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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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622/917

◆その619 二強

 年中繁忙期。

 壁に書かれた訓示を見、一人の女がすんと鼻息を吐く。

 女は気合いを入れるかのように自身の頬をパシンと叩く。

 すると、部屋にノック音が響く。


「ひゃっ!?」


 突然の来訪者に驚き、女は自身の頬を潰しながら、そのまま扉へ振り返った。


カミナ(、、、)、準備は出来た?』

「う? エメラ(、、、)……?」


 小首を傾げる

 来訪者がエメラだとわかったカミナだったが、その予定はなかったのだ。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「昨日そっちに行くって言っておいたじゃない」

「ごめんごめん、完全にすっぽ抜けてたからさ」


 カミナの性格に呆れながらも、エメラはしょうがないという顔をしながら制服を着る。

 ここはエメラ商会リプトゥア支店。今日はその開店日なのである。

 過去、リプトゥア国はミケラルドによって大きな損害を受けた。

 当然、それはリプトゥア国が悪いという意見も多かったが、リプトゥア国に拠点を持つ者がミケラルドを憎まなかったと言えば嘘になる。

 しかし、ミケラルドは行動で示した。

 リーガル国王ブライアンの依頼により、司令官としてリプトゥア国を魔族の侵攻から率先して防いだのだ。

 リプトゥア国を救った事で、ミケラルドへの反抗は次第に鎮火していった。

 だが、それでもミケラルドを良しとしない者もいる。だからこそ、リプトゥア国の首都リプトゥアにはミケラルドの名を冠さないエメラ商会を置いたのだ。

 ミケラルド商店の子会社として存在するエメラ商会は婦女子をターゲットとした内装であるが、ミケラルド商店を置けないリプトゥアならば、その様相は変わってくる。

 シックな雰囲気のあるエメラ商会、大衆を呼び込みやすい大衆的で明るい雰囲気のあるミケラルド商店。これをフロア毎に店内を二分割したのだ。

 これにより、顧客の順路を分ける。フロアは音声遮断のマジックスクロールにより互いの雰囲気を阻害しないような造りとなっている。


 そのエメラ商会リプトゥア支店が本日開店初日を迎える。

 オープンという事もあり、元々優秀なカミナが配されていたが、更にエメラが応援に駆け付けた。スタッフたちは安堵した様子で二人の指示に従った。

 それもそのはずで、今やミケラルド商店はこの二人の力によって支えられていると言っても過言ではないからだ。その手腕はシェルフのバルト商会、リーガル国のドマーク商会に勝るとも劣らない……と、クロード新聞の見出しに載った事もある程である。


「「いらっしゃいませ!」」


 開店直後、リプトゥア国民が店になだれ込み、出足が好調かのように見えた。

 しかし、新しい事に挑戦する際、そこに必ず綻びは生じる。カミナとエメラはそれを理解していた。

 陳列、会計、商品案内、彼女たちが普段している仕事の他に目を光らせる場所とは――、


 ◇◆◇ ◆◇◆


 昼の休憩時、昼時という事もあり店に顧客が少なくなる頃合い。

 カミナとエメラは店長室で問題点を挙げていた。

 すぐに是正出来る問題もあれば、そうでないものもある。

 カミナがエメラの言葉に首を傾げたのは正にソレだった。


「迷子?」

「音声遮断のマジックスクロールで各フロアを仕切ってるでしょ? 互いに別フロアにいた時に、子供の声が親に届かないのよ。勿論、その逆もね」

「あー、確かにそうだね。そういえばミケラルド様が言ってたのよ」

「ミケラルドさんが?」

「『この店のサイズだと迷子センターいるかもしれないから、必要だったら言ってね』って」

「迷子を一時的に預かる場所って事ね。確かに必要かもしれないわね。でも肝心なのは」

「アナウンスだよね。迷子に関してはフロアに【テレフォン】のマジックスクロールを貼って。迷子センターで子供を預かっているって知らせないといけない……かな。その際の問題点は――」

「――誘拐ね」

「それだ。親を名乗って誘拐されたら店の責任問題だしね。これはちゃんと指導しないと」

「迎えに来た親御さんと迷子センター施設を隔てた方がいいかもしれないわね」

「あ、いいね! 【テトラ・ビジョン】を通して、別の部屋から子供に親を確認させる。これなら間違う可能性がぐっと下がるね」

「わかったわ。内装変更の申請書を書いとくわね」

「助かるぅ~。やっぱ持つべきものはエメラよね」

「褒めても何も出ません」

「はいはい」


 カミナが嬉しそうにエメラを褒める。

 すると、エメラがカミナを見て言った。


「そっちは? 何か気付いた?」

「う~ん、匂い……かな?」

「匂い?」

「エメラ商会では香水も取り扱ってるでしょう? それがミケラルド商店側に流れてくるんだよね。匂いに抵抗もない人もいるけど、不快に思う人もいるでしょう。子供なんか特に」

「確かに大衆向けの店に香水の匂いは問題ね。わかったわ。換気と匂いの流動に関してミケラルドさんと話し合ってみる」


 二人の提案、改善点が次第に積み上がっていく。

 スタッフたちが二人を信頼する理由が正にここにあった。

 働きやすく、買いやすく、また来たくなるような店作り。

 ミケラルド商店の二強(にきょう)と称される二人の活躍は、まだまだこれからも続く。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「な、何じゃこりゃぁああああ!?」


 積み上がる申請書の束。

 執務室で頭を抱え叫ぶミケラルド系元首。

 しれっとしたナタリーがミケラルドに言う。


「見ればわかるでしょ? カミナさんとお母さんから、リプトゥア支店の改善案やら申請書」

「天井に届きそうなんだけど、この紙の山……」

「大丈夫、届いてないよ」

「何が大丈夫なのか……」

「はぁ……ミケラルド商店の二強(にきょう)か……いや、あの二人なら二喬(にきょう)でもいいかもしれないな」


 むふふと笑みを零すミケラルドに呆れるナタリー。

 ナタリーは手を叩き急かすようにミケラルドに言う。


「はいはい、お昼までに全部目を通しておいてね」

「これをっ!? 昼までにっ!?!?」


 申請書の山は天井に届かなかったが、ミケラルドの声は天井を突き抜けラジーンの鼓膜を揺らしたのだった。

次回:「◆その620 著名人」

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