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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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その644 トップ会談5

 ローディ族長の言葉は、ディーンに重く突き刺さったようで、それ以降、彼が声を荒げるような事はなかった。

 アイリスも同じで、歯痒そうながらも、言葉を呑み込んでくれたようだった。

 ローディ族長は、更なる意見がない事を確認した後、俺を見て言った。


「ミケラルド殿」

「何でしょう」

「私としては、今回の件、前向きに検討したいと考えております。しかし、この場で返答するには難しい事はご理解頂きたい」


 コクリと頷く俺。


「ひと月の時間を頂きたい」


 俺はネムに向き、ソレ(、、)を確認する。

 ソレとは(すなわ)ち、「冒険者ギルドがそれだけ待てるのか?」という事だ。

 ネムはローディ族長を見、ピンと背筋(せすじ)を伸ばして言った。


「問題ありません。アーダインから委任された権限により、ひと月後のご返答をお待ちしております」


 ネムがそう言うと、ローディ族長はすっとその場から立ち上がった。俺もそれに合わせて立ち上がり、円卓の横まで進んだローディ族長と握手を交わす。


「寛大なるご配慮、ありがとうございます」

「いえ。今回の件は、本当に心苦しいかと思います」

「歓談の席を設けたいところですが、本日は難しいでしょうな」


 まぁ、ディーンとアイリスが今の状況でお喋りに興じる事は難しいだろうからな。


「ネム殿にシェルフの甘味処を紹介する予定だったので」

「ほぉ、左様でございましたか」


 微笑んだローディ族長は、直後、握手とは違った握力を見せた。手を放そうとした俺を引き留めるかのように。

 そして、会談の場にはそぐわない能力を使ったのだ。


『今宵、この家の裏庭へ』

『……かしこまりました。日が変わる頃お伺いします』


 エルフでは使える者が多いと言われる【テレパシー】。

 ローディ族長がわざわざ内密に話したい事とは一体。

 がしかし、七百歳肥えのお爺ちゃんに夜中に呼ばれる心境は……とてもよろしくない。出来れば美女に呼ばれたい。

 そう思い、そう願いながら俺たちは会談の席を離れる事となったのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「あぁ~~~~~、お布団気持ちぃ~~!」


 と、ベッドのバタバタはしゃぐのは、先程までシェルフの族長と対等に話していた冒険者ギルド代表のネムちゃんである。歓談の席こそ設けられないものの、一国の元首や冒険者ギルドの代表をただで返す訳にはいかない。当然、それはミナジリ共和国でも同じだ。

 シェルフの迎賓館(げいひんかん)に案内された俺たち。

 最初に案内されたネムは、部屋に入るなり、シェルフという特性を活かした豪華な部屋を見て驚くも、最初に飛び込んだのはベッドだった。

 案内人のエルフがまだいるのにもかかわらず、この振る舞いはとてもネムらしいのだが、許されるのだろうか?

 ……ふむ、笑ってるから問題ないか。


「ではミケラルド様、こちらへ」

「ありがとうございます」


 案内人の後に続こうと動くも、背後から待ったがかかる。


「あ、ミケラルドさんの部屋も見たいでーす!」


 と、トコトコ後を追って来るのは、何を隠そう先程までシェルフの族長と対等に話していた冒険者ギルド代表のネムちゃんである。やはりこの子は大物だよ。

 そう思いながら、用意された部屋に着いた俺。

 といっても、ネムの部屋の正面の部屋である。


「やっぱりミケラルドさんの部屋のが豪華ですね」

「一応元首なんですよ、俺」

「そういえばそうでしたっ」


 何故、俺の周りにはこうも気軽に接してくるのが多いのか。

 と、一瞬考えたが、そういえば俺は冒険者出身だった。


「シェルフの観光がご希望との事で、後程観光案内の者が参ります。それでは、何かご用件がございましたらお気軽にお声がけください」


 案内人のエルフが静かに部屋を去って行く。


「えー、二人じゃ駄目なんですかねぇ……」

「俺は一応元首だし、ネムも一応冒険者ギルドの代表としてここに来てるからね。二人だけで観光ってのは難しいよ。でも、この二人って考えると……」

「考えると?」

「案内人には予想がつく」

「あ、バルトさん!」


 ドヤ顔のネム。

 確かに悪くない予想である。流石はプロのギャンブラーである。


「もしくはダドリーさんかなぁ」

「あのバルトさんの護衛の?」

「大穴でシェルフギルドマスターのリンダさん」

「冒険者ギルドのギルドマスターが接待……というのは想像出来ないですねぇ」


 苦笑いするネム。


「偶然非番だったらあり得るかな」

「ミケラルドさんの予想は?」

「うーん、やっぱりダドリーさんかな」

「どうしてです?」

「ローディ族長がさっきの件で呼ぶとしたらバルトさんとリンダさんだからだよ」

「あー……まずはそのお二人に話を通すでしょうからね。という事はダドリーさんかもですね」

「リンダさんにはまだ伝えてないんだよね?」

「私たちが会談中に、アーダインさんから話を通すという事にはなってるはずです」

「なるほどねぇ」


 すると、ネムは不安そうに言った。


「大丈夫……ですかね?」

「ローディ族長が言ってただろう? シェルフはこれを受けざるを得ない。だが、受け方を決められるのはシェルフだけだ。特殊な条件にはなるだろうけど、必ず落としどころを見つけて答えを持ってくるよ」

「特殊な条件……?」

「調査にはシェルフの重鎮が同行する、とか?」

「ダンジョンにもですかっ!?」

「あり得ない話じゃないけど、まずは見つかってみないとね。シェルフの民の総意……は、難しいか。でもある程度の納得をしてもらわないといけないから、ひと月って数字は長いとは思わないよ」

「確かに、国の決断としては短いとすら思えますよね」

「魔王の対抗策って名目があるからだろうね。そうじゃなきゃ年単位の議題だよ」

「……ですか」


 俺がネムに微笑むと同時、部屋にノック音が響く。

 どうやら観光ガイドがやって来たようだ。

 はてさて、誰が来るのか。

次回:「その645 観光ガイド」

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