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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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674/917

◆その671 オリハルコンズ式脱出げえむ5

 皆はミケラルド以上にファーラへ目を向けていた。


「うぅ……」


 いくつもの視線に顔を手で覆うファーラ。

 これを見たミケラルドが微笑む。


(何だこの可愛い生物は? 吸血鬼? こんな可愛い生物が俺やスパニッシュと同じ種族な訳がないだろう?)


 そう思いながらも、ミケラルドは数拍手を叩いて皆の視線を元へ戻させた。


「はいはい、席に座ってください。座らないと噛んじゃいますよー」

「冗談になってないですよ、ミケラルド先生」


 ミケラルドの背後を通り過ぎながらアリスが言う。

 オリハルコンズの皆もミケラルドを横切り着席していく。

 最後に慌てながらファーラが着席すると、ミケラルドが教壇に立ち言う、


「『オリハルコンズの皆さん、お手伝いありがとうございました』と言えないのがとても複雑です。なので、臨時のパーティリーダーとして『よくやってくれました』と言うのが適切でしょうか」


 この言葉に、くすりと笑うリィたんとナタリー。


「さて、今回の皆さんは、初回だというのに非常に優秀だったと言わざるを得ません。クリアした方は八割以上、失敗した方もかなり惜しいところまで進み、驚かせてくれました。各々ボス役がリィたんだったり、クレアさんだったりナタリーさんだったりしたと思いますが、基本的な最高評価攻略はボスが仮想ダンジョンを出る一瞬だけです。この中で最高評価を出したのはごく少数。やはり瞬間的な判断が求められるため、冒険者組から出ましたね」


 これを聞き、最高評価を出せなかったゲラルドがピクリと反応する。


(やはりいるのか……)


「その通りですよゲラルド君。これはどうしても実戦経験がものを言いますからね。仕方ないと言えば酷かもしれませんが、彼らが積み上げたものですからやはり仕方ないのです。さてさて、皆さんの席の前に置いた攻略本の最後のページには、もう一つの攻略法の存在をほのめかしておきましたが、まさか達成する方がいるとは思いませんでした」


 ミケラルドがちらりとファーラを見る。


「は、はい!」


 攻略本を呼んでいたファーラがハッとし、立ち上がる。

 すると、サラがそっと手を挙げた。


「あの……それって一体どうやったんですか? 私がクリアして講義室に来たら、ファーラさん追いつくようにやって来ました。そんな短時間ではトイレの固定具すら外せないと思うんですけど……?」


 サラの疑問は(もっと)もだった。

 だからこそ、皆は好奇心以上の興味をファーラに向けていたのだ。またも向けられた視線に、ファーラはおろおろとしながらミケラルドを見た。


「だそうですよ、ファーラさん?」


 ミケラルドが発言の許可を出すようにそう言うと、ファーラは攻略本を覗き込んだ。

 これを見て、オリハルコンズ以外の皆は首を傾げた。

 ミケラルドは皆の疑問の声を先んじて止めるように手を挙げた。まるで「少し待ってやれ」と言いたげなミケラルドのジェスチャーを受け、皆は沈黙を保った。

 しばらくすると、ファーラが攻略本をパタンと閉じた。

 そして言ったのだ。


「仮想ダンジョンの中ってこうなってるんですね(、、、、、、、、、、)


 それは、皆が期待した答えではなかった。

 それどころか皆に理解出来ない答えだったのだ。

 しかし、ここで驚き立ち上がった生徒がいた。


「お、勘が鋭いですね、ゲラルド君」


 ゲラルドはファーラの一言だけで気付いたのだ。

 仮想ダンジョンの特殊な攻略法を。


「くっ、そういう事か……!」


 悔しそうなゲラルドを見て、ルナが立ち上がる。


「ファーラさん、一体どういう事でしょうか? ファーラさんはまるで仮想ダンジョンの中に入っていないかのようなお言葉でしたが……」

「え、えっと……」


 困った様子のファーラに、ミケラルドが助け舟を出す。


「半分正解で半分間違いです。ファーラさんは仮想ダンジョンには入りました。しかし、あの牢屋にまでは出ていないんですよ」

「「っ!?」」


 皆が驚きを隠せずにざわつく。


「先生! それはどういう事でしょう! あの入口から牢屋までの間に別のルートがあったという事でしょうかっ!」


 サラが立ち上がり興奮気味に聞く。


「いえ、出入り口から牢屋までの空間は約一メートルです。別の道を用意する事は難しいですねぇ」


 ミケラルドが言うと、レティシアがバッと立ち上がって言った。


「わ、わかりましたっ!」

「お。流石ですね、レティシアさん。私のヒントに気付きましたか」


 ミケラルドの言葉にサラが小首を傾げる。


「ヒン……ト?」


 サラがミケラルドを見るも、彼は口を噤んだままだった。サラはレティシアに視線を向ける。


「ミケラルド先生は仰いました。出入り口(、、、、)と」


 このレティシアの言葉を聞き、皆が解答に行き着く。

 すると、ニコリと笑ったミケラルドが嬉しそうに説明を始めたのだった。


「最初に言ったでしょう? 【仮想ダンジョンからの脱出が目的】だと。牢屋側に皆さんが出るまでの間、皆さんが【入口】だと思っていた穴は開いていました。私、ずっとVサイン送りながら笑ってたのに、皆さん振り向いてくれませんでしたねぇ。いや~、残念っ♪」


 悔しそうに頭を抱える冒険者組と正規組。

 ミケラルドはルール説明の際に言っていたのだ。

 ――今の段階のあなた方であれば確実にクリア出来る任務です。


「でも、そういう事です。灯台下暗(とうだいもとくら)し。入口から出ようとも脱出は脱出です。ファーラさんは短いながらも暗い空間にちょっと心配になってしまったんでしょうね。不安そうにこちらに向いてくれました。それで気付けたという訳です。彼女の性格勝ちという事でもありません。振り返る事が重要なのは皆さんも知っているはずですから。そして何より重要なのは、牢屋に入る以前に気を抜いてしまったという事。入ってクリアしてやろうという向上心が、出入り口の穴を曇らせてしまった。出入り口(そこ)から仮想ダンジョンが始まっているのに、出入り口(そこ)(おろそ)かにしたと言えるでしょう」


 そう言い切ると、ミケラルドは誰よりも悔しそうなルナを見た。そしてルナにウィンクを送ると、彼女は更に深く頭を抱えたのだった。


(昨晩ルーク(ミケラルド)殿に聞きに言った時……!)


 ――という訳で、護衛のルーク殿になら意見を聞いても問題ないと思いまして。

 ――それでルナ王女殿下とレティシア様がこんな時間に。そうですね、あのミケラルドという講師は本当に性格が悪い(、、、、、)ので用心するに越した事はないでしょうね。

 ――それ、ルークが言うとおかしいんじゃない?

 ――ははは、自分でもわかってるんですよ、レティシア様。とっても性格が悪いって。いやー、最強に悪いですよアイツは。性格がねじれ過ぎて、切れて骨太になってまたねじれた感じですからね。だからその性格の悪さが仮想ダンジョンに表れるんじゃないでしょうか。

 ――ルーク殿、もう少し具体的な意見を頂ければ……。

 ――えー? そうですか? かなり具体的だと思ったのですが、ルナ王女殿下はどんな事をお聞きになりたいのでしょう?

 ――そうですね、オリハルコンズの皆さんの役回り……とか?

 ――あー、そっち(、、、)ですか。そうですかそうですか。やっぱりリィたんとかの動きが気になってしまいますか。

 ――えぇ、かなり。

 ――あんまり気にしなくていい(、、、、、、、、)とは思いますが、何しろあのミケラルドって野郎は性格が悪いですからねぇ。


 そんなやり取りを思い出したルナ王女は、机に突っ伏しながら――、


「む゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛っ゛……!」


 声にならない悔しさを響かせたのだった。

次回:「その672 撮影会」

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