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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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663/917

その660 ミケラルド式盗賊討伐パート2

 ランクB相当の魔法使いが、法王国を根城にする盗賊をたった一人で制圧する。そんな夢物語があっていいものだろうか。現実は非常に厳しい。たとえ夢物語の主人公だとしても、多少なりとも肩書は必要だろう。

 勇者であるとか、賢者であるとか、右腕に邪龍を封印しているとか、開眼すれば相手が石化してしまう魔眼を持っているとか、失われし血脈の子孫で覚醒の余地がまだあるとか……他にも色々あるだろうが、ナタリーのスペックとして考えれば光魔法に適正のある鬼軍曹……あたりだろうか。決断力、判断力、そして魔力は優れているものの、腕力は並み。

 答えはそう、やはり夢物語である。

 俺だって【血の連鎖(ブラッドコントロール)】や【チェンジ】があるから、攻略が出来るだけであって、それだけのスペックで挑むとなれば死を覚悟する他ない。

 しかし、ナタリーが光魔法使いという事であれば、【チェンジ】に近い【歪曲の変化】という魔法が使える。

 ただ、これの使いどころは非常に難しい。

 使うにしても、彼らの根城の中にまで入り込まなければならないからだ。正面から使って門番を前に入れる訳がない。その時点で知ってる顔は門番だけなのだから。

 自分のドッペルゲンガーが出て来たとしても、それは戦闘になる事、必至なのだ。


『ルーク、どうするの?』


 ナタリーが【テレフォン】越しに小声で聞く

 本来、【テレパシー】を使った方が声が漏れなくていいかもしれないが、今回はマスタング講師の監視が付いている。ミナジリ共和国のナタリーが公に使えるとしたら噂になっている【テレフォン】と【ビジョン】系の魔法を使うのが最適だろう。だから、この二つの魔法はナタリーから貰ったという設定である。彼女はミナジリ共和国の創設メンバーだから、それくらい可能なのだ。


「しばらく待ち一辺倒(いっぺんとう)……ですかね」

『ちょっとルーク、何してるの……?』

「何って、顔に泥を塗ってるんですよ」

『そ、そんな事までするの……?』

「まだまだ、こんなの序の口ですよ」


 それから身を伏せて五時間くらい経った頃だろうか。

 夜も深くなってきた事から、流石にナタリーが痺れを切らした。


『ずっと待ってるよね?』

「門番の交代を待ってますからね」

『ト、トイレとかどうするの……?』

「その場でするに決まってるじゃないですか」

『……ふざけてないよね?』

「それはこちらの台詞ですよ」

『うぅ……』


 あくまで俺の行動を見て応用してくれればいいのだ。

 たとえ俺が、この場でぶちまけ、下半身が大惨事になろうとも、ナタリーがこれを真似なくてもいい。

 俺がナタリーに見せなければならないのは、一筋の光明。たとえランクB相当の魔法使いであろうと、盗賊を倒す事が出来るという光なのだから。


「っ! 動いた」

『門番の交代……だね』


 木の柵に覆われた盗賊の根城。

 そこの門番はたった一人。この時点で、俺たちは交代して行った門番の顔、新たに門番としてやって来た者の顔……二人の顔を拝んだという事になる。

【歪曲の変化】で使う顔は勿論前者。だが、今すぐでは怪しまれる。最低でも十分、いや、二十分は様子を見なければならないだろう。

 そして重要なのは、正面からではなく、柵に沿って先程の男を装った俺が現れる事である。


「ん? どうした? ていうかさっき中に入っただろ?」

(かしら)に言われてよ、柵に穴が開いてたから塞げってさ。確かに通り抜けられる程のでっけぇ穴があったから、ついでに外周見ておこうと思ってな」


 そこそこもっともらしい言い訳を用意しつつ、情報を引き出す。


「そりゃ災難だな。それとアイツにはボスって言わねぇと怒られるぞ」


 おっと、予想だにしない情報ゲット。


「ははは、お前もアイツって言ってるじゃねぇか」

「威張り散らすしか能がねぇじゃねぇか、アイツ」

「じゃ、威張り散らされないようにさっさと終わらせるかね。気ぃつけろよ」

「おう」


 言いながら俺は盗賊の根城に侵入して行く。


「おい」


 しかし、呼び止められてしまった。

 やっべ、バレたか?


「な、何だ?」

「反対側は見なくていいのか?」


 そっか、確かに外周見ておくとか言ったもんだ。


「後だ後、先に飯だよ」

「へっ、そうかよ」


 中に入る事に成功した俺は、ホッと一息吐いてテントの陰に身を隠した。


『ルーク、今ちょっと危なかったでしょ?』

「ちょっと何言ってるかわからないですね……」


 それから俺は、まずは交代した門番を探した。

 口調は盗賊風にしておけば多少の誤差は何とかなるが、交友関係や盗賊の中での立ち位置ともなれば話は別である。盗賊の数は二十人程。中央の広場で豪快に呑んでるのがボスだろうが、どれも実力はランクB~Aというところか。その中でも一番強いボスが……ふむ、出会った当初のラッツ程だろうか。

 で、俺が狙うべき門番は…………ははは、いいね。周囲にへいこら(、、、、)している。

 素晴らしい、彼は盗賊内カーストで言えばそこそこ下位に属するようだ。きっと先程の交代した門番とほぼ同等なのだろう。まぁ、だから門番扱いなんだろうな。

 本来、門番は要職。そこそこの実力者が就くものだが、相手が盗賊ともなれば、こんな采配になってしまうのだろう。


「ふ、ふふふふ……」


 俺がそんな笑い声を零すと、ナタリーが更に声を落として言った。


『ちょっとミック(、、、)、ルークのキャラに合ってないんだけど……?』


 我はミケラルド・オード・ミナジリ。

 物理的に泥水を(すす)れる者なり……!

今回も大概ですけど、次回に関して注意点。

主人公に自己投影するタイプの読者様だと大変な思いをするかもしれません。

でも、大丈夫。ここまでミックを見てきたあなたたちなら乗り越えられると信じてます。


次回:「その661 しっ、見ちゃいけません!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 泥水を啜ってキレイにしてから吐き出したりできそう
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