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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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◆その667 オリハルコンズ式脱出げえむ1

 ミケラルドが講師として提案した指定任務。

 その前日、夜深くまでリーガル国の王女ルナは悩んでいた。

 持ち帰り可とされた説明用の冊子を前に、顔を難しくさせるルナ。

 それを困った様子で眺めるヒフミヨシスターズ。


「困りましたわ、ヒミカお姉さま」

「そうね困ったわね、ヨミカ」

「どうしましょう、フミカお姉さま」

「我々に出来る事は少ないわ、ミミカ」

「「おろおろ」」


 そんな四人の声をステレオで拾ったルナは、深い溜め息を吐いて言った。


「で、出来ればもう少し静かにして欲しいのだけれど……」

「「かしこまりました」」


 一糸乱れぬ返答をした四人は、更に声を落として言った。


「「おろおろ」」


 眉間のあたりにピクリと反応を見せたルナ。

 すると、部屋にノック音が聞こえた。

 直後、すっと消えるヒフミヨシスターズ。

 ギョッとしたルナが催促のようなノックに反応し、ドアを見る。


「ひっ!?」


 ルナが驚くのも無理はなかった。なんと、ドアの上部の天井にピタリと張り付いたヒミカ、フミカ、ミミカの三人を見つけたのだ。最後の一人であるヨミカは部屋にある唯一の窓を警戒していた。


(さ、流石はミケラルド殿が手配してくださった精鋭。動きに無駄がありませんね……)


 そう思いながらルナは立ち上がり、ドアに向かう。


「はい?」

『ルナ王女殿下、レティシアにございます』


 レティシアが公爵令嬢とはいえ、ルナ王女の部屋を訪れる時間としては夜も深かった。しかし、レティシアも政治や礼儀がわからない人間ではない。それでもなお訪問する、よんどころない理由がある。そう察したルナは、そっとドアを開けた。


「いかがしました、このような時間に?」

「明日の事で少々お時間を頂けないでしょうか?」


 互いに知らぬ仲ではない。コクリと頷いたルナは、レティシアを部屋に招いた。ドアを閉め、振り返った瞬間、ルナはまたギョッと目を丸くした。

 部屋の中には、レティシア、ヒフミヨシスターズ以外にもう一人いたのだから。


「ヒ、ヒミコ殿……!」


 整列したヒフミヨシスターズの前に立つヒミコ。彼女はミケラルドが用意したレティシアの護衛。同じ寮内という事もあり、レティシアに付き従うのルナでも理解出来る。しかし、招いた覚えのない存在がいた事で驚きを露わにしてしまったのだ。


「こんばんはぁ、ルナ王女殿下。お茶が冷めてしまいますよぉ」


 微笑を浮かべるヒミコ。

 見れば、今まで座っていた場所には二人分の茶が用意されていた。


「はぁ……」


 何度起ころうとも慣れないその環境に、ルナはまた深い溜め息を吐いた。

 ルナが腰掛け、それに続きレティシアが腰掛ける。


「それで、明日の件でという事ですが、どういう事ですか?」

「私、ようやく気付いたんですっ」


 テーブルから身を乗り出すように肉薄するレティシア。


「な、何がでしょう?」

「ミケラルド様は昨日私が質問した時に言いましたっ!」

「昨日……? レティシアさんの質問というと……――」


 ――あの……やっぱり護衛は……?


 それは、ルークという護衛を付けられないのか、という質問だった。

 それを思い出したルナが小首を傾げる。


「護衛の付き添いは禁止。これに気付く点なんてあるんですか?」

「問題はその前ですっ!」


 更に肉薄するレティシア。


「ま、前……?」


 再度思い出すルナ。


 ――えぇ、当日は護衛の付き添いは禁止です。


 ミケラルドの言葉を思い出すと同時、ルナがハッとした様子でレティシアを見た。それはもう満面の笑みを見せるレティシアを。


「当日の護衛付き添いは禁止。しかし、当日以外であればその限りではない……そういう事ですね?」

「はい! 護衛と相談してある程度の対策や相談が出来るんです!」

「盲点でした……自分の力だけで乗り越えようと、ずっと考え込んでましたから」


 そう言って、ちらりとヒミコたちを見るルナ。

 彼女たちは微笑みむばかりで何も言ってこない。


(あの人たち、気付くまで黙ってましたね……)


 ルナがそれに気付くも、その微笑みを覆す事は出来なかった。


「大丈夫です。まだ時間はあります!」


 バッと立ち上がるレティシア。


「えぇ、勿論です」


 意気込むように立ち上がるルナ。

 二人はルークの部屋に行こうとドアに足を向けた。

 そこに、くすくすと笑う声が届く。

 背後から聞こえるヒミコに二人が振り返る。


「な、何か?」

「なーに、ヒミコ?」

「もしかしてお二方、そのお姿(、、、、)であの御方の下に行くのですかぁ?」


 そう言われ、自らの姿を見合う二人。

 ルナの目に映る、すっぴん寝間着姿のレティシア。

 レティシアの目に映る、すっぴん寝間着姿のルナ。

 たとえルナが勝気の王女だろうと、たとえレティシアが策略型公爵令嬢だろうと、顔を真っ赤に紅潮させてしまう。

 ニタリと笑うヒミコが言う。


「夜深くに寝間着姿で殿方の部屋へ訪問。もはや政治を抜きにした強硬手段。流石の私も顔が火照ってしまいますわぁ。まぁ、あの御方でしたら、そちらのがお好みでしょうけど」

「「あらあらまあまあ」」


 ヒミコ、ヒフミヨシスターズが顔をほんのり赤くさせ、わざとらしくはじらう。


「え、ホントッ!?」


 というのはレティシアだけで、ルナ王女はそそくさと鏡台の前に座った。


「それだけ火照ってると、チークは必要ないかもしれませんねぇ?」


 ヒミコがルナを煽る。


「お、おお、お黙りなさいっ! レティシアさんも早く準備を」

「えー、でもヒミコがこっちのがいいかもって言ってましたよ?」

「だ、ダメです! こ、これは高度に政治的な話なんですっ!」

「あ、だったらもう少し薄手の寝間着のがいいいかもしれませんね」

「ち、違いますっ! 断じて違うのですっ!」


 指定任務前日。

 重ねて説明するが、これは指定任務前日の夜の出来事である。

次回:「◆その668 オリハルコンズ式脱出げえむ2」

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