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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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662/917

その659 ナタリーからの挑戦状2

2021/9/25 本日二話目の投稿です。ご注意ください。

 これは、任務とは別の依頼を受ける前にあった、ナタリーとの会話である。

 俺たちは、午後の講義を休んでいる間、冒険者ギルドで優雅に茶をしばいていた。当然、それは作戦会議のためである。


「冒険者ギルドで別の依頼を受ける? どうして?」

「今回の指定任務。おそらく任務完遂が目的ではありません」

「へ? どういう事?」

「法王国の盗賊退治なんてランクSになったばかりのラッツさんでも無理ですよ」

「やっぱり? そうだとは思ってたけど。じゃあ聖騎士学校は一体何が目的なのかな?」

「依頼を受ける意気込みと、任務完遂が不可能だと判断する引き際を見たいんでしょうね。言い換えれば勇気や決断力、判断力を見るために、あえて完遂不可能な任務を与えてるんですよ」

「おー……なるほど」


 唸りながら納得するナタリー。

 すると、ナタリーは眉を(ひそ)めてから俺に聞いた。


「じゃあ、リィたんとかはどうなるの? 絶対に完遂出来るよね?」

「私が学校長なら……【ゴブリン討伐】とかにするんじゃないかな」

「あー、確かに」


 絶対に攻略出来る任務にする事で、聖騎士学校が用意した任務を守る。おかしな話なのだが、リィたん相手ではそうする他ないだろう。


「そっか、引く事も大事ってのを教えたいのか……」

「でも引きません」

「え!? 出来るのっ?」

「そのための事前演習ですよ」

「演習って……」

「おそらく、盗賊退治とは名ばかり。実際の任務では聖騎士たちが盗賊に変装して待ってます」

「大変な時期なのによく都合がついたね」


 軍備や政治の話になると、理解が早いよな、ナタリーって。


「ほら、ライゼン学校長枠で特別に入った人たちがいたでしょう」

「シギュンに復讐を誓ってた人たちね。確かに実力としては十分……か。あの人たちなら盗賊に扮する事も苦じゃないよね」


 シギュンに復讐しようとしていたライゼン学校長の部下たち。彼らはシギュンの手によって、聖騎士になれなかった者ばかりである。その中で優秀な者は、法王クルスの采配によって聖騎士になる事が出来た。元々実力としては十分。実力が届かない者も不足要員が発生した騎士団への入団を決めた。

 当然、ミケラルド商店に就職した者もいるとかいないとか。


「なので、本来であれば完遂は不可」

「でもやると?」

「だって、面白そうじゃないですか」

「うわぁ……」


 任務を受けた側のナタリーが引き気味に俺を見る。

 だが、ナタリーの心が決まるのにそう時間はかからなかった。そう、俺としてはこの任務さえも踏み台と思って欲しいのだから。


「それじゃあルーク君は、私くらいにまで力を落として盗賊討伐をするって事?」

「そうじゃないとやる意味はないですからね」


 すると、ナタリーは意気込んだ様子で拳を握って立ち上がった。なんだこの子は、主人公かな?

 そして、俺の耳元で「吸血はなしだからね」と囁いたのだ。なんだこの子は、ヒロインかな?


 ◇◆◇ ◆◇◆


 そして時は進む。

 俺たちは冒険者ギルドで受けた別の盗賊討伐依頼のため、法王国の南東にある森へやって来た。ここをもっと奥へ……そうだな、百キロ程進むとジュラ大森林辺りだろうか。


「――というのが私たちの推論です」


 そう言うと、目をつぶって何やら考え込んでいたマスタング講師は、ちらりと俺たちを見た。


「むぅ……」


 唸るばかりである。


「任務違反にはならないかと」

「いや、確かにそうではあるが……」

「そもそも、マスタング講師はここにいないという前提ですから、手は出せないはずですよね」

「……貴殿の実力は知っている。しかし、冒険者としても名を馳せているとは知らなかったであーる」


 やっべ。

 冒険者ギルドで俺のランクを偽らなくていいのは総括ギルドマスター室のみ。アーダインに都合してもらった依頼だが、ルークの姿でマスタング講師に話すのは無理があったか。


「ル、ルーク君は凄いんですよ……ははは」

「ふむ……」


 ナタリーのフォローも、いまいちマスタング講師に届いていない様子。


「ふん、まぁいいのであーる。任務内容から逸脱していない以上、私から言える事はないのである」


 そう言って、マスタング講師はまた消えていった。


「さて、ナタリーさんの実力で盗賊退治……か」

「本当に大丈夫? ……って、何してるの?」

「ご覧の通り、服を汚してます」


 地面の土で服を汚す俺を見て、首を傾げるナタリー。

 まるで、それが何に必要なのか、と言いたげな様子である。


「まずは盗賊の仲間に入るところから始めようかと」


 すると、ナタリーはまた小首を傾げた。


「聖騎士相手にそれが通じるとは思えないけど?」

「普通の盗賊には通じますよ。だから、ナタリーさんが実行する時は、この応用を頑張ってください」


 難しい顔をしたナタリーだったが、


「わかった、考えておく」


 何とか呑み込んでくれたようだ。


「盗賊攻略実況、乞うご期待……!」

「嫌な予感しかしないような……」


【テレフォン】と【追尾型ビジョン】のマジックスクロールを置き、俺は良い感じに汚れた服で、盗賊の根城へと向かったのだった。

 さぁ、久しぶりの【ミケラルド式盗賊討伐】といこうじゃないか。

次回:「その660 ミケラルド式盗賊討伐パート2」

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