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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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◆その625 若き日の思い出3

「よぉし!」


 自身の頬をパシンと叩いたレックス。

 それに付き従うは、眠そうなイヅナ、肩を落とすアイビス、微笑むヒルダ。


「絶不調この上ないな……」

「計画性って大事ですよね……」


 イヅナとアイビスがそう言うも、レックスには届かない。一人だけ先に走り、既に城門前。パーティメンバーに大きく手を振るレックスに応えるのはヒルダのみ。


「ヒルダ……お前何でそんなに元気なんだ……」


 イヅナが聞くと、ヒルダは微笑んで返した。


「辛いわ……とても……」


 そんな告白に、イヅナはあんぐりと口を開く。


「ポーカーフェイスここに極まれりだな……」


 イヅナのツッコミに、ヒルダはくすりと笑う。


「姉弟子に会うのに疲れた顔してたら怒られてしまうからね」

「そんなに怖いんですか、リルハさんって……?」


 アイビスが聞くと、ヒルダはその目をじっと見た。

 吸い込まれそうな瞳にポッと頬を赤らめるアイビス。


「怖いわ、とてもね」

「真顔で何やってんだ、お前ら……」


 イヅナはそう言って、肩を落としながら城の正門へと向かう。

 その背中を見送ったアイビスだったが、ヒルダはその目をアイビスから離していなかった。


「ふふふ、抜群の【聖加護】コントロールを持った稀代(きたい)の聖女。貴女の今後がとても楽しみね」


 そう妖しく言った後、ヒルダはイヅナの後を追って行った。それを驚いた様子で見送ったアイビスが零す。


「……ビックリした。ヒルダさんって、たまに脈絡なく不思議な事言うんですよね……っと、いけない、早く行かなくちゃっ」


 皆の後を追いかけるヒルダ。

 本日は法王が法王国の二大パーティに招集をかけた日。

 謁見の間の大扉の前へとやって来たレックスたちは、まず、そこに集中する魔力に驚いた。


「ははは……凄いね……」

「威嚇されてんなー……」


 レックスは興奮を表し、イヅナは面倒臭そうに目に映ったパーティを見た。


「目に見えそうな程の魔力圧……凄い」


 アイビスがそう零すと、ヒルダはその肩をポンと叩き言った。


「私たちはパーティとしては新参者に近いからね。大規模パーティの【キングリベリオン】の中には快く思わない人もいるでしょうね。でも見て」


 ヒルダがパーティの最奥(さいおう)にいる三人に目を向ける。アイビスがそれを追いかけるとそこには穏やかな魔力が流れていたのだ。


「あ、アーダインさんたちは落ち着いてらっしゃいますね」


 アイビスが更に続ける。


「あの方が白き魔女リルハ殿と……――」

「先頭にいるのが昨日話した【クルス・ライズ・バーリントン】よ」


 アーダイン、リルハの先にいた端正な顔の男。

 その人こそが、法王国のクルス王子だった。クルスの後ろ姿を見て、アイビスがヒルダに言う。


「お、思ったより……」

「思ったより?」

「あ……いえ」

「ふふふ、もっと荒れているかと思った?」

「……思ってなかったと言えば嘘になります。次期法王選抜を除外されたって聞いてたので、ヤンチャな方なのかと」


 アイビスが言うと、ヒルダはくすりと微笑んで言った。


「法王陛下が王位継承を外したのは彼のせいでも、法王陛下の判断でもないわ」

「え、それってどういう……?」

「さぁ、自分で聞かなくちゃねっ」


 言いながら姿勢を正したヒルダ。

 それは、全ての準備が整った合図だった。

 法王国の高官が大きな咳払いをした後、皆が静まる。

 ギィと大きな音が響かせながら、謁見の間への扉が開かれる。

 喉をゴクリと鳴らしたアイビスは、緊張の面持ちで謁見の間へ向かうのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 法王への謁見が終わり、ドッと疲れを見せたのはアイビスだけだった。

 歓談の席とはいえ立食形式。しかし、【聖なる翼】の疲労度はピークを迎えていた。とはいえ、レックスは今も尚、法王と歓談しているのだった。


「あの無尽蔵の体力は何だ? 勇者ってのはあーいう事を言うのかね?」


 壁にどっと身を預けるイヅナが言う。


「私にもよくわかりません。レックスが異常だって事はわかりますけど……」


 立ちながらフラフラしているアイビスは息を漏らしながら言った。


「おいおい大丈夫か? 今にも寝そうだな……」

「何で美味しそうな食事は出て来るのにベッドは出て来ないんでしょう……」

「はぁ……確かにな」

「ヒルダさん、凄く頑張ってますね」

「レックスの名前だけじゃ貴族の協力は得られない。それをよく知るからこその立ち回りだろうな」

「ホント、何でも出来ますよねヒルダさん」

「そりゃ俺の台詞だよ。ほれ、聖女にしか出来ない仕事が向こうからやってきたぞ」


 イヅナの言葉を聞き、その視線を追うアイビス。

 するとそこには、微笑みながら歩いてくる、クルスの姿があった。

 瞬時に覚醒するアイビス。背筋をピンと伸ばし、目を伏せお辞儀(カーテシー)をする。相手は継承から外れたとはいえ法王国の王子である。それは当然の礼儀と言えた。


 慌てたアイビスを見てくすりと笑ったイヅナは、クルスに控えめな挨拶をすると、身を引くように消えて行ったのだ。それは、イヅナがクルスの視線と目的に気付いていたからに他ならない。


「邪魔をしたかな?」


 これが、クルスとアイビスのファーストコンタクトであり、長い法王国の歴史の中で、最も興盛を迎える歴史――その一ページ目と言えた。

次回:「◆その626 若き日の思い出4」

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