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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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706/917

その703 第四階層

「ふーん、第三階層は最初が最初なだけに、特別なギミックは無し……か」


 考えてみれば千メートル以上降下したし、あれを攻略するだけでSSS(トリプル)の証明にはなるな。

 だが、やはりこれまでのダンジョンとは違い、後退こそ無理ではないが難しく、一階層ごとの難度も違う。

 特に第二階層はどんなに早く駆け抜けたとしても、混戦は間違いないだろう。

 オベイル、イヅナ、レミリア、アリス、エメリー、理想はここにグラムスが加わるべきか。いや、だが、今の彼らにはSS(ダブル)ダンジョンですら難しいかもしれない。

 これは急ぐ必要がありそうだ。

 第三階層の転移装置から第四階層へ。


「っ!」


 目の前に現れたのは巨大な鏡。

 これは水晶か……? 覗き込むと、目の前にいた俺がぐにゃりと動く。

 それを見て、俺はすぐに気付いた。


「あーはいはい、よくあるやつだ」


 甲高い破裂音と共に巨大な鏡が割れる。

 中から現れたのは――どうしようもない程に、俺。


「ドッペルゲンガーってやつか。まずは動きをチェック。うぉ!? さっき覚えたばかりの【空間跳躍】!?」


 その後、魔法、固有能力などの発動を見る。

 なるほど、上限設定ありの最適化行動だな。

 ドッペルゲンガーは、確かに俺の全てを模倣している。しかし、それはSSS(トリプル)という枠内での話だ。

 霊龍が課したのは、自分のレプリカの戦闘方法、癖を学ばせるためだ。だから、自分でさえ知らないコンビネーションを繰り出してくる。勉強にはなるが、それ以上に恐ろしい。

 この魔力保有量、おそらくパーシバルが一番近いだろう。ドッペルゲンガーはこの魔力容量の中でやり()りして自分を真似るのだが、たとえばここにアリスがいたとしたら。

 アリスの魔力保有量はまだSS(ダブル)の域を出ない。しかし、アリスがここに来た時、アリスが自分自身のドッペルゲンガーと対峙した時、そのドッペルゲンガーはパーシバル並みの魔力を持っている事になる。

 つまり、このドッペルゲンガー以上の魔力を保有していなければ、敗色濃厚という事になる。

 前提としてSSS(トリプル)を超えていなければならないというのは、ある意味では厄介だが、やはり正解なのだ。

 急がば回れ、と霊龍は言っているのかもしれない。

 グーパンチでドッペルゲンガーを倒し、その血をペロリ。

 ……くそ、固有能力は何も得られなかった。

 それもそのはずで、コイツが持っていた固有能力は俺がよく使う【チェンジ】だったからだ。超能力の枠組みに入り、更には特殊能力であるチェンジだが、これを固有能力として単体で持ってる相手もいるという事か。

 しかし、ここは気になるな。

 鏡の奥にあった転移装置は、進む、戻る共に既に起動している。どうやら二階層ごとに脱出の機会があるようだが、俺の気になるところはそこではない。

 四階層、余りに簡単過ぎる。

 ドッペルゲンガーが一体? 確かに厄介な相手ではあるが、これでは肩透かしといった感じだ。


「ん~……もしかして? 物は試しだ、とりあえずやってみよう」


 そう言いながら、俺は分裂体を隣に出現させた。


「おぉ、転移装置の光が消えたっ!」


 そして現れるドッペルゲンガーさん。


「なるほど、そういう事ね」


 どうやらこの四階層では、パーティメンバーの数に応じてドッペルゲンガーが出現するようだ。

 つまり、五人で四階層に来れば、五体のドッペルゲンガーが現れる。そういう事だ。だとすれば、四階層の難度としては妥当といったところだろうか。


「パーティメンバーの最適コンビネーションも学べる訳か。ホント、よく考えますね」


 バチコーンとドッペルゲンガーを倒した後、俺は分裂体を身体に戻し、転移装置の前に向かった。

 やはり、宝箱が出現しない。このダンジョンではもしかして宝は一つもないんじゃないか?

 まぁ、ここまできたらモチベーションとかそういう問題じゃなくなってくるか。ここも霊龍としてはよく考えた結果なのだろう。

 だが、俺は国のトップ、元首である。少しでもミナジリ共和国が潤うようなお宝が欲しいところだ。第一階層のボーナスミスリル以外で。

 第五階層に下りる前に、もう三体程ドッペルゲンガーさんを出現させ、キュっとした後、アーダインのお土産用に丁寧に梱包した。花柄の布にミスリルの糸で編んだリボンを付けておこう。見目麗しい俺そっくりの死体である。きっと喜んでくれるに違いない。

 俺はアーダインの喜ぶ顔を思い浮かべながらふふりと笑い、第五階層へと降りた。


「おぁ」


 降りた瞬間、俺は間の抜けた声を出してしまった。


「……リィたん?」


 俺の正面には水龍リバアタンがいたのだ。

 それだけじゃない。炎龍ロードディザスター、木龍グランドホルツ、雷龍シュガリオン、地龍テルースが皆、龍形態で俺を見据えていたのだ。


「いや、絶対リィたんたちじゃない。これは、龍族のドッペルゲンガーか……!」


 鑑定で見ても、中身はやはりドッペルゲンガー。

 だが、その戦闘法は龍族依存だろう。

 なるほど、面白い事を考える。

 奴らの血からは何も得られないだろうが、ここで龍族全員と戦えるのはありがたい。

 俺はニヤリと笑い、巨大な咆哮を放つ五色に龍に飛び込んで行ったのだった。

次回:「その704 神話の世界」

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