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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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その640 トップ会談1

2021/9/9 本日一話目の投稿です。ご注意ください。

 席に掛ける前、俺はネムを一歩前に出すよう促し、言った。


「ミナジリ共和国の冒険者ギルド員――ネムです。リーガルギルドマスターであるディック氏、総括ギルドマスターであるアーダイン氏の推薦によりここへお連れしました」

「ネムと申します、至らない点があるかもしれませんが、どうか宜しくお願いしますっ」

「ふむ……」


 族長の息子ディーンはこう思っているだろう。

 ――何故こんなところに冒険者ギルド員が、と。

 しかし、それを表情に出さないのがローディ族長である。


「ネム殿もようこそいらっしゃった。さぁ、どうぞ掛けてください」

「は、はい! 失礼します!」


 言うと、ネムが俺を見上げる。

 頷くと共に、俺たちは大木から切り出したような円卓に腰掛けた。面白い、円の形には整えず、切り出したままの形だ。こういったところにもエルフ文化の面白さがある。

 文化と言えば……今日はあの狐商人――バルトがいないな。クレアの同期である護衛のダドリーもいない。


「バルト殿はいらっしゃらないのですね」


 そう言うと、ローディ族長は目を伏せながら言った。


「内容が内容なだけに、話はこの三人だけに留めている」

「そうでしたか」


 すると、ローディ族長の視線が明らかに強くなった。


「して、今回の用向きは?」


 予めローディ族長には話を通している。

 しかし、その詳細についてはこの場で話すと決めていた。

 情報共有をしているディーン、その妻アイリスもそれ以上は知らないだろう。だからこそ、この場でこう聞いたのだ。

 ネムは隣でビクビクしながら俺を見る。

 ちなみに、アイリスに会う前までのネムは、『シェルフ見学楽しみですー! 美味しいお店とか教えてくださいねっ!』とか言いながらはしゃいでいた。あの時のネムは一体どこへ行ったんだい?

 なんて寒いギャグも、心の中では誰も突っ込んでくれないのである。俺はネムに微笑み、再びローディ族長を見た。


「シェルフの【聖域】について詳しく教えて頂きたい」


 俺がそう言うと、空気が氷のように固まった気がした。

 これが、俺がずっとロレッソは勿論、ナタリーやリィたん、ジェイルにすら黙っていた事である。

 先んじてこの話を聞いた時のクレアの青ざめた顔は、あまり思い出したくないものである。


 ――精霊樹(せいれいじゅ)の聖域。


 これは、エルフという種族が、(いにしえ)より守って来た――文字通り【聖域】。

 かつて、ミナジリの名を冠する俺たちは、シェルフを不死王リッチの陰謀から守った事がある。ミナジリ共和国にいるダークマーダラーや、サマリア公爵令嬢であるレティシアを守っているヒミコはそこで吸血し、味方へと引き入れている。

 その魔族の侵攻の際、シェルフの民は【聖域】へ避難した。アイリスは目を患っており、俺がリィたんから得た【龍の血】を使ったポーションで快復したのは、今となっては懐かしい思い出だ。

 その【聖域】を魔族国家とも言える元首の俺が、『詳しく知りたい』と言ったのだ。

 相手は伝統を重んじるエルフである。警戒するのは当然の事だ。


「……それは一体どういう事でしょうか」


 最初に口に出したのはアイリスだった。

 俺に恩があるはずのアイリスでさえ、中々に強い目をしている。彼らにとってはそれも仕方のない事なのだろう。

 家ではない。種族として他種族の目から隠してきた場所について、詳しく教えろと言ったのだ。たとえドギツイ視線になろうが、俺は覚悟していた。先日のプリシラのように、一部ではご褒美と言う(やから)もいるかもしれないが、俺はそうじゃない。


「確かに漠然とした質問でしたよね。ただ、私はその【聖域】の事を詳しく知りたいのです。いつから【聖域】と呼ばれているのか? 何故【聖域】と呼ばれているのか? 何故、他種族が入る事を拒まれているのか? 何故、他種族が入ってはいけないのか? そして叶うならば、その【聖域】を調査させて頂きたい」


 そう言ったところで、ディーンがバンと机を叩いて立ち上がる。


「ひっ!?」


 あらあらネムちゃん、今日は厄日だね?

 ローディ族長は、手でディーンを制止するも、その視線はディーンと似たものである。まぁ、詳しく聞くだけならともかく、『中に入らせてちょ』とか言われたら、そりゃ怒るだろう。だから俺はこれまでこの件をデリケートに扱ってきた。身内に話せないのはそれが理由だ。

 やがて沈黙が走り、ネムがその空気に耐え切れずこちらにSOSアイコンタクト信号を送り始めた頃、ディーンは全てを呑み込むように大きく息を吸ってからまた腰を下ろした。

 そして、ローディ族長は俺に言った。


「……ミケラルド殿。確かに、我々シェルフはミケラルド殿に多大な恩がある。しかし、この件は……それとは全く違うところにある。恩に報いろという話では、片が付かない。それを承知でそう仰っているのかな?」

「その通りです」


 完全無欠ならぬ、簡潔無欠。

 ネムは再び凍り付いた部屋を、目を丸くしながら見ていた。いや、これはもう、どこも見てないかもしれない。早く家に帰って、美味しい食事を夢見ていそうな目ではある。

 早々にネムはこちら側に戻してやろう。そう思った俺は、続けて三人に言ったのだ。


「勿論、それ相応の理由がございます」

次回:「その641 トップ会談2」

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