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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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698/917

その695 準備完了!

「はぁはぁはぁ……で、出来た……!」


 肩で息をする俺の前で口を尖らせるバルトとメアリィ。


「「おー……」」


 片手で持ちやすく単発型のフォトンビットレーザーを放てる【光の短杖(たんじょう)】。衝撃を魔力変換し、プロテクションを自動発動する【反射の円盾(まるたて)】。鎖を繋ぎ合わせ、風魔法で軽くしたチェインメイル【風鎖(ふうさ)の鎧】。風鎖(ふうさ)の鎧との連携効果により全ての武具の重量を軽くする【連鎖の風靴(ふうか)】。そして、俺がこれまで造った中でも特に難度の高かった……オリハルコンながら非常に軽く、しかし編み込みによりただ薄く引き伸ばすよりも硬く、反射性に優れた【蒼空(あおぞら)羽衣(はごろも)】。

 これら全てがオリハルコン製である。

 掲げた目標フルハルコンを達し、工房で大の字に寝転がる俺。


「ふふ、軽い……」


 顔を綻ばせるメアリィがぴょんぴょんと跳ね、武具の感触を確かめている。


「素晴らしい。あれだけのオリハルコンを使い、これだけの軽量化。市場に出れば白金貨が百……千? いや、万を軽く超す。……いや、小国であれば、これ一式で買えてしまうのでは?」


 それを聞き、メアリィは嬉しそうに俺のところまで来て膝を突く。


「ありがとうございます、ミケラルドさんっ!」

「はぁはぁ……ふぅ。はは、装備に振り回されないところから始めましょう」


 そう、重要なのは価値のある武具ではなく、それを使いこなす実力。俺は闇空間から首飾りを取り出し、メアリィに渡す。


「これは……?」

「素材はそちらのが優秀なので使ってください」


 くすんだ土色のペンダント。

 しかし、帯びる魔力は他の武具の比ではない。


「こ、これはまさか地龍の鱗っ!?」


 バルトが目を光らせる。


「えぇ、地龍の鱗で造ったペンダント【魔力タンクちゃん】です」

「な、何とも情緒の欠片もないネーミングですな……しかし、魔力タンク? という事は――」

「容量いっぱいまで私の魔力を入れてます。メアリィさんの魔力が半分を切るとそこから補給される仕組みです。平常時は装備者の魔力の余剰分や、周囲の魔素を吸収して回復します。勿論、手動で充電も可能ですよ」

「なるほど、メアリィ様の経戦能力をこれで補うという事ですな。素晴らしい。ふむ、では次は私の番ですな」

「えぇ、素敵なデザインを期待しています」


 俺が造ったのは遊びのない武具。

 バルトがこれから行うのは、その武具を彩る小物である。

 何事も見栄えというのは大切で、特にシェルフの姫ともなれば、外見(ガワ)に意識を向けるのは当然である。

 族長との付き合いもあり、シェルフの文化に精通したバルト商会がデザインしたのなら誰も文句は言えまい。


「ミケラルドさん、付けてくださいますか?」


 メアリィが背を向け、(うかが)うように俺に振り返る。

 なるほど、ペンダントには装飾も必要ないから外す必要もないという事か。


「わ、私は見なかった事に致します。メアリィ様、上でお待ちしております」

「はーい」


 シェルフの姫が他国の元首に甘えているのだ、本来であれば止めるところ……ではあるが、バルトにはこれを止めるより、ミナジリ共和国との友好を考えた方が得策。実にバルトらしいかわしかたである。

 俺は仕方ないと割り切り、オリハルコンのチェーンを外し、メアリィの背からそれを留めてやる。


「……ふふふ」

「何か良い事でもありましたか?」


 俺がわざとらしく言うと、


「えぇ、今その真っ最中です」


 困った事にガチトーンで返してくるメアリィちゃん。


「こういった特別は、普段あまりないものですから」


 こういう時は、本当にお姫様なんだよなぁ。

 普段、ナタリーと話してる時は「THE女子」って感じなんだけど。まぁ、器用に使い分けているとも言える。


「はい、出来ましたよ」

「ありがとうございます」


 ぱあっと顔を綻ばせたメアリィ。

 何とも可愛いエルフの姫である。

 人間だった時の俺がここにいたならば、心臓が思い切り胸を叩いていただろうし、通報されていただろう。

 ここは人払いをさせた工房。密室なのである。

 密室で幼女とおっさんが二人きり。事案である。

 そんな事を考えていると、メアリィはすっと立ち上がって俺に振り返った。


「明日はよろしくお願いします」

「いえいえ、まだ準備は終えてませんよ」

「というと?」

「装飾が終わり次第、シェルフの冒険者ギルドの修練場で稽古です」

「本当ですかっ!?」


 肉薄するメアリィ。顔が近い。

 しかも、何故か嬉しそうである。


「もしかしたら今日がシェルフの未来を決める日かもしれませんね」


 明日の間違いでは?


「マンツーマン。稽古。チャンス」


 検索ワードのような単語を呟いたメアリィが、小さく拳を握る。


「うん、いける」


 ダンジョンに行くのは明日だけどね。


「今日、キメてみせますっ!」


 いっその事、今日潜ってしまおうか?


「ミケラルドさん、それでは後程、冒険者ギルドで!」

「え? あぁ、はい……」


 軽い足取りで工房を出て行くメアリィ。

 正直、メアリィの実力では、あの装備があったとしても一階層と持たないだろう。勿論、俺が手助けしなかった場合だが、もし孤立したとしても三秒、いや五秒でも生き残る事が出来るのならば、遠くない未来、このシェルフという国は他の列強国と渡り合えるだけの戦力を得る事が出来るだろう。

 今日、この後の稽古は……メアリィにとって過酷なものになるかもしれない。

 そう思いながら、俺は工房の火をおとすのだった。

次回:「その696 シェルフの未来」

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