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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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642/917

その639 覇者

 プリシラの師――前代賢者兼古代賢者という名簿欄に書くだけでも面倒臭そうな字面の(やから)は、世界の情報を集めていた。その情報を元に、魔族が何故魔王の復活を阻止しようとしているのかを調べていた。そして、それを俺に止めさせようとしている。

 そこまではわかったのだが、どうもここからはノーヒントという事らしい。これ以上は、やはり勇者エメリーと聖女アリスの成長と、今後のシェルフとの交渉に関わってくるだろう。

 そんなシェルフとの会談の日、俺は魔法使い部門で好成績を収めた二人の話を、リィたんから聞いていた。


『おー、流石聖女アリスだね。決勝でキッカを下して優勝か』

『うむ、どちらも良い動きをしていた。だからこそのランクSという訳だ』

『魔法使い部門はその二人のみ?』

『うむ、同じオリハルコンズとして鼻が高いぞ』


 それを聞き、俺はリィたんにはわからないだろう渋面をした。


「どうしたんですか、ミケラルドさん?」


 眼前には小首を傾げるネム。


「あ、いや。何でもないよ」

「そうですか?」


 何とかネムを誤魔化すと、リィたんから再度声が届く。


『ミック、どうかしたか?』

『あぁいや、根に持たれそうだなと』

『優秀な才がオリハルコンズに集まっただけの事。それに異を唱えるのは些か思慮が足りんと言わざるを得ないな』

『まぁ、リィたんからしたらそうだよね。でも、そうじゃないのが人間なんだよなぁ……』

『アリスは勿論、キッカは力でそれを示した。だからミック、お前はオリハルコンズのリーダーとしてしっかり二人を(ねぎら)ってやればそれでいい』

『それは勿論そのつもりだよ。……ところで、いつ俺がリーダーに決まったの?』

『以前、アリスに臨時のリーダーを任されただろう』

『臨時ね』


 そういえばそんな事あったな。


『以降、数か月を経たのにもかかわらず、その変更がなされなかった。という事は、ミックは既にオリハルコンズのリーダーと言える』

『あ、はい』

『ふっ、一昨日、ミックが去った後な』

『へ?』

『アリスがミックを探していたぞ』

『えー、何かあったのかな?』

『さぁな、もしかしたらそれは自分で晴らしたやもしれん』

『どういう事?』

『大事な試合が終わったのだ。感想くらい求めるだろう』

『わざわざ俺に?』

『あぁ、わざわざミックに、だ』


 むぅ、益々わからん。

 最後にリィたんは俺にくすりと笑うと、『土産話を期待している』と言っていた。交信を終えた今も、アリスの考えは俺に読めなかった。


「大丈夫ですか、ミケラルドさん?」

「うん、今リィたんから連絡が入って、アリスさんとキッカがランクS決めたってさ」

「おぉ! それは素晴らしい事ですねっ! 昨日はクレアさんも、ラッツさんも、ハンさんも本選進出決めたって言ってましたし、オリハルコンズはもう名実共に最強パーティじゃないですかっ!」


 まるで自分の事のように顔を綻ばせるネム。


「本選じゃ、順当に行っても準決勝でクレアさんとハンが戦うから、明日の結果次第ではどちらかがランクSに上がれないかもしれない」

「ラッツさんは大丈夫なんです?」

「今のラッツさんに勝てる存在はあのブロックにはいないと思う。唯一ラッツさんに勝てるとしたら……やっぱりハンかなぁ」

「クレアさんは?」

「ハンには勝てると思うけど、ラッツさんには難しいだろうね」


 言うと、ネムが小首を傾げる。


「相性の問題だよ。クレアさんの攻撃はハンを捉えられるだろうけど、ラッツさんには押し切られてしまう。でも、そのラッツさんの癖を知り尽くしてるのがハンで、今ではそれを巧みに使うだけの余裕がある。どう転んでも面白い試合にはなると思うよ」

「むぅ、それは惜しい事をしました」

「それで賭けるつもりだったの?」

「ミケラルドさんの目は確かですから」


 呆れ(まなこ)をネムに向けるも、彼女はプロのギャンブラーである。

 そんな視線に挫ける人間ではない。


「あ」


 ネムが何かに気付いたような声を出し、顔に緊張を浮かべる。

 その視線を追ってみると、そこには美しい人妻エルフが立っていたのだった。


「これはアイリス(、、、、)殿、本日はお付き合い頂き感謝の念に堪えません」


 そう、ここはミナジリ共和国のシェルフ大使館前。

 外に出て来たのはローディ族長の息子ディーンの妻――アイリス。つまり、メアリィの母親である。

 メアリィが聖騎士学校に通っている間、臨時のシェルフ大使としてミナジリ共和国に住んでいるのだ。そのアイリスが外に出て来た。これは、シェルフとの会談をする上で、ローディが提示してきた条件でもある。

 アイリスと共にシェルフへ行く。これは、それ程までに重要な事なのだ。


「さぁ、ローディ族長の下へ」


 アイリスは俺に手を差し伸べ、ネムは慣れたように俺の手を握った。俺はアイリスの手を取り、シェルフのミケラルド商店へ転移したのだった。

 武闘大会――戦士部門の結果も気になるところだが、悠然と観戦出来ないところが元首の辛いところだ。

 族長の家で待っていたのは、ローディ族長、その息子ディーン、そして、その隣に立ったアイリス。

 隣に立つネムは、緊張のし過ぎで顔が強張っていらっしゃる。


「ようこそいらっしゃった、ミケラルド殿」


 どうも族長の声に距離感があるような、そんな感想を抱いたミケラルド君だった。

次回:「その640 トップ会談」

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