表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第三部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

639/917

その636 武闘大会8

「えー、もう帰っちゃうんですかー?」


 ネムは不満気な顔で言った。


「正直、俺としても全部観て帰りたいんだけど、そこまでミナジリ共和国を離れてられないんだよ」

「約束の日は明後日だからもう少しいられると思ったのにぃ」


 ぷくりと頬を膨らませるネムに苦笑しながら、俺は転移するためにその手を握った。


「それじゃあ報告楽しみにしてるよ」


 俺は見送りのナタリーとリィたんにそう言うと、彼女たちはニコリと笑って応えてくれた。


「じゃあ――」

「――あのっ」


 しかし、俺の転移を止めた者がいた。

 皆で声がした方を見ると、そこにはシェルフのプリンセスガード、クレアがそこにいたのだった。

 ナタリーとリィたんをちらりと見たクレアは、申し訳なさそうにその間を通り、俺の前までやって来た。

 そしてクレアは俺に耳打ちするように小声で言った。


「あの、何も起きません……よね?」

「私としてはそうしたいところです」


 彼女は俺がシェルフで行動を起こす理由を知っている数少ない存在。シェルフが気がかりなのもわかる。

 しかし――、


「まずは予選を勝ち抜く事だけに集中した方がいいですよ」


 俺が微笑みながら言うと、彼女は腰のダガーに手を添え、そして強く握った。


「……はい」

「どう転ぼうともすぐに連絡が入ると思うので、そう気にせずリラックスしてくださいよ」

「う……そう言われると胃が……」


 言わない方が良かったかもしれない。

 だが、それが彼女の選択だ。こればかりは呑み込んでもらうしかない。


「それじゃあ、また」

「はい」


 クレアに、そしてクレアの奥にいるナタリーとリィたんに再度アイコンタクトを送り、俺とネムは法王国からミナジリ共和国へと戻ってきたのだ。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 戻って来て早々、俺はずっと気になってた事をネムに聞いた。


「ところで、その背中の大きな風呂敷は何?」

「え、私物ですけど?」

「行きにはなかったよね?」

「皆さんが活躍してる間、私も頑張ってたという事です」


 ふふんと胸を張るネムだが、どうやらこの風呂敷の中身は私物というより私財と言い換えた方がいいのかもしれない。さっきからチャリチャリ鳴ってるしな。


「それじゃあ明後日の午前十時、屋敷に来てくれればいいから」

「はい、わかりました」


 冒険者ギルドの前でネムと別れ、俺は足早に屋敷へ戻った。

 今回、俺としては最後まで武闘大会を観戦していてもよかった。事実、皆の成長や活躍、それに結果も気になってはいる。

 しかし、それ以上に気になる事があるならば、足早に戻ってしまうだろう。


「戻りましたよ、プリシラ(、、、、)さん」


 プリシラの部屋の扉を開けると同時、彼女は部屋にいたコリンに言った。


「ほら、すぐに帰って来ただろう?」

「すごーい! お兄ちゃん、おかえりー!」


 二人がどんな会話をしたのかが容易に想像がつく。

 まぁ、プリシラからすれば、俺に対して餌を吊るして待ってる状態だしな。俺の行動くらいすぐに読めるだろう。


「賢者様、ホントにすごーい!」


 それがコリンにわかるかといったらそうとはならない。

 俺はやれやれと溜め息を吐きながら、ベッド近くの椅子に腰を下ろした。


「お土産は?」

「開口一番それですか?」

「キミだって早々に座っただろう?」


 確かに、俺がいくら元首といえどプリシラはゲスト。

 着席の許可くらいは求めるべきだったろう。

 どちらも急いている……いや、今回に限って言えばそれは俺だけなのかもしれない。


「はぁ……こんなの最初から私の【闇空間】に入ってるんですよ」


 言いながら、俺は【闇空間】からプリシラご注文の【ミケラルド・オード・ミナジリ正装バージョン(青年)】と、【ミケラルド・オード・ミナジリ寝間着バージョン(少年)】を取り出した。


「ほわぁ~……」


 やつれた顔が一気に紅潮するプリシラ。

 小首を傾げるコリンには正直まだ早いと思う。


「いいね、特にこの少年バージョンは最高だ!! 眠そうに目を擦り、飛び出るアホ毛が美の極致を表しているっ!! なぁ聞いてるか、キミィッ!!」

「私はプリシラさんの唾を浴びる趣味はないんですよ」


 顔を拭きながらプリシラをじーっと見るも、彼女はそんな視線はお構いなしといった感じだ。


「キミ的にはご褒美じゃないのかい?」

「出来れば恥じらいは欲しいところです」

「コリンが見てる前でそれはちょっと……」

「プリシラさんが先に言ったんですよ」

「唾を浴びたいとか言い始めたのはそっちじゃないか?」


 賢者の耳は腐っていらっしゃる。まぁ、脳内もお腐りなさっているから仕方ないのかもしれない。

 だが、俺も聖女アリス人形や勇者エメリー人形を売ってる身だ。彼女の反応は否定してはいけない……と思う。


「さぁ、そろそろ教えてください。アナタの秘密を」


 ピタリと止まったプリシラは、すんと鼻息を吐いた後、コリンを見た。それが人払いだとコリンが理解する程には、この空気はピンと張り詰めていたような気がする。

 ちょこんとお辞儀をして部屋を出て行ったコリンを見送った後、俺とプリシラは互いに見合った。

 そして、ベッド脇に二体の人形を置き、何故か布団を掛けた。


「…………もしかして一緒に寝るつもりですか?」

「そのつもりだ」


 張り詰めた空気はどこへやら?

次回:「その637 プリシラの秘密1」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ