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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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623/917

◆その620 著名人1

 リーガル国の西に位置するミナジリ共和国。

 その少し外れに二つの家が立ち並ぶ。

 かつてミケラルド・オード・ミナジリが住んでいたミケラルド邸、その隣にあるのはクロード、エメラ、ナタリーが住んでいた家である。

 そこは今はもう無人……という事ではなく、クロードが執筆用の事務所として使っているのだ。

 机に載った一枚の白紙の羊皮紙。眼鏡を掛けたクロードはこれと睨み合っていた。


「……う~ん」


 そんなクロードをイライラした様子で待っているのが――、


「ねぇ、まだ書き終わらないの?」

「すみませんパーシバル(、、、、、)さん、書き始めればすぐなのですが」


 そう、クロードの事務所で渋面を見せていたのは破壊魔(はかいま)パーシバルだった。


「ミナジリ共和国に誕生した新たな守護者フェンリル。これに跨る元闇人(やみうど)破壊魔(はかいま)パーシバルに直撃インタビュー……。ミケラルドさんのとても面白い企画だと思うのですが、どうも良いイメージが湧かないもので」

「それは何? 僕に悪いイメージがあるって事?」

「あぁ、申し訳ありません。そうではなく、優秀なパーシバルさんを更に引き立てる良い言葉が浮かばないという事です」

「そ、そう? じゃ、じゃあもう少し待ってやってもいいかなー……なんて」


 真面目なクロードと、不真面目なパーシバル。

 仕事に懸ける純粋な思いがそこにあれば、二人の壁など無いに等しい。


「ねー、お菓子とかないのー?」


 しかし、パーシバルはまだ若い。大人しく待てるという訳でもないのだ。


「すみません、生憎ここには……」


 直後、事務所の扉がバタンと開かれる。

 これによりパーシバルがいち早く反応し、警戒する。

 パーシバルはミナジリ共和国の新たな守護者。クロード新聞の筆者――クロードの身辺警護もミケラルドに言いつかった命令の一つなのだ。


「たっだいまー!」


 だが、そんな快活な声に二人は目を丸くした。


「あれ? お父さん(、、、、)もいたんだ?」


 やって来たのはクロードとエメラの娘、ナタリーだった。


ナタリー(、、、、)? あぁ、そうだった。今日は聖騎士学校はお休みだったね」

「そうそう、羽を伸ばすのついでにこっちでのんびりしようかなっと。お店もお休みもらってるしね……って?」


 ナタリーの視線がクロードからずれていく。

 スライドした先にいたのは、勿論パーシバル。


「…………何? この組み合わせ?」


 時計の長針が動くようにコトリと小首を傾げたナタリー。

 不可解な組み合わせに疑問を持つも、クロードの説明により得心するのだった。


「へぇー、来週はパーシバルの記事なんだ」

「おい、ふぁーひはるはんだ!」

「口にそんなに物入れて喋っちゃいけません」


 ナタリーが持って来たお菓子を頬張っているパーシバル。

 威嚇するように言うも、それがナタリーに響く事はなかった。

 素早く咀嚼し、お菓子を一気に呑み込んだパーシバルがナタリーを指差して言う。


「パーシバルさん(、、)だ! 僕はお前より一つ年上なんだからな」

「えー、そんな風には見えないけどー? ほら、お菓子付いてる」


 ナタリーは自分の右頬を指差し、パーシバルに言う。

 当のパーシバルはそれにハッと気付き、顔を赤くして服の袖でそれを拭った。


「ぼ、僕は十四歳、お前は十三歳!」

「あ、こっちにも」


 今度は左頬を指差すナタリー。


「くっ! くそっ!」


 顔を真っ赤にしてそれを拭ったパーシバル。

 ナタリーはこれをくすりと笑うものの、クロードのその表情は真剣そのものだった。真剣なクロードの眼差しに気付いたパーシバルが聞く。


「な、何だよ! ア、アンタの娘だからって気を遣うような真似はしないからなっ!」


 だが、クロードからは何も返ってこなかった。

 ちらりとナタリーを見るパーシバル。ナタリーは肩を(すく)めるばかりで、その理由についてはわからない様子だ。

 すると、また事務所の扉が開いた。


「たっだいまー♪」


 先程のナタリーより、やや色の伴った声。

 目を丸くするナタリーとパーシバル。

 しかし、クロードはパーシバルを見て離さない。


「何だ、お母さん(、、、、)か」


 やって来たのは、クロードの妻、ナタリーの母であるエメラだった。

 エメラは家に入るなりクロードの熱い視線に気付いた。

 そしてその視線の先を見て、ナタリーのように小首を傾げたのだ。


「なぁに? この組み合わせ?」


 疑問を漏らすもエメラはすぐに答えに行き着く。

 理解を示すようにポンと手を叩き言った。


「あー、もしかして次回のクロード新聞の企画ってパーシバル君?」

「くっ、何でよりにもよって今日ここに三人集まるんだ……!」


 不満を零すパーシバルに、エメラが微笑みながら返す。


「居心地がいいからね。たまに帰ってきたくなっちゃうのよ」


 溜め息を吐くパーシバル。


「今お茶()れるからね。パーシバル君もゆっくりして行ってね~」

「くっ、僕としては早く帰りたいんだよ……」


 ソファに疲れたようにドッと腰を下ろすパーシバル。

 茶の用意の手伝いに動いたナタリーが、エメラに聞く。


「ねぇお母さん」

「なぁに?」

「お父さんどうしちゃったの?」

「何か浮かんだんでしょ」

「それって新聞のネタ?」

「それ以外にある?」

「うーん……ないなぁ」

「でしょ? こっちはいいからお父さんを手伝ってあげて」

「え? お父さんを? どうやって?」

「パーシバル君と話してればいいんじゃないかしら?」

「……何で?」


 ナタリーが疑問を浮かべるも、エメラは微笑むばかりで何も返してくれないのだった。

次回:「◆その621 著名人2」

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