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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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◆その683 本気対本気1

「今回の戦い、霊龍の意図は全くなし。雷龍シュガリオンのみの意思でミナジリ共和国を脅迫したものと受け取る。それでいいな?」


 ミケラルドの言葉には怒気以上の冷静さがあった。

 まるで、雷龍シュガリオンの意思を再確認するように。


「その通りだ。我、雷龍シュガリオンは、ミナジリ共和国に対し宣戦を布告する」

「……ならばこれは――」

「――戦争」


 ニヤリと笑う雷龍シュガリオン。

 それを聞き入れたところで、ミケラルドは魔力の渦に持ち上げられるように身体を浮かべた。この膨大な魔力に人間側が驚くも、雷龍シュガリオンの見解は違った。


「魔力のコントロールが甘いな。そんなものはただの魔力暴走と変わらん。魔力を高密度に圧縮し、身体の稼働に合わせ、瞬間的に爆発させる。これこそが真の強者たる魔力発動だ」

「あぁそうですか」


 直後、ミケラルドは中空から雷龍シュガリオンに向かって跳んだ。


(速いっ!?)


 雷龍シュガリオンの突進に勝るとも劣らぬ神速。

 これを受け、雷龍シュガリオンは大きく目を見開いた。

 辛うじてかわしたものの、ミケラルドの攻撃は止まらなかった。


「サイコキネシスの障壁を蹴り、足に掛けた魔力操作で速度を上げているのか!」

「エアリアルフェザーっていう魔女ラティーファの置き土産です」

「なるほど、魔力の渦で初撃のその行動を隠していたか。どこまでも策士だな……面白い!」

「【アイス・ビットレーザー】」


 ミケラルドの周囲に氷のビットが出現する。

 これを見て、勇者エメリーがサンドウィッチを咥えながら立ち上がった。


あれは(はへは)!」


 それは、先日の武闘大会でエメリーとミケラルドが戦った時に発動した魔法。

 これに対し、雷龍シュガリオンが笑う。


「雷龍に対し水魔法とは片腹痛い! カァアアアッ!!」


 放電により【アイス・ビットレーザー】を迎撃……出来るはずだった。


「何っ!?」


 雷龍シュガリオンは、ミケラルドの魔法を撃ち落とす事が出来なかった。


「水はそうですけど氷はあまり電気伝導しないんですよ。まぁ、絶縁体って訳じゃないんで、これは貴方を油断させるためのフェイクです。フッ!」


 直後、ミケラルドの身体から六体の分裂体が現れた。

 その一体一体の分裂体の周囲には、ミケラルドと似たビットが取り巻く。


「【ブレイズビットレーザー】」

「【ウィンドビットレーザー】」

「【ボルテックビットレーザー】」

「【アースビットレーザー】」

「【フォトンビットレーザー】」

「【カオスビットレーザー】」


 扇状に広がったミケラルドの分裂体は、雷龍シュガリオンに向けて無数のレーザーを放ち、その後を追った。


「くっ!?」


 その数は凄まじく、雷龍シュガリオンの身体能力をもってしてもかわし切る事は出来なかった。

 一つ、二つ、三つの焦げ目が雷龍シュガリオンに出来た時、次の行動が決まった。


「まずは貴様からだ!」


 狙ったのは【ボルテックビットレーザー】を放っていた分裂体。雷龍シュガリオンは雷魔法との相性を考え、この分裂体の(ふところ)に飛び込んだとしてもダメージを受けないと判断したのだ。

 だが、これをさせないのがミケラルドである。


「ここに来るように仕向けたんですよ」

「くっ! これもフェイクか!」


 分裂体の前に現れたミケラルドの攻撃が炸裂する。


竜爪(りゅそう)四裂弾指(しれつだんし)!」


 十の爪が雷龍シュガリオンを襲う。


「遅いわ!」


 その全てをかわす雷龍シュガリオン。


「動きが止められればそれでいいんですよ!」


 言うと、ミケラルドの姿が雷龍シュガリオンの視界から消えた。


「【ゾーン】を習得していたか!」


 後に残ったのは――雷魔法を使っていた分裂体。

 直後、分裂体が閃光を放つ。身体の内側からボコボコと肉が膨れ上がり、その内から強烈な光を零す。


「まずい!」


 雷龍シュガリオンが、分裂体の大爆発に気付いた時はもう遅かった。直撃を受けた雷龍シュガリオンは、体中から煙を上げ、鋭い目つきでミケラルドを見る。

 しかし、ミケラルドの動きは止まる事はない。


「ほらほら、どんどん逃げないとまだまだレーザーが狙いますよ」


 そう、吹き飛んだのは一体の分裂体。

 残りの五体はまだ残っているのだ。


「……強くなったじゃないか、吸血鬼のガキ!」

「まだまだですよ。俺はね、貴方を踏み台にして更に上に行く……!」

「ガァアアアアアアアアッ!!」

「ハァアアアアアアアアッ!!」


 雷龍シュガリオンとミケラルドが()え、互いの強大な魔力がぶつかり合う。

 大地が爆ぜ、大気が震える。


「わわわっ!?」


 揺れる大地を掴みながら、ナタリーは空を見上げる。


「神話の世界だな、こりゃ」

「鬼っ子、あの高みに行けると思うか?」

「行くさ、行けねぇなんて言えねぇよ」


 剣鬼オベイルと剣神イヅナはただただ五色の(いただき)と戦うミケラルドを見つめ、追っていた。

 リィたんの足下にミケラルドが吹き飛んでくる。

 硬い岩盤を穿ち、それでも這い出て来るミケラルドにリィたんが言う。


「いけるか、ミック?」

「勿論、皆を守らなくちゃ」


 その目には、ミケラルドがかつて持っていなかった自信があった。それを聞き、見たリィたんが目を丸くする。


(あの時の吸血鬼が、ここまで大きくなったか……)


 そう思いながら、くすりと笑みを零すリィたんにジェイルが言う。


「完全に巣立ったな」

「あぁ、ミックは強い。流石は我が(あるじ)だ!」


 喜ぶリィたんに、ジェイルが笑う。


「ふっ、弟子の成長を喜んでいいものか、突き放される実力に悲観すべきか……悩みどころだな」


 大空を見上げるジェイル。

 雷龍シュガリオンとミケラルドの本気対本気。

 激しい衝撃が空から空へ、空から大地へ。

 衝撃波となって世界に轟き響くのだった。

次回:「◆その684 本気対本気2」

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