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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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716/917

◆その713 大暴走2

 ずらりと並ぶ聖騎士団。

 中央にはライゼン学校長兼聖騎士団長、副団長で法王クルスの娘クリス。聖騎士団、総勢にして二千。

 それが、法王国における最強の手札と言えた。

 後方には聖騎士学校の一年生がおり、その前には騎士団のストラッグがいた。騎士団こそ五千の数がいるが、戦力としては二年生とそう変わらない実力である。

 そんな彼らが遠くを見つめると共に、気になる事があった。

 右を向けば雷龍シュガリオン、左を向けば水龍リバイアタン。

 そう、彼らは二人の龍族によって囲まれ、緊張以上の畏怖を抱いていたのだ。

 後方のストラッグが固唾を呑んで二人の背を見守る。


(……むぅ、まさか人界に龍族の加護が訪れるとは、やはりこれはミケラルド殿の人徳の成せる(わざ)か……)


 前方では、ライゼンがクリスと話す。


「ふむ、何事も起きなければいいのだが、お二人の顔を見るに、そうもいかんのだろうな」

「えぇ、絶対的な強者と呼べるお二人のあの様子……ただ事ではありません」


 二人の視線の先、雷龍(シュリ)がリィたんに問う。


「リィたん、大暴走(スタンピード)の経験は?」

「ない……だが、この数のモンスターは初めてだ」

「ほぉ、あれから研鑽に研鑽を重ねたようだな。この距離のモンスターの魔力を捉えるか」

大暴走(スタンピード)とはどんなものだ」

「正に大暴走よ。ただ真っ直ぐに目的地に向かい、障害を除き、蹂躙し、破壊し通った後には何も残らぬ。我も過去に一度だけ経験はあるが、余り思い出したくない結果となったな」

「どういう事だ?」

「この我でさえ、数の暴力というものが、恐ろしくなった程だ」

「……なるほど」

「あれから私も強くなった。しかし、それでも……終わりなきモンスターの大群を止められるかは――っ!」


 雷龍(シュリ)が目を見開く。

 遅れてリィたんが気付き、静かに零す。


「……来たな」


 遠目に見える黒い一本線。

 地平線と空の間の蠢く漆黒が、少しずつ、少しずつ濃く、太くなっていく。

 ハルバードを強く握ったリィたんが、緊張を露わにする。


「これ程か……!」

「リィたん、大暴走(スタンピード)はかつてこうも呼ばれていた……百万の絶望と」

「なっ!? 百万だと!?」

「後ろにすり抜けたモンスターの事は気にするな。我らはここで奴らをふるい(、、、)にかけるしかないのだ」


 龍族をして、全てを刈り切れぬ無数のモンスターたち。

 それを目の当たりにした聖騎士団から、悲鳴のような動揺が生まれる。


「嘘だろ……?」


 それは、天に願うような問いかけ。


「あんな数……勝てる訳がない」


 現実から目を背ける断念。


「う、うぅ……」


 ただ震え、恐怖に抗う事すら出来ない絶望。

 そんな聖騎士団を見、ライゼンとクリスが焦りを見せる。


(やはり私では束ねきれぬか……!)

(これでは、戦闘で戦力を発揮出来ず無駄死にしてしまいます)


 聖騎士団の士気、今この状況でこれを上げる術を持つ者はいない。だが、それは聖騎士団にいないだけであり、彼らの信頼する存在がいないという訳ではなかった。


(かぁ)っ!」


 まるで電撃のように、背後から聞こえた叱責と激励の声。

 聖騎士団の間を通る屈強の男。

 ざわつく聖騎士たち。振り向くライゼンとクリス。

 その身に(まと)う鎧、小手、兜、剣はミケラルド商店オリジナルの特注品。

 鎧の背に刻まれる『ミケラルド商店 オリハルコン武具のオーダー始めました!』の文字。

 引き抜かれるオリハルコンの剣。

 ライゼン、クリスの間に立つ、ひと際大きな男。


「ライゼン先生、クリス殿、微力ながらお手伝いに参りました」

「お、お前は……!」

オルグ(、、、)殿!」


 聖騎士団元聖騎士団長オルグ。

 彼がここに来た理由はただ一つ。


「復職したのか?」


 ライゼンが聞く。


「いえ、私は警備部に配属された、ただの牢番です」

「では何故……?」

「法王国の警備部門に巨額の寄付がありましてな。ミケラルド商店から聖騎士団にこれをアプローチしたいと」

「つまり、新商品の宣伝をして欲しいと?」

「そういう事です」

「それが、その鎧だと?」

「あのエメラという御仁、つつましく母性溢れる笑みをしていたというのに、何故かあの笑みの裏に隠された力を疑ってしまう……いやはや、伏魔殿(ふくまでん)とはミケラルド商店の事を言うのかもしれませんね」


 そう言ったところで、牢番オルグが眼前に見える膨大な数のモンスターを見据え、剣を掲げた。


「聖騎士団よ!」

「「っ!?」」


 それは、かつてオルグが成し得なかった聖騎士団の統一。

 副団長シギュンが捕まり、団長のオルグも聖騎士団から退いた。

 しかし、それでも尚、神聖騎士オルグの名は聖騎士団の中で絶対と言えた。シギュンという光に埋もれつつも、そのカリスマは絶対。それを今、牢番オルグとして初めて体現したのだ。


「皆の者、何を恐れる事があろうか! 我が隣には苦楽を乗り越えた仲間がいる! 何を恐れる事があろうか! 我が背には(おの)が命を賭して守らねばならぬ家族がいる!」


 牢番オルグの声が法王国の西に轟く。

 太く、雄大な声は聖騎士団、騎士団の胸を叩く。


「何を恐れる事があろうか! 我が心は常に勇者と共にある! 何を恐れる事があろうか! 我が両翼には水龍と雷龍の加護がある! 足を踏み鳴らせ、檄を入れろ!」


 足が大地を鳴らす。

 示し合わせた訳ではない。しかし、一糸乱れず足は揃ったのだ。


「伝説と共に歩み、駆ける我らが今、新たな伝説となる! 今一度言おう! 何を恐れる事があろうか! ここは我が地、我らが故郷である! 侵略者に死を! 故郷を荒らす野蛮なモンスターに鉄槌を!! 聖騎士団――!!」


 直後、皆の息がピタリと合う。


「――法王国のために!!」

「「法王国のために!! ウォオオオオオオオオオオオオッッ!!」」


 鬨の声はあがった。

 腹の底から、身体の芯からあがった声に雷龍(シュリ)とリィたんがニヤリと笑う。


「ふふふ、のせるのが上手い人間もいたものだ」

「のせられてやろうじゃないか。何せ我らは伝説だからな」


 かくして、法王国西の戦闘の火蓋(ひぶた)が切られたのだった。

次回:「◆その714 大暴走3」

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