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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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その645 観光ガイド

2021/9/13 本日一話目の投稿です。ご注意ください。

「へぇ、既にかなりの数の人間がシェルフに来てるんですね」


 シェルフを歩き、見渡しながら言うと、案内人のダドリー(、、、、)が嬉しそうに言う。


「これもミケラルド殿のおかげですよ。立地の関係からドワーフこそまだ少ないですけど、リーガル国は勿論、リプトゥア国、法王国からも人間の方がいらっしゃってます」

「でも、まだシェルフには人間への永住権は?」

「流石にまだですね。そこはお堅い老人連中次第なところもありますけど、世代交代も始まりつつあるので、その内、エルフの考え方も変わると思います」

「特殊な状況ですからね。ですが、国交が増えていけば、そういう風に自然になっていきますよ」

「ははは、そうありたいですね」


 ダドリーは冒険者であり、VIPの護衛でもある。

 クレアがメアリィの護衛に出ている今、シェルフの実力者は少ない。ダドリー自身も鍛えてはいるみたいだが、ランクSへの壁はまだありそうだな。

 だからこそ、同期のクレアの活躍は気になるところだろう。


「そういえば、クレアはどうです? そろそろ武闘大会も結果が出るんじゃないですか?」

「魔法使い部門は今日決まりましたよ。戦士部門は明日です。安心してください、クレアさんもちゃんと残ってますよ」

「そうですかっ」


 爽やかな笑みです事。

 クレアの活躍が自分の事のように嬉しいのだろう。

 腕を振り回し、『次こそは自分も』という様子だ。

 嫉妬を覚えそうなものだが、ここはシェルフの国民性故か、それともダドリーの性格故か。

 ……まぁ、ローディ族長の護衛や、バルトの護衛を任されるくらいだ、おそらく後者なのだろう。


「ミケラルドさーん! こっち! ここのお店凄いオシャレですよ!」


 あそこは聖女アリスが好きな「エルフでマカロン」こと「エフロン」のお店じゃないか。

 そういえば、ミナジリ共和国にはまだ出店してなかったな。

 ネムのヤツ、呼んだはいいが既に買ってるじゃないか。


「ふわぁ~! 外側はサクサクで、中がふんわりしてます! 何ですかコレッ!?」


 溢れんばかりの笑みである。そのまま天界に召されそうなネムを見て、俺とダドリーが見合って笑う。

 この時はいいのだ。しかし、今日の案内が終わった後、ダドリーは俺が今回シェルフに来た理由を知るのだろう。そして、今日を振り返りダドリーは何を思うのだろう。

 そんな事を考えると少しばかり憂鬱になってしまうのだが、これも元首の辛いところと諦めてネムの笑顔に癒されるとしよう。

 おやおやネムちゃん? そんなリスみたいに頬を膨らませてどうしたんだい? その頬には何が詰まってるのかな? 幸せかな? 幸せなのかな?


「あ、あげませんからねっ!」


 なるほど、幸せ以外に強欲も詰まっていそうだ。

 ネムの嗅覚、視覚、更には女の勘とやらで店を吟味する時間。案内人のダドリーも既に疲れ気味のご様子。

 俺がおすすめした店なんて四店舗前の話だ。そこからはネムの気の向くまま。だからこそ疲れてしまう。

 ゴールのわからない旅は気疲れしてしまうのも頷けるというものだ。

 しかし、ネムの感覚は確かなのだろう。最終的に行き着く店は、シェルフの最高立地に建てられた巨大な施設。

 現代で言うならばデパートと称する事が出来るようなこの店舗の看板には【バルト商会本店】と書かれている。


「いらっしゃいませ、ミケラルド様」


 狙いすましたかのように現れた狐商人。それがバルト商会のボス――バルトである。

 リーガル国の王商(おうしょう)である狸商人、ドマークと対照的な豪商である。

 俺を歓迎するかのような素振りの中に見受けられる鋭い目つき。きっとバルトは、ダドリーが俺たちを案内している最中に、会談の件をローディ族長から聞いたのだろう。


「そちらのレディは冒険者ギルドのネム殿……」

「レディだなんて、そんな……ふふ」


 ネムちゃん、既にバルトの術中にハマっていらっしゃる。

 まぁ、バルトも嘘は言わないからな。真贋の能力も意味を成さない。

 バルトの場合は嘘を言わず真実を隠すので、こういう手合いが相手だと、真贋の能力も薄れてしまう。


「聞いたところによるとネム殿は甘味に目がないご様子」

「凄いです、ミケラルドさん! 情報が筒抜けですっ!」

「今日の案内を先んじて聴取してただけだろ」

「商人さんってやっぱり凄いんですねぇー」


 バルトがニヤリと笑うと、その奥に控えていた従業員がネムに視線を合わせる。


「世界のお菓子コーナーが二階にございます。ネム殿に是非見て頂きたく」

「わぁー! 行きます! すぐ行きますっ! ねっ!?」


 振り返るネムが俺に言うも……、


「ごめんネム、ちょっとバルト殿と話があるんだ」


 俺がそう言うと、ネムは少しだけ寂しそうに「そうですか」と言った。だが、ネムもバルトの意図に気付いたようで、最後にはこう言ってくれた。


「お話終わったら二階に来てくださいね! 待ってますからっ!」


 手を大きく振り、従業員の後を付いて行くネム。

 応接室へ通されたのは俺とダドリー。

 流石に長年付き合いがあるだけに、ダドリーはこちらに付くようにバルトがアイコンタクトを送っていた? ……いや、もしかしたら【テレパシー】かもしれない。

 中に入ると、そこには――、


「リンダ様っ?」


 ダドリーが驚いた相手は、シェルフのギルドマスター――リンダだった。

次回:「その646 バルリンダドリー」

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