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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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672/917

◆その669 オリハルコンズ式脱出げえむ3

2021/10/3 本日二話目の投稿です。ご注意ください。

 ゲラルドが隠れると同時、その部屋には木箱を抱えたハンも入って来た。そこでラッツが立ち止まる。


「ヨォ! しっかり巡回してるか、ラッツ?」

「問題無いです、兄貴」


 その会話から、ラッツの上役がハンである事を理解するゲラルド。ハンは中央のテーブルの前にドカッと腰掛け、持っていた木箱を開封した。

 木箱の中からハン取り出したのは、ミケラルドがハンのために作った【ハン用汎用型ハン】という土塊人形(フィギュア)だった。

 ハンは、これを眺め顔をうっとりさせる。


「やっぱいいよな、この横顔。キマってるぜ。双剣を構えてるところなんか、俺の特徴をよく捉えてるぜ、なあラッツ」

「そうですね、兄貴」


 またラッツが動き始める。その動きを観察していたゲラルドが不可解な点に気付いたのが、ラッツが部屋の中を巡回した二周目。

 また、先程と同じところでラッツが立ち止まったのだ。


「やっぱいいよな、この横顔。キマってるぜ。双剣を構えてるところなんか、俺の特徴をよく捉えてるぜ、なあラッツ」

「そうですね、兄貴」


 先程と全く同じ内容の会話。

 この規則性に気付いたゲラルドは、次にラッツとハンの視線の動きを追った。再びラッツが部屋を二周するのを待つ。


(なるほど……)

「――なあラッツ(、、、、、)

「そうですね、兄貴」

(ハンがラッツに語りかけるこの一瞬、二人の視線が重なり、比較的大きな死角が生まれる。俺が動けるのはこのタイミングという訳か)


 観察すれば確実にわかる盗賊の隙。

 ミケラルドは実戦に近い形式でそれを生徒に教えようとしているのだ。無論、このように規則的に動く人間はいない。しかし、ゲラルドが二人の規則的な動きを三回で見抜いたように、これを二回、一回と減らす事が出来ればいいだけなのだ。

 部屋を脱したゲラルドは、その後もナタリーとメアリィのおしゃべり現場や、キッカが雑用のレミリアの仕事を叱る現場に遭遇し、徐々に複雑になる規則性を少しずつ紐解いていった。


(残り三十分というところか……)


 ゲラルドが残り時間を気にし始める頃、彼の前には仰々しい鉄の扉が現れた。そこには貼り紙があり、こう書かれていた。


【ここまで攻略するとは流石ゲラルド君! 次が最後です。採点基準は簡単。通常クリアはそのまま脱出する事。最高評価でのクリアは、自分の武器を取り返して脱出する事です! 残り時間を使ってよーく考えてクリアしてくださいね!】


 ゲラルドはそれを読み、喉を鳴らした。

 ゲラルドの武器を持ち去ったのは他ならぬリィたんである。彼女から武器を取り返す事の難度をゲラルドにわからないはずがなかった。

 そっと鉄の扉を開けると、ゲラルドの視界にはとんでもないものが映った。ニヤリと笑うリィたんが夥しい魔力を放出し、腕を組み仁王立ちしていたのだ。

 その両サイドには勇者エメリーと聖女アリスが申し訳なさそうに腰掛け、出口と(おぼ)しき扉にはクレアが寄りかかっていたのだ。

 勿論、全員が黒のスーツを纏っている。


「あの……このサングラスっていうの、凄く見辛いんですけど……?」

「アリスちゃん、そんな台詞あったっけ?」


 アリスとエメリーがヒソヒソと会話するも、それはミケラルドが意図しない会話だった。

 カンニングペーパーを確認したクレアが二人に言う。


「アリスさんが言いそうな悪態……十五ページ……あった、サングラスに対する不満。え、えーと……コホン。『視界を悪くする事で我々の能力を簡易的に下げる効果がある』との事です」

「その台本、私貰ってないんですけど……?」


 アリスがクレアに聞くと、


「台本に対する不満……あった。えー、『アリスさんは自然体が一番面白いから』としか書いてありませんね?」

「存在X……!」


 悔しそうなアリスの剥き出しの魔力を受け、物陰に隠れていたゲラルドは眉を(ひそ)める。


(聖女アリス……あの魔力量は最早(もはや)先代聖女のアイビス皇后を超えているかもしれないな。しかもここには聖女エメリーとランクSになったクレアまで。そのクレアはともかく、リィたん含む三人は俺がここに入った事にもう気付いている。ゲームという特性故、気付いていないフリをしているだけだ。俺の武器は――)


 ゲラルドが向ける視線の先にはリィたん。

 そして、リィたんが背に(たずさ)えているのが、ゲラルドの武器である。


(あれを取り返せば最高評価……)


 目を細めるゲラルド。

 ゲラルドとの対戦を今か今かと待っているリィたんの魔力は、濃く重かった。ピリピリした空気の中、ゲラルドは最後の部屋の至る所に視線をやった。しかし、武器を取り返すどころか、クレアを抜き去り扉に手を掛ける道も見出(みいだ)せなかった。


(活路は現状なし……か。ならばここは持久戦といったところか)


 その判断の通り、ゲラルドはそこから残った時間を可能な限り使った。途中、エメリーやアリスが動き回り視線を動かしてゲラルドを捉えようとしたが、ゲラルドはこれに気付き難なく回避した。

 そして、その時がやってきた。


「そろそろ闇商人との待ち合わせの時間です、ボス」


 クレアがそう言うと、リィたんはわざとらしい舌打ちをした。


「ち! もうそんなじかんか!」


 棒読みのリィたんにアリスとエメリーが苦笑する。

 クレアが出口を開け、リィたんと共に消えて行く。

 次の瞬間、ゲラルドは一気に出口へと駆けたのだ。

 アリス、エメリーの視界にその姿を捉えられるも、ゲラルドの足は彼女たちの行動よりも早かった。

 出口を抜け、仮想ダンジョンから出たゲラルドはホッと一息吐いた。そんなゲラルドの耳に届く拍手音。


「お見事です、ゲラルド君」


 振り返るとミケラルドがそこにいた。


「最高評価は得られませんでした」


 ゲラルドが歯痒そうに言うと、ミケラルドはその顔を覗き込むように言った。


「見てましたよ。でも今なら、どうすればよかったかわかるんじゃないですか?」

「狙うはたった一回の隙。クレアが出口を出て、リィたんが出口を出るその一瞬……」

「その通りです。あのタイミングでしかリィたんから武器を奪う事は出来ませんでした。しかし、それに気付いた時にはリィたんは仮想ダンジョンの外。最高評価は絶対に手に入らない場所に消えている。どうです? 面白かったでしょう?」

「確実に生徒を叩き、成長を促す手腕は流石と言えます。正直、ここまで深いものだとは思いませんでした」

「うんうん、始めに比べて随分と素直になってくれましたね。今回の脱出ゲームの攻略本を講義室に用意してあります。これから先はそれで自習していてください」


 ミケラルドがそう言うと、ゲラルドは小さく会釈をした後、講義室に向かったのだった。

次回:「◆その670 オリハルコンズ式脱出げえむ4」

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