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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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691/917

その688 五色の龍、ミナジリへ

2021/10/23 本日一話目の投稿です。ご注意ください。

 ◇◆◇ ロレッソの場合 ◆◇◆


 ミケラルド様が雷龍シュガリオンと戦うと言って屋敷を出てから数時間。私は、屋敷の門の前でただその帰りを待っていました。

 執事長のシュバイツ(シュッツ)や、門番のダイモン、そしてその娘である手伝い見習いのコリンも、心配そうな顔をしています。

 だが、流石はシュバイツ(シュッツ)なのだろう。彼は私を(いさ)めてくれました。


「ロレッソ様、そのようにせわしない様子ですと、下の者に示しがつきません。他国の間者も今はいないようですが、どこに目があるかわかりません故……」


 全てを言わずとも、私にもそれが理解出来ました。

 私はミナジリ共和国の宰相(さいしょう)。本来であればこんなところで油を売っている暇はありません。

 しかし、ミナジリ共和国の存亡が懸かってると言われれば、話は別です。

 ミケラルド・オード・ミナジリ……彼は一代で国を築いた大傑人。リーガル国の貴族となり、ブライアン王に土地を割譲される程の功績、信頼をたった一年で勝ち得、この地に新たなる未来を作りました。シェルフに恩を売り、ガンドフに恩を売り、リーガル国の敵対国家だったリプトゥア国との戦争に勝ちました。どの国も、今のミナジリ共和国には返し切れない恩があると言っても過言ではないでしょう。

 特に法王国――冒険者としてSSS(トリプル)になり、法王国の(うみ)……闇ギルドを崩壊させた手柄は百年の外交を積み上げたとしても足りないと言わざるを得ないでしょう。

 各国の王族、貴族と親交を持ち、個人間ならば彼に協力を惜しまない者ばかりのはず……そんなミケラルド様が亡くなったとなれば、ミナジリ共和国は一体どうなってしまうのか。それを考えただけで、私は気が気ではありません。


「ミケラルドさん、帰って来ないね」


 コリンが隣のダイモンに言う。


「帰って来るさ。あんな優しい人はいない。俺はコリンを助けてもらってから、あの人を信じるって決めたんだ。今日、出てく時、あの人はわざわざ門まで来て言ってくれたんだ。『凱旋(がいせん)の音楽はいらないから』ってな。あの人はわかってるんだ。戦いに勝つことがな」


 ……そうです。ミケラルド様は全てをわかった顔でとんでもない事を言う癖があります。私もそれを信じたい。けれど、それではミケラルド様が任せてくださった宰相という仕事は出来ません。

 ただ……今、この場で、希望や憶測で物を語れるのは少し羨ましい気もします。


「っ! 何か見えますな」


 シュバイツ(シュッツ)が遠目に何かを見つけたようでした。


「ミケラルド様ですか!?」


 私は声を荒げながらそう聞きました。

 しかし、シュバイツ(シュッツ)は険しい顔で私を見ました。


「いえ、ですが……ただ事ではない様子です」


 私は目を細め、コリンはダイモンの肩の上に乗ってそれを見た。

 小首を傾げたコリンが言いました。


「……サブロウおじいちゃん?」

「ありゃフェンリル(ワンリル)じゃないか」


 コリンとダイモンは別の者を見ていました。

 私が最初に捉えたのはフェンリル(ワンリル)に乗っているパーシバルでした。

 見れば、ドゥムガやグラムス、ラジーン率いる暗部全員がここを目指して走っているようでした。

 しかし、あれは……物凄い形相です。

 まるで何かから逃れるような……?


「ば、バッカじゃないの、アイツ!」


 フェンリル(ワンリル)に乗ったパーシバルはそう言って私の横を通り過ぎて行きました。


「こんなところ、命がいくつあっても足りないよ!」


 ナガレが私の頭を踏み台にしてどこかへ跳んで行きました。

 見れば、ラジーンまでもが通り過ぎて行きそうな勢い。


「ラジーン」


 私は彼を止めました。


「は、は!」

「一体何があったのです?」


 暗部やフェンリル(ワンリル)が逃げ出すような一大事。

 私は事態を把握するしかありませんでした。


「そ、それが……」


 背後を恐る恐る振り返り、ラジーンは目を奮わせながら言いました。


「あ……ミ、ミケラルド様はご無事です! い、以上! 報告終わり!」


 今や彼の実力はSSS(トリプル)相当。逃げ出す彼を私は止める事は出来ませんでした。

 何故なら、私が今一番欲しい情報を、彼は提供してくれたのだから。


「はぁはぁはぁ!」


 遅れてドゥムガが……何故かダイモンの後ろに隠れました。


「ガキ! 俺を守れ!」


 コリンに守ってもらおうとする魔族がいるとは思いませんでした。


「へ?」


 コリンがダイモンの肩から降りてドゥムガの様子を(うかが)うも、彼はその大きな身体を丸くさせ、震えて小さくなっていました。

 ミケラルド様がご無事という報告を受けているとは言え、これは異常事態。

 私は再び目を細め、遠くを見たのです。

 するとどうです? 目ではなく、耳から情報が入ってきたのです。

 聞こえるのは…………音楽?


「あれは……!」


 ようやく私の目が捉えたのは……目深に被った音楽隊の帽子、やがて見える六人の音楽隊。指揮をとり、笛を鳴らし、ドラムを叩く六人の音楽隊。

 ですが私にはわかります。あの音楽隊こそミケラルド様。

 彼はダイモンに言いました――凱旋の音楽はいらないから、と。

 それは彼が恥ずかしがったからではない。あれを見てはそうは言えません。ミケラルド様はご自分で凱旋の音楽隊を結成したのです。

 その後ろから歩いて来る五人を見て、私は全てを理解しました。

 何故、Z区分(ゼットくぶん)であるフェンリル(ワンリル)が逃げ出し、ドゥムガがコリンを盾にしているかを。


 中央を歩くリィたん様、先日、お忍びでいらした地龍テルース様、木龍(クリュー)様、そして炎龍(ロイス)様。既に伝説の四龍がミナジリ共和国にいるにもかかわらず、彼らと同列に扱われている五人目。

 だからこそわかってしまう。この五人目の方は……おそらく雷龍シュガリオン。

 逃げる訳です、隠れる訳です。

 何故なら、私はこの後に訪れるであろう多忙極める歓迎パーティの準備から……逃げたいと思ってしまったのですから。

昨日更新出来なかったので、本日は二話投稿予定です。(現在1/2)


次回:「その689 霊龍からの使い」

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