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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

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640/917

その637 プリシラの秘密1

2021/9/7 本日一話目の投稿です。ご注意ください。

「さて……何から話したものかな」


 そう前置きしたのは、プリシラ自身がこの話の大きさを理解しているからに他ならないのだろう。


「ミケラルド・オード・ミナジリ……キミは自分が何者かに操られていると感じた事はあるかな?」


 ――それは霊龍によって?

 そう聞きたかったが、どうもプリシラが言いたい事は何か別の事のような気がした。

 霊龍以外の何か。もし、霊龍より更に上位の存在がこの異世界に存在するのだとしたら、確かにそう言えるのかもしれない。

 俺は否定も肯定も出来ず、沈黙を貫いていた。

 すると、プリシラは昔を振り返るように言った。


「私はそんな事を思った事も考えた事もなかった(、、、、)


 だからこそ俺はわかったのだ。

 プリシラの秘密。それはプリシラの言葉通り、その考えが変わった過去にこそあるのだから。

 過去とはおそらく、プリシラが出会った前代賢者の話。


「お師匠様に出会ったのは……もう遥か昔の事だよ。そうだ、キミは賢者と聞いたらどんな風貌を思い浮かべる?」

「賢者……ん~、豊かで長い白髭と髪、ウィザードハットを被った世捨て人……ですかね」


 言うと、プリシラはくすりと笑った。


「あはは、いいね。確かにそうだ。私も当時そう考えていた。だからね、お師匠様に初めて会った時は私は警戒した」

「警戒……?」

「だって正にそんな風貌で現れたんだからね」


 目を丸くした俺は、思わず失笑してしまった。


「ハハハハ、確かに。正に賢者……という姿で現れたら警戒しますよね」

「だろう? 当時の私は冒険者ギルドに属さずフリーで依頼を受けていた才人だった」

「自分で言いますか」

「事実、私は敵なしだった」


 確か、双黒(そうこく)の賢者プリシラは魔力の老化がなければ白き魔女リルハや魔皇(まこう)ヒルダを上回る才能の持ち主。若い時代となれば、脂ののったプリシラが無双している……か。


「そんな私がまるで手も足も出なかった存在がお師匠様だ」

「……喧嘩売ったんですか?」

「いかにもな格好で私に近付き、私を試すような真似をしたんだ。売られても仕方ないだろう」

「プリシラさんにも血気盛んだった時期があったと。しかし試すような真似って?」

「依頼だよ。あの人は最初、私に依頼をしてきたんだ」

「へぇ、どんな依頼を?」

「薬草採取」

「へ?」

「馬鹿にしている。そう感じてしまうのも無理はないだろう?」


 どんな依頼でも受けろと言いたいところだが、薬草採取ならば冒険者ギルドでも依頼可能だ。わざわざ割高なフリーのプリシラに対し、狙いすましたかのような薬草採取の仕事。なるほど、プリシラが若いのであれば、確かに怒ってしまうような話だ。

 だが、問題は前代賢者が何故プリシラにそんな依頼をしたのかという事だ。


「最初は追い返したさ。でもね、時間をかえ、日をかえてあの人は私に依頼をしてきた。依頼内容は全て薬草採取。流石に怒ってしまった私は……まぁ、負けたんだけどね」


 全てを話さなくとも理解出来る。

 喧嘩を売ったのはプリシラではなく、前代賢者の方。おそらく前代賢者の狙いはプリシラとの接点を持つ事。そして、プリシラに近付いた理由こそ――、


「コテンパンにやられ、あの人の才能に見惚れた私は、すぐに弟子入りを志願した。当然、あの人はそれが狙いだったようだしね。許可はすんなりと出たよ」

「前代賢者がプリシラさんを弟子――いや、近くに置きたい理由。それが【予知の魔眼】……ですか」


 コクリと頷くプリシラ。


「しかしよくそんな強引なアプローチに応えましたね?」

「悪用するという意思はなかったし、巧みな魔の才は魅力的だった。そして何よりお師匠様は私に進むべき道を教えてくれたからね」


 プリシラが慕う人物か、やはり気になるな。


「初めて会った時、私はキミにこう言った。『君にやってもらいたい事は彼女たちの育成。それと真なる【勇者の剣】の制作』とね」


 頷く俺にプリシラが続ける。


「ミケラルド・オード・ミナジリは聖女アリスより強力な【聖加護】が使える。これを教えてくれたのは、何を隠そう私のお師匠様さ」


 やはり……!


「【立体映像(ホログラム)(しか)り、ギャレット商会に売ったあの【打刀】然り……」


 だが、これはまるで……。


「最初に聞いたよね。『キミは自分が何者かに操られていると感じた事はあるかな?』って。私は種を()いたんだよ。対象はそう、キミ(、、)だ」


 プリシラの優しい目を見て、俺はゾクりと悪寒を感じた。

 何故なら、俺はプリシラの背後にいる大きな存在に気付いてしまったからだ。


「あの日、あの場で私とキミが出会ったのは偶然じゃない。必然だったんだ」

「で、でもあの時――」

「――そう、勿論、私の最後の予知でもある。しかし、あの出会いは全てお師匠様が仕組んだ事。【打刀】という情報からギャレット商会へ、【双黒(そうこく)の幼女】という情報から【白き魔女リルハ】へ……さて、私とリルハを紐づけるために、この髪とリルハの髪を対照的に染め、この小さな体躯になる術を教えたのが私のお師匠様だと言ったら、キミは一体どんな顔を……――はは、いいね。とてもいい顔だ」


 その時、俺はプリシラにどんな顔をしていたのかわからない。

 だが、これだけはわかった。

 プリシラの陰にいる前代賢者の画策。

 俺は賢者の掌の上で、一体どんなダンスを踊っていたのだろう。

次回:「その638 プリシラの秘密2」

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