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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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714/917

◆その711 特別講師の生徒たち

 急遽講義室に集められた聖騎士学校の生徒たち。

 その喧噪には大きな戸惑いも見られた。

 何故なら、講義室はいつも以上に多くの生徒がいた。


「何で二年生もいるんだ?」

「何で一年が?」

「ライゼン学校長は一体何を考えてるんだ?」


 ざわつく講義室の中で、ルナ王女がレティシアに言う。


「ナタリーさんとリィたん様がいませんね」

「うん、ヒミコも何だか少し緊張してたみたい」

「ヒミコさんもですか?」

「ヒフミヨシスターズも?」

「えぇ……これは、何かありますね」


 直後、大きな音を立てて講義室の扉が開く。

 バッと立ち上がり姿勢を正す生徒たち。

 講義室に入って来たのは、マスタング、ライゼン学校長、そしてミケラルドだった。三人の厳しい顔つきに、生徒たちは皆、動揺を隠せなかった。

 勇者エメリーは、本日いないはずのミケラルドの登場に目を丸くさせる。


(ミケラルドさん……? 確かミケラルドさんの特別授業は明日だったはずだけど……その事前説明?)


 そう考えるエメリーの隣には、聖女アリスの姿があった。彼女はミケラルドに対し、いつものように怒っている訳でも、(いぶか)しんでいる訳でもなかった。


(ミケラルドさんが……緊張してる……?)


 ただ、かつて見た事のないミケラルドを見て、当惑していたのだ。ダンジョンから戻ったばかりのメアリィも、その護衛のクレアも、初めて見るミケラルドにそれを隠せずにいた。

 教壇の前に立った講師三人。

 中央のライゼン学校長が皆に言う。


「これより聖騎士学校の生徒全てに対し、特殊任務を命じる!」


 瞬間、生徒たちの顔が強張る。

 ライゼン学校長の圧。三名の講師が揃った理由。何の前触れのない特殊任務。それ以上に、命令の内容が異様と言えた。

 特殊任務にはこれまで拒否権があった。当然、査定に影響を与えるものである。聖騎士の称号が要らない者であれば、断っても問題はない。

 しかし、今回の特殊任務には生徒たちの拒否権がない。

 それを講師たちの態度で皆察したのだ。


「ミケラルド先生より今回の任務について説明がある。心して聞くように」


 ライゼン学校長が横にずれ、中央に立ったミケラルド。

 そして、生徒たち全員に言った。


「現在、この法王国に数多くのモンスターが接近している」

「「っ!?」」

「既に多くの被害が起こっているそうです。法王国に向かうため、ドワーフの国ガンドフにも影響が出ていると聞きます。ディノ大森林にいるモンスターは消え、絶対災害地域(ディザスターエリア)北部を超え、西より大群のモンスターがやって来ています。また、北東のリプトゥア国へ向かう国境も壊滅的な被害を負ったそうです。モンスターが目指す先はここ。法王国首都です」


 言葉を失う者、恐怖を顔に出す者、ガタガタと震える者……その全員を任務に参加させなければならない事。ミケラルドは拳を強く握り、話を続けた。


「これより特殊任務における最前線選抜メンバーを発表します。それ以外の者は、聖騎士団、騎士団、ミナジリ共和国軍のバックアップ――つまり後方支援任務に就いて頂きます。まずは二年生から――」


 それから、ミケラルドが口頭で戦闘力の高い二年生の生徒を呼び始める。数はそれほど多くなかった。二年生とはいえ、卒業時に聖騎士となれるのはほんの一握り。

 その一握りに手が届くであろう生徒が呼び出され、教壇横に整列していく。


「――次に一年生。ファーラさん」

「は、はい!」

「ゲオルグさん」

「はい」

「レミリアさん、アリスさん、エメリーさん」

「「はい!」」

「ラッツさん、ハンさん、キッカさん」

「「はい!」」

「クレアさん、メアリィさん」

「「はい!」」


 その後も、冒険者を中心とした生徒たちが呼ばれるも、ルナ王女、レティシア、サッチの娘サラの名前が呼ばれる事はなかった。


「――以上が、選抜メンバーとなります。尚、ナタリーさんと、リィたんさんはミナジリ共和国軍としてこちらに加わって頂きます」

「ミ、ミケラルド先生!」


 そう訴えるように言ったのはルナ王女だった。


「わ、私は――」

「――ルナさんは後方支援に加わって頂きます」

「ですが、私とメアリィ殿はそう変わらない実力のはず!」

「メアリィさんは既に、SSS(トリプル)相当のモンスターと遭遇しても数秒は生き残れる実力を私に示してくださいました。今のルナさんにそれが出来るとは思えません」

「それは……!」


 俯くルナ王女。しかし、ミケラルドに言い返せるだけの実力は、今のルナ王女にはなかった。


「では、マスタング先生」

「うむ。二年は私の後ろに、一年はライゼン学校長の後ろに付き従うのである!」


 不安げに、しかし仕方なしに、そんな顔をした生徒たちがぞろぞろと二人の後ろに付いて行く。

 そんな中、ルナ王女はまだ動けずにいた。

 レティシアがルナ王女を気遣うも、彼女は反応すら見せられないでいた。

 レティシアがミケラルドを見る。

 すると、ミケラルドは目を伏せ首を横に振った。

 これを受け、レティシアがライゼン学校長の後を追う。レティシアは行くしかなかった。

 ミケラルドが選抜メンバーに言う。


「すみません、先に広場に行っててください」


 講義室に残るルナ王女とミケラルド。

 しんと静まる講義室。ルナは唇から血を流し、己の不甲斐無さを恥じた。しかし、それを止めたのがミケラルドだった。

 ポンと優しく肩に手を置き、言ったのだ。


「安心してください。今でないだけ。あなたには聖騎士になれるだけの素養があります。それに――」

「――……それに?」

「後方支援の役割をしっかり学ぶのも、また強者になるための道ですよ」


 それだけ言い、微笑んだミケラルドは静かに講義室を出て行った。


「強者になるための道……」


 そう呟き、ルナ王女は拳を握った。

 唇の血を拭い、自身の頬をパシンと叩き、すんと鼻息を吐いたのだ。

 やがてその目に色が灯る。

 聖騎士学校において、誰もが歩む強者への道。しかし、強者として完成してから戦場に出られる訳ではない。道半ばで戦場に臨めるだけの戦力。今ミケラルドが欲していたのはそういう戦力だった。

 それを理解し、呑み込んだルナ王女は講義室の扉に手をかけ、また呟いた。


「今でないだけ……」

次回:「◆その712 大暴走1」

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