を丸くする。
そこに現れたのは、冒険者ギルドの最高峰――神風アーダインだった。
「遅くなった!」
見上げる巨躯――しかし、その姿を知らぬ者なし。
遠くで静かに笑う剣神イヅナ。
「鬼っ子」
「あんだよ!?」
「久しぶりにアーダインが動く。アイツの剣は鬼っ子に似てるからな。よく見ておくといい」
「この状況で見られっか、クソ爺!」
オベイルの目の端に映ったアーダインは、身の丈以上の巨大な剣を担いでいた。
(ありゃ何だ? 剣というよりドデケェ鉈じゃねぇか?)
「ふんっ!」
肩から強引に放たれた一閃。
直後、モンスターの一団の上半身と下半身を引き裂いた。
同時に、二つに分かれた身体が爆散したのだ。
「……おー」
口を尖らせ、驚きを露わにしたオベイルがイヅナに言う。
「ありゃ何だ!? もしかして風魔法に剣の威力を乗せてるのか!?」
「左様、斬撃が着弾と同時に上下に伝わるようになっている」
「だからあんなエグい威力なのか。攻撃力を無駄に散らさないような工夫か……」
アーダインの参戦で、二年生たちが持ち直す。
「ふん! ふん! ふんっ!」
右に左に、上に下に。
アーダインの攻撃はこの戦場に適していると言えた。
それを見て、オベイルが呟く。
「爺、アレが俺に似てるってか!?」
「そっくりだと思うが?」
「ちっ! 鬼剣! 爆風撃!」
剣の面でモンスターを中空へ押し飛ばし、それに追いついたオベイルが地上に叩き落とす荒業。遠くでポッカリと空いた空間が、その威力を物語る。
「見ろ! 力こそパワーだろうが! 俺は魔法になんか頼っちゃいねぇ!」
呆れるイヅナが小さく零す。
「私にとってはその筋力自体が魔法だ。まったく、恵まれた体躯というのは羨ましい限りだ……ん?」
イヅナが魔力を感じ取ったのは後方だった。
街から出て来る冒険者たち。
これはアーダインが急遽集めた選ばれし冒険者たちである。
その中にはランクSパーティ――青雷の姿もあった。
これを見たエメリーが言う。
「アリスさん!」
「はいっ!」
掲げられたアリスの杖が神々しく光る。
これにより、アーダイン含む冒険者の武器に聖加護が宿ったのだ。
その時、アリスの目に映った両翼の雄。
「冒険者上がりの商人がいないとでも思ったら大間違いだよ!」
「お姉様、何やら不穏な魔力を感じます。ご注意を!」
右翼には商人ギルドマスター――白き魔女リルハ。
その妹弟子であり、勇者レックスのパーティ【聖なる翼】の一角――魔皇ヒルダ。
「皆の者! 奴らを法王国に入れてはならぬ! 絶対死守だっ!」
近衛の兵に囲まれ、圧倒的な魔力でモンスターを蹴散らす法王国のトップ――法王クルス。
遅れながらも東の戦力が整った瞬間だった。
「皆……!」
勇者エメリーは、新たな戦力に感謝する。
それ程までに、東は瓦解する寸前だったのだ。
しかし――、
「ぬおっ!?」
その直後の出来事だった。
宙を舞うように吹き飛んだのは、冒険者ギルド最強と謳われる――剣神イヅナだったのだ。
次回:「◆その716 大暴走5」




