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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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◆その624 若き日の思い出2

「なるほど、そういう事ね。お酒の席で勢いのまま……」


 聖女アイビスのパーティ名決定時の説明に得心したヒルダは、こめかみを押さえながら呆れた顔を見せた。


「あ、あの日は難関と言われるランクAダンジョンを初めて攻略出来たんです……嬉しさの余りついレックスの暴走に同意してしまって……」

「ふふふ、とても聖女とは思えないのだけど、それがアイビスの素敵なところね」

「そ、そうですかねぇ……」

「その若さでこれだけの実績があれば殿方が放っておかないでしょう? 心に決めた人はいるのかしら?」


 くすりと笑い聞いたヒルダに対し、アイビスは慌てて首を横に振る。


「そ、そんな人いないですよ! 確かに……男性に声を掛けられる機会は増えた気がしますけど……今はそれどころじゃないですから」

「そう? 今だからこそなんじゃない?」

「それはどういう……?」


 アイビスが小首を傾げると、ヒルダは磨いていた杖を置き、空を仰ぎながら言った。


「たとえ聖女であろうと、勿論勇者であろうと人間だという事よ。故郷に帰った時、その心の隙間を埋めてくれる存在はとても重要よ。生きようという力をバカにしちゃいけないわ」

「心の拠り所である大切な人も……戦力だと?」

「そう。勿論、これも師匠の受け売り」


 ウィンクしたヒルダにポカンとするアイビス。


「なんだか、とても大人な考え方でいまいちピンとこないです」

「私も師匠にそう言ったわ。あの人は効率至上主義だから仕方のない事なのだけれど……」

「ヒルダさんのお師匠様って、何で表舞台に出て来ないんでしょう?」


 アイビスが聞くも、ヒルダは目を伏せて首を横に振った。


「それは私にもわからないわ。ただ、口癖のように『私は主役じゃないから』と」

「気難しい方なんですかね……」

「ある意味ではそうかもしれないわね。でも、とても可愛らしい面もあるのよ」

「素敵な方なんですね。いつかお会いしたいです」

「今度話してみるわ。それよりさっきの話だけど……あの二人はどうなの?」


 ヒルダがアイビスに言いながらチラリと見たのは、大汗を流しながら剣を交えるレックスとイヅナだった。

 それを聞き、アイビスは思い出すように中空を見た。


「さっきの話……? っ! い、いや! それはないです! 絶対にない、です!」

「あらどうして?」

「えぇ……レックスはいつまで経っても子供みたいだし、イヅナは何事も剣、剣術、剣技! って感じで私の趣味とはちょっと」

「では、どんな殿方が好みなのかしら?」

「うーん、知的な方……ですかね? ヒルダさんこそどうなんですか?」

「アーダイン殿……かしら?」

「っ! 神風(しんぷう)アーダイン殿ですかっ!? 確か今は【キングリベリオン】の……!」


 アイビスはそう言って口籠もった。


「そう、姉弟子リルハが所属する大規模パーティの切り込み隊長ね」

「白き魔女リルハさん……確かにあそこは私たちより先んじて多くの功績を作ったパーティですからね。憧れる気持ちはわかります。でもアーダインさんは……」

「大きいわね」

「初めて見た時、巨人かと思ってしまいました」

「イヅナはモンスターだと思って斬りかかってたわね」

「は、ははは……あの時は揉めましたね。確か謝罪をしたのは……ヒルダさん、でしたね。その時アーダインさんと?」


 アイビスが聞くと、ヒルダはその時の事を懐かしそうに言った。


「えぇ、理解のある素敵な人だったわよ」

「へー、そうだったんですね。あそこのパーティリーダーってアーダインさんなんですか?」

「違うわ」


 ヒルダの否定の言葉に、アイビスが小首を傾げる。


「【クルス・ライズ・バーリントン】」


 ヒルダが告げた名は、アイビスにとって驚くべきものだった。


「っ!? 次期法王選抜から除外された法王国の異端児!」

「本人はそう思ってないらしいけどね」

「ど、どういう事ですかっ?」

「それは明日、聞いてみればいいんじゃないの?」

「へ? 誰に……?」

「本人に、直接」

「え?」

「明日、【キングリベリオン】も一緒に謁見するらしいわよ。法王国の二大パーティって事で」


 ヒルダの言葉の後、アイビスの目が真剣になる。

 この意味に気付いたアイビスを、ヒルダは微笑んで見る。


「察しがいいわね。明日の謁見は、単なるご機嫌(うかが)いじゃないって事。二大パーティが集まるんですもの。何かしら黒い話は出てくるでしょうね」

「大規模討伐……ですかね?」

(ある)いは、長年法王国に巣食ってる闇の話かも」


 それを聞き、アイビスは自身の肩を抱く。


「う〜、有名になってから怖い話ばっかり聞いてる気がします……」

「それだけ実力を付けたって事ね」

「……クルス・ライズ・バーリントン……」

「歓談の席もあるでしょうし、そこで話を聞いてみる事ね」

「えー、聞かなきゃダメなんですか?」


 すると、ヒルダがニコリと微笑んだ。しかし、その笑みにはどこか含みがあった。少なくともアイビスにはそう見えたのだ。


「きっと、面白い話を聞けるわ」


 ヒルダの意図こそ読めないアイビスだったが、翌日の謁見まで残り十数時間。秒読み段階にまで入っていた。

 そしてアイビスは出会い、触れる。

 クルスという男がどういう存在なのかを。

次回:「◆その625 若き日の思い出3」

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