その689 霊龍からの使い
2021/10/23 本日二話目の投稿です。ご注意ください。
俺と木龍、そしてテルースはミナジリ共和国のミケラルド商店へ転移すると、そこでは、食材という名の商品に飛び付こうとしていた炎龍を全力で止めるオベイルがいた。皆、屋敷にまだ向かっていなかった事を利用し、俺は、龍族全員を迎える簡単な歓迎を行った。
それが、ミナジリ邸までの音楽隊である。
18禁ゲームのOP曲を選曲した俺のセンスをどうこう言う者はいない。
何故なら、その曲を知っている者はいないだろうし、歌詞も載っていない。メロディだけならセーフである。
そう信じ、俺は分裂体で音楽隊を結成し、彼女たちをミナジリ邸に導いた。
これを受け、暗部とかドゥムガとかフェンリルとか逃げ出してたが、彼らにとってとてもいい薬である。
是非、今後も龍族に負けないように精進して欲しい。
「一体何を考えてらっしゃるんですか、ミケラルド様! 雷龍シュガリオンをミナジリ共和国に迎え入れる!? これを私にどう公表しろと仰るのですかっ!?」
で、今ロレッソに怒られているのが俺という訳だ。
「えっと……普通に?」
「どう穏やかに公表しようと、それは他国への圧力にしかなり得ません!」
「…………確かにそうかもしれない」
俺は頭を抱えてしまった。
そうだったそうだった。龍族は世界の象徴と呼ぶべき存在である。その知名度以上の信仰力と武力は、恐るべき脅威となる。
武力だけで言うなら、『我が国は今日から核を保有する』とか言ってるようなものだ。気軽に言える訳がない。
「ど、どうしようロレッソ……?」
「はぁ……当面の間、旧知の間柄であるリィたん様に会いにやって来た……という事にしましょう。これでしばらくは持つはずです」
「でも、あの二人、仲悪いよ?」
「民や他国にわからなければそれでいいのですよ。たとえお二人が初対面であろうとね」
「おー、悪の親玉っぽい台詞……!」
「親玉はミケラルド様だという事をお忘れなく」
「いやいや、安心して陰から俺を操ってよ」
ロレッソにそう言うと、彼は呆れた顔で俺を見た。
「法王国でさえ、炎龍様を迎え入れたと明言していないのです。ミナジリ共和国に元から水龍リバアタン様がいるという事がなければ、言い訳すら思いつきませんよ……」
「ロ、ロレッソ君の給料を一割アップしようじゃないか」
「生憎、私は生活に困っておりませんし、お金を使う暇はないのですが?」
「は、ははは……」
「出来れば、優秀過ぎない主に仕えたいというのが私の希望です」
凄いな、俺を褒めてるようでめっちゃ皮肉っていらっしゃる。やっぱり優秀だよな、ロレッソって。
「それで、シェルフはどうされるおつもりです?」
「それなんだよね、まさか龍族全員がミナジリ共和国にやって来るとは思わないじゃん。だから気を抜いていたというかなんというか……」
「確かに、龍族の皆様で【聖域】についてシェルフに交渉すれば、【聖域】開放の決定打となります。しかし、それはシェルフに皆様が直接向かってこそ。こうしてミナジリ共和国を経由してしまえば、それはミナジリ共和国の陰謀と言われてもおかしくはありません」
つまり、ミナジリ共和国が龍族を使って【聖域】開放を目論んだと思われても仕方のないという事。
「い、一応シナリオを考えたんだけど……」
「是非、お聞かせ願いたく」
凄い、笑ってるけどロレッソの表情の奥には見えない感情がある。なにこれ、怖い。
「えーっと、霊龍の使いとして皆がやって来たって事にしてはどうかなーと?」
「それは元々そうするつもりだったのでは?」
「あぁ、いやいや。ちょっと変えるんだよ。まず、リィたんを除く四人が、霊龍の使いとしてミナジリ共和国にやって来る。でも、リィたんはミナジリ共和国の所属になってるからこの誘いを断る。誘いとは即ち、龍族によるシェルフへの交渉団入り。仕方なく交渉団は四人でシェルフへ…………と、こんな感じ」
言うと、ロレッソは顎先に手を添え、情報を整理し始めた。そして何やらブツブツと言い始めたのだ。
「なるほど、霊龍様の指示は五色の龍でシェルフへ向かい、【聖域】開放を交渉する事。ミナジリ共和国にやって来た四名の龍の誘いをリィたん様が断ったと明言する事で、ミナジリ共和国の交渉団関与が公に否定出来る。無理強いは出来なかった四名はリィたん様を連れずシェルフを訪れる……これで、龍族がミナジリ共和国に立ち寄った言い訳も、ミナジリ共和国が交渉団に関与していないという言い訳も出来る。確かにこれなら……いえ、これしかないという言い訳。やはりミケラルド様は言い訳のシナリオを考えるのが天才的と言わざるを得ない。寄生転生した時、もしかして口から生まれて来たのでは? 有り得る。腹に口があるダークマーダラーより恐ろしい。本当に恐ろしい……!」
「ロレッソ君、聞こえてるんだけど?」
「いけます、そのシナリオでいきましょう」
ホントすっげぇな。俺の言葉なんて聞いちゃいないって感じがホント、凄い憎たらしい。
でも、彼がいないと回らないのがミナジリ共和国だし、憎さの一兆倍くらい俺はロレッソの事を気に入っているのだ。
これからも頑張って頂きたいものだ。
「ミケラルド様、顔は口以上に物を語りますよ」
……ホント、憎たらしいくらいに有能である。
昨日更新出来なかったので、本日は二話投稿です。(現在2/2)
次回:「その690 龍の使い」




