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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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◆その714 大暴走3

『待たせてすまない。ロレッソ殿、下は納得させた。是非、北側をお任せしたい』


 法王国から【テレフォン】越しにミナジリ共和国に届けられた、法王クルスの言葉。


「いえ、法王クルス様。迅速なご対応に感謝致します」

『この礼は必ず。では、私も出陣する故、これにて失礼する!』

「失礼致します」


 そう言ったロレッソの後ろにいたのは、腕を組み、静かに時を待っていたジェイルだった。

 隣にはラジーンが控え、その眼前には一万ものミナジリ共和国軍。魔族、元闇人(やみうど)、元剣奴(けんど)……その生い立ちは様々なれど、ジェイルやナタリーの指導に付いてこられた強者たちである。

 ジェイルがラジーンに言う。


「では、先に行く」

「はっ、我らが暗部はミケラルド様のご指示に従います故」


 ジェイル率いるミナジリ軍が法王国北へ転移していく。

 転移先はナタリーのテレポートポイントである。

 それらを見送りながらラジーンがロレッソに聞く。


「こちらの守りは大丈夫でしょうか?」

「要人には全てテレポートポイントを着用させています。何かあればすぐに転移で逃げる事が可能です。こんな大胆な策を考えつく(あるじ)には驚きますが、それもやはり我らを思っての事。ありがたい事です。念のため、コバック、ドノバン、イチロウ、ジロウの四人を護衛に付け、身を隠す予定です。それだけにこの作戦は重要です」

「と、仰いますと?」

「法王国の民にミナジリ共和国を知ってもらういい機会になります。場合によっては、これを機に同盟を結べるかもしれません」

「おぉ……」

「が、それはミケラルド様の思うところではないでしょう。今の彼に、それだけの事を考えられるだけの余裕はないはず……と、言いたいところなのですが、そうとも言えないのもミケラルド様なんですよねぇ……」


 困ったロレッソが頭を抱える。


「し、心中お察しします……」

「ははは、それでは私はこれで」


 去って行くロレッソと、その背中を見送るラジーン。

 そこへ、暗部のサブロウがやってくる。


「儂らはまだか?」

「パーシバル以外は、ミケラルド様が呼ぶまで待機だ」

「何じゃ、つまらんのう」


 続き、ナガレが現れる。


「人間()れないんだから、モンスターくらい自由に()らせてくれたっていいじゃないかい」

「お前はミケラルド様から下賜されたその武器を早く使いたいだけだろう、ナガレ」

「アタシたちをこきつかってオリハルコンを集めまくったんだ、これくらい与えてくれても(バチ)は当たらないよ」

「お前……罰されている真っ最中だって事、忘れてないか?」

「アタシはそんな事知らないねぇ」


 怒り以上の呆れを見せるラジーン。

 直後、ラジーンの脳に【テレパシー】が届く。


『そろそろ行くぞ、ラジーン』

『はっ! お任せを!』

「皆、出発の準備だ!」


 ラジーンの言葉にピクリと反応する暗部。

 暗部の皆が発動するのは闇魔法【闇空間】。

 顔に恐れは一切なく、ただ自分の【闇空間】に入り、消えて行く。それは、絶対的強者ミケラルドへの忠誠と、ナタリーが扱いた結果と言えた。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 その少し前。

 法王国南の空ではミケラルドが一人、目を瞑りぷかぷかと浮かんでいた。


「西が一番多いか。リィたんと雷龍(シュリ)……オルグがいればまぁ聖騎士団も動けるか。北もジェイル師匠とフェンリル(ワンリル)、というか、元ハンドレッドとかもいるし、ある意味一番強固なのは北だよな。人数的にも。さて、問題は東か。数はそれほどじゃないけど、実戦経験が足りないのが多いし、アーダインに援護を任せたけど、混戦は必至だな。下手に騎士団に動かれると冒険者の妨げになる。軍と冒険者は離した方が正解だし、こんなところか。ん?」


 ミケラルドがホーリーキャッスルの方を見る。


「パーシバルとグラムスが来たか。あの二人がいれば法王国の領空は安心だろう。ん~……問題は経戦能力だよな。この数に耐えなきゃいけないって事は、効率的に魔力を使わなくちゃ一瞬で空っぽだ。西(リィたん)(ナタリー)(メアリィ)に【魔力タンクちゃん】を付けてもらってるから、回復要因は大丈夫だと思いたい。まぁ、リィたんは攻撃用に魔力使っちゃうかもしれないけど……っ! おっと……?」


 直後、ミケラルドが【テレパシー】を発動する。


『そろそろ行くぞ、ラジーン』

『はっ! お任せを!』


 細目に見つめる南の空。

 そこからやってくる無数の巨大な翼竜。


「んー……アレ、火竜山から逃げ出したって言ってた火竜たちじゃないか? ランクはS。数は……五百ってところか。下を走るモンスターもオベイルが言ってた通り強そうだ。やっぱりあっちは未開拓地だしなぁ……」


 困った様子で、こめかみをポリポリと掻くミケラルド。

 仕方なしと溜め息を吐き、周囲に向かって【闇空間】を放つ。

 半円状に置かれた八つの闇空間。

 その中から現れる――ラジーン、サブロウ、拳鬼、ナガレ、ノエル、カンザス、ホネスティ、メディック。

 彼らは眼前に見える絶望を見上げて言う。


「何あれ、あんなの聞いてないけど?」


 カンザスが言い、


「はっはっはっは! 正に地獄よな!」


 サブロウが豪快に笑い、


「我が修練、今こそ発揮する時!」


 拳鬼が腰を落とし、


「ヒヒヒヒ、竜鍋は臭みもあるが中々美味いらしいが……はてさて」


 メディックがメモに走り書きをし、


「ちゃんとしてくれるんでしょうね、ウチのボスは?」


 ホネスティがミケラルドを(うかが)い、


「お腹痛い……」


 ノエルが精神的苦痛を露わにし、


「ミケラルド様、ご命令を!」


 ラジーンが、ラジーンだけがミケラルドに指示を仰いだ。

 それを見、聞いていたミケラルドが言う。


「ノエルは親近感湧くけど、皆、癖強すぎ……」


 呆れつつ、再度モンスターの大群を見る。


「それじゃあ、戦闘開始って事で……」


 腕をくるくると回し、魔力を高めるミケラルドだった。

次回:「◆その715 大暴走4」

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