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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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その698 一階層

「はい、お疲れ様です」

「途中からちょっとだけ楽しくなっちゃいました」

「それは何よりです。さて、転移の可能性は消えました。という事は、ここには入口側と反対側があるという事になります」


 コクリと頷くメアリィ。


「一本道だけで完結した通路。でも、赤ラルドさんがいる転移装置は動いていません」

「現状、完全なる密室ってところですね」


 密室に幼女と二人きり。霊龍なんか通報されればいいんだ。


「普通に考えて入口側に何かあるとは考えにくい。この密室の中で何かをすれば、赤ラルド側の転移装置が起動するんじゃないかと思います」

「何か……ですか?」


 小首を傾げるメアリィ。


「本来、ここにはSS(ダブル)のダンジョンを攻略しなければ来る事が出来ません。つまり、SS(ダブル)以上の実力者がここにいると想定されているはずです。SS(ダブル)以上の実力者であれば、ここで何が出来るか……」


 周囲を見渡す俺。

 壁、メアリィ、壁、天井、そしてまたメアリィ。

 すると、メアリィが気付く。


「【ミスリル】ですか?」

「お、いい勘してますね。そうですね、私もそう考えてたところです。わざわざミスリルの壁や天井を用意した理由、SS(ダブル)以上の実力者が来られるという条件を考えると、『ミスリルの壁を壊さないと先に進めない』と考えるのが必然です」


 言いながら俺は、闇空間を発動した。

 闇空間? そういえば闇空間って、強引な転移が出来たはずだが……ふむ?


「ミケラルドさん、何を?」

「闇空間は、別の使い手が同じ闇空間を発動すればそこから出られるという特性を持っています。だから、この中に入る事が出来れば、メアリィさんを脱出させる事が出来るんですが――あぁ、やっぱり無理なのか」

「え?」

「中に生き物が入れられない状態になってます。分裂体を入れようとしたんですけど弾かれちゃいました」

「霊龍様……念入りですね」

「本当に厄介な……」

「ノ、ノーコメントです」


 メアリィからしたらそうなのだろう。

 だがしかし、俺としては霊龍に小言の百や二百は言ってやりたいのである。


「まぁ、さっきの剣同様、取り出しは可能みたいなのでこのツルハシで壁をぶっこわしちゃいましょう」

「はい!」


 赤ラルド側の壁を、コツコツとノックする事数分――入口側から見て右側の壁に異音が走った。


「あ、音が違いますね」


 メアリィも気付いたようで、俺はニコリと笑って見せてからツルハシで壁を叩いた。


「ミスリルを砕ける力のない人はここで飢え死に確定とは……何とも恐ろしい。まぁ、ちゃんとした冒険者を選別しているとも言えるか」


 俺がそこまで言うと、メアリィもそれに頷いて見せた。


「えぇ、この調査が終われば、SS(ダブル)ダンジョンを経てない方も入ってしまう可能性がありますからね」

「いくらシェルフが管理したとしても、目を盗んでダンジョンに潜ろうとする(やから)はいるかもしれませんからねぇ。一階でしっかり間引く。これは霊龍なりに考えた結果なんでしょう……お?」


 これまで、甲高い音を発しながら砕けていたミスリルだったが、ここにきてまた音が変わった。鈍く、しかし軽い音。

 ツルハシの先端がミスリルを貫き、別の空間へ出たようだ。


「よっ! ほっ! ほい! ほいほい! これで……どうだ!」


 最後には蹴りを入れ、ミスリルの壁が奥に倒れて行く。

 小さな小部屋にあったのは、精霊樹のミスリル像。


「うわぁ……」


 シェルフの象徴である精霊樹をここまで美しく象るとは。

 メアリィが目を輝かせ、像のまわりから細部を覗き込む。


「これに魔力を通せば、あっちの転移装置が稼働しそうですね」

「わ、私がやってもいいですかっ?」

「罠はないようなのでご自由に」

「はい」


 メアリィは嬉しそうに、しかし控えめにミスリル像に触れた。やっぱりエルフってのは精霊樹を神聖視しているんだなぁ。

 そう考えながら俺は転移装置の稼働を待った。

 しかし、転移装置が動く気配はなかったのだ。


「ん?」


 やがて、メアリィの顔が歪んでいく。


「あれ……え? く、くく……!」


 困った顔のメアリィちゃんも中々に可愛い。


「ミケラルドさん、これって……?」

「力でミスリルを壊せたからと言って、魔力がそれに伴っているとは限らない。そういう事です」

「へ?」

「どうやら、SS(ダブル)もしくはSSS(トリプル)相当の魔力をそれに通さないと転移装置が稼働しないようです。さぁ、張り切っていきましょう!」

「えぇ……? ちょ、ちょっと辛くなってきたんですけど……」

「ダイジョーブダイジョーブ、これも訓練だと思って。【魔力タンクちゃん】使っていいですから」

「そ、それなら……えぃ!」


 メアリィがミスリル像に魔力を通している間、俺は一階層の調査データを紙に書き込んでいた。調査は細かければ細かい程いい。それを紐解き、低ランクで攻略出来るようにするのが今回の仕事だ。魔力を通す事に関しては、今回のメアリィのように魔力タンクを使うか、マナポーションが多めにあればいけるだろうが、ミスリルの破壊は低ランクには難しいだろう。

 つまり、霊龍は真っ向からこのダンジョンを攻略出来る者を求めているという事だ。


「ふぅ……」


 どうやら魔力が必要十分に満たされたようだ。

 ガチリと鳴った音がダンジョン内に響き、俺は転移装置を見た。起動状態に入ったようだが、いかんせん光が薄いようだ。


「ん?」

「え?」


 その起動と同時にダンジョンが揺れ始めたのだ。

 俺は急ぎメアリィの隣に移動し、周囲を警戒した。

 すると、メアリィが指差して言ったのだ。


「ミケラルドさん、アレ……」

「……おっと」


 壊し、地面に転がっていたミスリルがカチャカチャと集まり始めた。


「これって……」

「本当は全身完成してから言うのが正解なんでしょうけど……」


 右足が完成し、左足の構築に入るところで、俺は言った。


「【ミスリルゴーレム】さんです」


 力、魔力ときて実戦ですか。

 一階層から手が込んでいらっしゃる。

次回:「その699 ミスリルゴーレム」

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