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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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その647 バルリンダドリー2

 時間が止まった。

 いや、狐商人バルトの目は……ほっそ!?

 何だあの薄目は。髪の毛かと思ったぞ。

 やはり、止まっているのは俺の時間だけだ。バルトたちはしっかり自分の時間を持っている。

 落ち着け、バルトは何と言った?

 メアリィと俺が結婚? 何を言ってるんだこの狐は? 化かされたか? 国をあげての渾身のギャグか何かだろうか?

 とても正気とは思えないのだが……いやぁ~、どうも本気っぽい顔をしている。


「わ、私はミナジリ共和国の元首ですから――」

「――何を仰います。メアリィ様はローディ族長の孫。ミナジリ共和国の元首相手ならば格として申し分ないはず。それに、ミケラルド様にシェルフに住んで頂かなくても、メアリィ様がミナジリ共和国に嫁げば問題ありますまい?」

「そ、そうなるとシェルフの後継者問題が……」

「かねてよりメアリィ様はディーン様とアイリス様にご兄弟を強請(ねだ)られておりました」


 それは、親にとって一番恥ずかしいおねだりでは?

 しかも、この口ぶりからして、メアリィはその意味を理解しているようだ。こっわ、メアリィこっわ。


「た、たとえ私がメアリィ殿と結婚しても、シェルフの一族として認められる訳ないじゃないですか」

「ご心配には及びません。メアリィ様がミナジリ共和国に嫁げばシェルフの国益はこれまでと比較になりません。それだけで、ローディ族長、及びディーン様、アイリス様は勿論、メアリィ様、そしてミケラルド様のシェルフでの発言力は非常に大きくなります。世界一の武力国家の後ろ盾が付き、同時に水龍の加護を得られる。ミケラルド様もこれを数字に置き換えた時、どのような経済効果が出るかおわかりでしょう?」


 バルトはまるで、プロット段階から百回以上練られた企画書を読み上げているかのようだ。正直、(いち)商人としてバルトの言い分は(もっと)もだと思うし、元首が俺でなければ、『おぉ! どんどんやってくれ! お祭りだ!』と言いたいくらいの壮大且つ綿密な作戦である。そう、元首が俺でなければな。


「ですがメアリィ殿のご意思は――」

「――お忘れですかな? この妙案はメアリィ様が発案したものだという事を?」

「で、では私の意思です」

「なんと!? メアリィ様ではご不満だと!?」


 にゃろう。やけに強気じゃないか、バルトめ……!

 ……仕方ない。ここは正面から切り崩しにいくか。


「はぁ……今回の件、たとえ私とメアリィ殿が結婚したとしても、【聖域】の調査が出来るのは私だけという事になってしまいます。もし、【聖域】にSSS(トリプル)相当のダンジョンがあるとすれば、そこの踏破を目指すのは勇者率いる……オリハルコンズという事になります」

「オリハルコンズにシェルフの一族が二人もいれば、妥協点としてはよろしいのでは?」


 確かに、俺とメアリィが結婚すれば、オリハルコンズにはシェルフの縁者が二人もいるという事になる。シェルフが落としどころとして【聖域】ダンジョンに他種族を潜らせるのなら、それが妥当かもしれない。


「ですが、もっと先を見て頂かなくては困ります」

「というと?」

「勇者エメリー、聖女アリスの次代の事を考えて頂かなければ困ると言ったんです」


 勇者や聖女は何代にも渡って出現する。それは、この時代だけの結論であってはいけないのだ。

 どうやらバルトにもそれがわかっていたようで、先程までの押しはどこへやら、肩を(すく)めて身を引いてたのだ。


「……ふむ。何故、世の中はこうも困難が多いのか……何十年と商人をやっていても、こればかりは疑問に尽きませんな」

「それを乗り越えようと頑張るしかありませんよ」

「我々は商人、踏み倒す事など出来ませんからな」

「確かに」

「とまぁ、今回は我々の切り札を見せたに過ぎません。いつでもこのカードを切れるという覚悟の下、ミケラルド様をこちらへお呼びした次第」

「切り札ねぇ……」

「おや、ロレッソ殿に書状を(したた)めれば、必ずしも悪いお返事を頂くという訳ではないと思いますが?」


 まったくもってその通りだ。

 こんな話聞いたら、ロレッソなら、ニコニコしながら式場の建設を始めるだろう。そして、俺には魔王よりも強大な対ナタリー戦が待っている。

 あくどい顔をしてそう言ったバルトだったが、その後、パッと両手を挙げ、降参するように続けた。


「ですがやめておきます」

「どうしてです?」

「そうなれば、ミケラルド様が次に放つ一手が決まってしまう」

「……そうですね。シェルフを除く全ての国の代表から【嘆願書】を持って来ると思います」


 バルトは、寒そうに交差した手で自身の腕をこする。


「おぉ怖い怖い。やはりミケラルド様はどんどん大きくなっていらっしゃる。最早(もはや)、私如きでは太刀打ちが出来ない程に」

「ははは、もっと勉強しないとバルト殿には敵いません」

「ご謙遜を。最初からそれだけの手はあったのにも関わらず行使しなかったのは、ミケラルド様の徳というものです。ならば、私もシェルフの民というだけでなく、ミケラルド様……いえ、ミケラルド殿の友人として、報いねばならんのでしょうな」

「この場でその発言はまずいのでは?」

「何、ダドリーも、リンダ殿も負い目を感じているからこそ、ミケラルド様と目を合わせられないのです。(いわ)く、シェルフの英雄。曰く、シェルフの救世主。魔族の元首相手にここまで民が肩入れする理由は、ミケラルド様が出した結果故。回答は遅くなるでしょうが必ず出ますよ」

「お気遣いありがとうございます」


 俺がそう言うと、バルトはちらりとダドリーを見た。


「さてダドリー、この後はどうするかね? 先程、私は『ここまで』とは言ったが……?」


 先を続けず、聞かず。バルトの質問は曖昧なものだった。

 しかし、ダドリーの結論は既に出ていた。

 ようやく俺と目を合わせてくれたダドリーは、ドンと胸に手を置き言った。


「も、勿論お送り致します! それが私の役目ですからっ!」


 そういえばバルトはさっき、ちゃんと面と向かって言ってたな。


 ――我々には次代を担う優秀な若手を育成するという義務があります。これも彼への試練。


 バルトのヤツ……本当にタダでは転ばない男だな。ダドリーはこの短時間で、確かに成長したよ……まったく。

次回:「その648 迎賓館で」

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