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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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669/917

その666 ルール説明

「――と、いう訳で、明後日は皆さんに指定任務が与えられます」


 ざわつく講義室。

 ルナ王女とレティシア嬢は、分裂体(ルーク)を挟んで何やらヒソヒソと話している。サッチの娘サラも、吸血鬼ファーラも、ゲオルグ王の息子ゲラルドも、その目にはやる気が垣間見えた。


「ミケラルド先生」


 挙手したのはルナ王女。


「はい、ルナさん」


 俺がルナ王女を差すと、彼女は立ち上がって俺に聞いた。


「その、指定任務について詳しく聞く事は可能でしょうか?」

「事前聴取は任意ですが、聞かない事は愚かと言えます。あ、ルナさん、お掛けになって結構ですよ。……さて、指定任務とは、聖騎士学校が指定する特殊な任務です。聖騎士の称号を得るためには必要不可欠の任務。そしてその特筆すべき点は、正規に入学した方々の護衛を付けられないという点と、命の危険に関わるという点です」


 先のナタリーやエメリーとは違い、俺は不穏なVサインを皆に見せつけた。

 戦いに慣れない者は、皆、喉を鳴らし緊張を露わにしている。


「ここまでは皆さんも事前情報として知っている事でしょう。しかし、いきなり皆さんを命に関わる任務に放り出す程、聖騎士学校は馬鹿ではありません。皆さんに行ってもらうのはその前段階の任務だと思ってください。従って、今回の指定任務で命を落とす事はありません」


 これを聞き、ホッと息を漏らす生徒たち。


「ですが、負傷は覚悟しておいてください」

「「……っ!」」


 流石だな、今の二年生であれば「何だそんな事か」と笑い飛ばす者もいるかもしれないが、懇切丁寧に指導した甲斐もあって、一年生はこの意味をしっかりと理解しているようだ。


「そうです、かすり傷で済むと思わない方がいいですよ。脅しではありません。注意を怠れば四肢欠損や失明も十分にあり得ます。言ってしまえば、致命傷すらも死ぬまでは負傷ですから。命の危険がないといっても、その恐怖から心に傷を負ってしまうかもしれません。指定任務の特性上、不参加をする事も可能ですから、熟考に熟考を重ねた上で参加意思を決めてください」


 とても良い緊張感である。


「当然、万全なサポートを行いますし、こちらで失格を言い渡す場合もあります。ですが、ここで明言しておきます。今の段階のあなた方であれば確実にクリア出来る任務です。もし出来なければ、私自らが一緒に立ち合い、何がいけなかったのか検証しましょう。さて、今配っている冊子には、明後日に行われる指定任務の詳細が書かれています。大まかなルールだけ説明します。あ、メモはご自由にどうぞ」


 皆がルールブック覗き込みながら聞く。


「まず、任務に参加した時点で、皆さんの実力に合わせてこちらが動きます。たとえば、ゲラルドさんが任務に入れば、任務のボスがリィたんになりますし、ルナさんだとナタリーさんがボスになったりします。皆さんは、私が【土塊(つちくれ)操作】で造った仮想ダンジョンに入り、謎を解き、敵と戦い、(ある)いは隠れ、(ひそ)み、最終的には仮想ダンジョンからの脱出を目指すという任務です」


 次に手を挙げたのはサラだった。


「はいどうぞ、サラさん」

「これは所謂(いわゆる)潜伏任務スニーキングミッションという事でしょうか?」

「可能だと判断したならば、正面突破をしても構いません。非常に難しいかもしれませんが、出来るようには造る予定です」

「ありがとうございます」

「他に何か質問は?」


 皆に聞くと、次に手を挙げたのはファーラだった。


「はい、ファーラさん。どうぞ」

「えと、ダンジョンや敵の規模は……?」

「規模は正規組の寮くらいでしょうか。想定する敵の数は当日ご自分の目で確認してください」

「あ、ありがとうございます」

「次、ゲラルドさん」

「時間は?」

「一時間でタイムアップとします。他には?」


 すると、最後にレティシア嬢がちょこんと手を挙げた。


「はい、レティシアさん。どうぞ」

「あの……やっぱり護衛は……?」


 こういうところはレティシアらしいな。

 念のための確認、これはどの時代、どんな場所でも忘れてはいけない事である。


「えぇ、当日は護衛の付き添いは禁止です」

「うぅ……はい」


 しゅんとするレティシアを見てなごむ俺。

 そんな俺の視界の端に、ブツブツと呟く美少女が一人。

 聖女村のアリスさんである。


「あんなひねくれたダンジョン、どうやって攻略するんですかっ……そもそも何で私が悪役をしなくちゃいけないんですかっ……んもうっ」


 まぁ、オリハルコンズの皆には事前に見せたからな。

 ニヤニヤとして楽し気なのはキッカとハンくらいか。

 メアリィとクレアはやや困惑気味。エメリーは「うまく出来るかな……?」と不安気味。ラッツとレミリアはただ沈黙を貫き、リィたんは悪役の台詞を暗記中である。

 そしてナタリーは……、


「そっか、別に危険がなければアトラクションとして成立するのか。だったらミナジリミュージアム併設の娯楽施設として……うん、いける。この際だから悪役のお面かなんかを作ってグッズかしちゃうのもアリだよね。まだ草案だけど、これだけでお母さんとカミナは動く。ミナジリ共和国の新たな収入源と観光地として深みが増す……うん、いける」


 現場からは以上です。

次回:「◆その667 オリハルコンズ式脱出げえむ」

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