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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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631/917

◆その628 密約

スランプでした。

 聖騎士学校の生徒たちに課せられたゴブリン討伐任務。

 ルーク・ダルマ・ランナーの機転、活躍により、正規組は史上初の快挙となる全員満点を叩き出した。皆の頑張りがあったものの、その指揮により注目を集めたルーク。

 任務の帰路、そんなルークを嬉しそうに見つめていたサマリア公爵令嬢のレティシア・オード・サマリアは、マスタング講師への任務報告が終わった直後、魔力欠乏症により倒れてしまった。

 ルーク(ミケラルド)に抱きかかえられ、レティシアは自室に戻ったのだが、そこへ現れたのは冒険者組から駆け付けたナタリーだった。


「れ~てぃ~し~あ~?」


 ミケラルドが目を丸くしてナタリーを見る。

 その威圧感、半端なく。その存在感、半端なく。

 ナタリーがレティシアを睨み、一歩一歩近付いて来る。


「ひゅっひゅ~」


 口笛とは言い難いレティシアの呼吸音。

 そんなレティシアに呆れつつも、ミケラルドがナタリーに言った。


「……貴族の寮に乗り込んでくる冒険者も珍しいな、ナタリー」


 だが、ミケラルドの言葉はナタリーには届かなかった。


「ミック、外で、『待て』よ」

「あ、はい」


 ミケラルドは追い出され、レティシアとナタリーは部屋に二人きり。

 レティシアは不服そうな顔でナタリーを見る。


「んもう、せっかくいいところだったのにっ」


 頬を膨らませ、ナタリーに不満を述べるレティシア。


「可愛く言ってもだーめ。ただでさえミックは過密スケジュールで動いてるんだから、余り迷惑を掛けないって約束したじゃない」

「でも、さっきは本当に倒れちゃったんだもん」

「だから最後だけ止めたのよ」

「ぎくり」


 そう、ナタリーは二人の様子を事細かに探っていたのだ。

 そして、レティシアの意識が戻ったところで二人に声を掛けたのだ。


「私の目を誤魔化そうたってそうはいかないんだから」

「た、確か正規組の寮に入る時は手続きが必要なんじゃ……」


 レティシアが言うと、ナタリーは胸元の入寮許可証をこれ見よがしに見せた。


「……あ……あれれー?」

「ちょうどこっちに用があったからね」

「ミケラルドさんに?」

「ミックなら【テレフォン】でいつでも連絡がとれるわよ。でも、レティシアとはそうもいかないじゃない?」

「え、私に?」


 レティシアは自分を指差し、ナタリーにその理由を聞いた。

 すると、ナタリーは恥ずかしそうにそっぽを向きながら言った。


「倒れたって聞いたから駆け付けただけでしょ」

「あ……ぁりがとう」


 二人は立場は違えど仲の良い友人。

 どちらかに何かあれば駆け付けるのは当然の事なのだ。

 レティシアははにかんで笑うも、ナタリーの恥じらいはそう長くは続かなかった。


「で、も!」

「へ?」

「それとこれとは話は別だからねっ! そもそもミックはレティシアとルナ王女の護衛でここまでやって来てるんだから、護衛対象が護衛しづらくするような事してどうするのっ! 一歩間違えば取り返しのつかない事になるんだからねっ! サマリア公爵家とミナジリ共和国が険悪になったら困るのはレティシアなんじゃないのっ!?」


 ずびずびと正論を突き刺すナタリーの怒気は(もっと)もで、レティシアが最悪死に至れば、リーガル国とミナジリ共和国の仲に亀裂が入る。

 ほんのちょっとの油断が、国家間の関係に響くのだ。ミナジリ共和国の重鎮でもあるナタリーがこれを危惧しないはずがない。

 しゅんと項垂れるレティシアを見て、ナタリーはすんと鼻息を吐いてからその隣に腰掛けた。


「……レティシアがミックをどう想おうと自由だけどさ、自由と自分勝手をはき違えちゃダメだよ」


 優しく諭すようにレティシアに言ったナタリー。

 何も言い返せないレティシアは、口をへの字に結びながらもコクリと頷き、ナタリーへの同意を示した。


「身体はもう大丈夫なの?」

「うん」

「そう、ならよかった」


 言うと、ナタリーはベッドから立ち上がり、レティシアに振り返って言った。


「それじゃ、また明日ね」

「うん」


 最後に少しだけ笑みを零したレティシア。

 ナタリーが部屋から出ると、そこには『待て』を忠実に守っていたミケラルドがいた。


「お説教は済みましたか?」


 ここは部屋の外。

 周囲の目もある事から、ミケラルドはルークを演じているのだ。


「ううん」


 意外な事に、ナタリーから返ってきたのは否定の言葉。


「……え、笑顔で出て来たじゃないですか?」


 ミケラルドが言うと、ナタリーは首を横に振って返す。


「そんな簡単に言うこと聞く子じゃないの、レティシアってのは。特に、あんな子供っぽく『うん』、『うん』言ってるレティシアなんてね」

(レティシアはまだ子供だったような?)


 ミケラルドの感想はさておき、ナタリーは振り返ってレティシアの部屋の扉を見る。


「絶対にまたヤるわよ、あの子……」


 それは、女の勘以上の確信と言えた。

 ミケラルドが背に悪寒を感じる程の圧力。

 ナタリーとレティシアの戦いはまだ始まったばかりである。

 そして、しばらくの後――オベイルが開いた殺気大会でゲラルドに敗れ、見事ルークに抱きついたのは、リーガル国の公爵令嬢だったそうな。

今日は一話ですが、明日以降は休んだ分を取り戻すように書きまくりたいと思います。


あ、次回から第三部です!


次回:「その629 武闘大会」

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