表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

621/917

その618 クマの場合6

※2021/8/10 本日二話目の投稿です。ご注意ください。

 ◇◆◇ マックスの場合 ◆◇◆


 ミックの登場によって固まってしまった三人。

 だから俺がミックに言った。言うしかなかった。


「おいミック、シェルフとの会談はどうしたんだよ」

「終わって暇だったから来たんだよ」

「元首は大変らしいな。帰ってゆっくり休んでくれ」

「そんなんではぐらかされるか!」

「あ、そうだ。近所に美味そうな茶屋が出来たんだ。一緒に呑みに行かないか?」

「知ってるよ、そこのスポンサーだからな!」

「ミックも四歳かー。大人しくはぐらかされてやるのも子供であり大人だぞ」

「どっちなんだよ!」

「まぁ、ここまで言ったんだから言いたくないって事くらいはわかるだろ。だから聞かないでくれたんだろ?」

「っ!」


 俺がそう言うと、ミックは言葉を詰まらせた。

 そうなんだ。ミックは陛下たちが来るのに気付いていた。

 だからこそ、俺たちの話を聞く事が出来た。ミックの不思議な能力を使うもよし、大使館に直接侵入する事も出来た。だが、ミックはそれをせず、正攻法で俺たちに詰め寄った。聞ける自信があった訳じゃないだろう。

 だから、このミックはいつものミックなのだ。


「…………まったく、こんな事なら【超聴覚】でも使えばよかったよ」


 ブツブツ愚痴のように零すミックに、俺はニカリと笑って言った。


「安心しろ、やましい話じゃない」

「この三人が揃ってやましい話じゃないってのは不思議な話だな」


 ジト目を向けるミック。

 俺は、陛下に対し振り返り……さて、この時、俺は陛下にどんな顔をしていたのだろう。三人は少し驚いたような顔をしていたから、きっと変な顔をしていたに違いない。

 そして俺はミックに向き直り、今度はニヤリと笑って言った。言ってやった。


「数字の話だ」

「「あっ!」」


 それは、後方の三人から聞こえた驚きの声だった。

 いや、もしかしたら制止の意味も込められていたのかもしれない。

 その三人の顔を見て、ミックは理解した。俺が本当の事を言ったのだと。

 そして俺を顔を見て、ミックは顔を(しか)めたのだ。


「うわぁ……」

「おい! 何だよその顔!」

「いや、それ言っちゃう普通?」

「やましくないだろう!」

「この三人が動いて数字の話だって言ったら、物凄くやましいわ!」

「このお三方が動いて数字以外の話だった方がやましいだろう! むしろ数字の話に決まってるじゃねぇか!」

「くっ! その通りかもしれない!」


 俺はミックの肩をぐわっと腕を回し、諭すように言った。


「いいかミック。俺はエメラさんとお金が大好きなんだよ」


 言った言葉はたったそれだけ。

 しかし、それだけでミックは気付いた。

 そしてミックは陛下をちらりと見、俺を見た。

 声を落とし、あからさまな密談を始めたのだ。


「クマをミナジリに留めるような交渉をしてきたって事かよっ?」

「ソンナコトハイッテナイゾ。アトクマ(、、)ジャナイゾ」

「そう言ったようなものだよっ」

「だって給料が今の五倍だぞっ。いいじゃねぇか夢見たってっ」

「シェンドはどうしたシェンドはっ」

「この話を聞いた時な、俺は思ったんだ」

「遠い目すんなよ」

「『あれ? 俺の友人に転移魔法を使えるヤツがいるじゃん』ってな」

「すっげぇ皮算用だなっ。何だよ、シェンドにいつでも戻れるような転移魔法よこせって事じゃないか」

「冒険者ギルドのニコルさんが確かそんな事をしてたような気がしてな」

「……詳しいじゃん」

「たまにネムちゃんが大使館の門に遊びに来るんだよ」

「事案じゃん」

「んなこたねぇよっ。まぁ、給料が五倍、エメラさんといつでも会える、シェンドにもいつでも帰れるなら、ミナジリに留まるのも悪くないと思ってな。というか一石三鳥じゃん」

「一鳥が俺頼りなんだよなぁ……」

「お前がシェンドに遊びに来るより楽じゃねぇか」

「そりゃそうだけど、何でブライアン殿がお前を引き留めるんだよ」


 問題はここ。

 しかし、ここだけは譲れないのだ。


「そりゃお前、俺とミックが仲がいいからだろう」

「……ってそれだけかよっ」


 俺はその後、からかうような顔つきでミックに言った。


「あれー? ミックともあろう人がこんな事もわからないの?」

「いやわかるしっ。リーガル国のクマとして残し、俺と友好を深める。たとえ個人間の仲だとしても、そこにどうしても国籍は含まれる。割とまともな外交手段だよ」

「な? 数字の話だろ?」

「くそ、何か含みあるな、その胡散臭い笑み。逆に親近感湧くわ……」


 呆れた目をしながらも、ミックは溜め息を吐いた。


「……わかったよ、騙されてやる」


 流石(さすが)、一代どころか一年で、このミナジリ共和国を大国にまで押し上げた男だ。流石としか言いようがない。俺がこれだけ主題を伏せようとも、そこに気付いている。流石としか言いようがない。

 だから、俺もこの男のように首を傾げながら言ってやった。


「はて?」

「……愛嬌皆無だし、全然似てねーよ……」

「ははははは! 俺のオリジナルだしな!」


 そう言ったところで、ミックはまた大きな溜め息を吐いた。

 この密談により、ミックはこれ以上の言葉を呑んでくれた。

 本当の事を言いつつ真実を話さない。これを陛下たちがやる訳にはいかなかった。それくらいは俺にもわかる。だから、それが出来るのはこの場で俺しかいなかったのだ。陛下たちもそれを理解していたようだった。

 三人が最後に送ってくれた謝意の籠ったアイコンタクトは、俺の中で大きな誇りである。その後、三人は、タダで返す訳にもいかないという事でミックがミナジリ邸へと連れて行った。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 俺は再び門番に戻り、その日の夕方になったところで交代勤務の者と代わった。その仕事終わりを狙い定めたかのようにどこかの国の元首が現れたのだ。


「近所に美味そうな茶屋が出来らしいぞ」

「知ってるよ、俺の友人がスポンサーだからな」

「さ、洗いざらい吐いてもらおうか」

「あ、てめ! 諦めてねぇな!?」

「はははは、嘘だよ嘘。あ、ところであの三人さ」

「あん?」

「何でマックスの事ずっとクマックスって呼んでたんだ?」

「それは今日の勤務中ずっと考えてた」

「あん?」

「お前が……お前が所かまわず『クマクマ』言ってるからだろうってな!! てめぇ! おいこら逃げるな!」


 はてさて、他国の元首に襲い掛かろうとしている俺を見たら、あのお三方はどう思われるのだろう。

 茶屋で酒を呑みながらミックとその話で盛り上がった。


 ――もしかしたら俺に斬首刑が下るかもしれない。

 ――いやいやそんな事はないよ。

 ――何でだ?

 ――数字の話だよ。

 ――なるほどな。


 不思議な事に、友人が元首ともなると、友情にも数字が含まれるようだ。

 こんなくだらない話で、俺たちは数字のない友情を深めているのかもしれない。と、感慨深い言葉を俺が吐いたところで、ミックは乾いた笑いを浮かべた。

 めっちゃ口論になった。

 やかまし過ぎて茶屋は出入り禁止(出禁)になった。

 スポンサーなのに、と、いじけてるミックを指差して笑っていたら口論になった。

 近所迷惑過ぎてジェイル殿率いる警備隊に連れて行かれた。

 元首なのに、と、いじけてるミックを指差して笑っていたら口論になった。



 そんな、そんな長い一日だった。

次回:「◆その619 二強」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~14巻(完結)・コミック1~9巻が発売中です↓
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』
神薬【悠久の雫】を飲んで不老となったアズリーとポチのドタバタコメディ!

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
[良い点] 身分に大きな差が出来てもふざけ合える関係っていいよなぁ
[良い点] (ク)マックスが良い漢過ぎる点。 [一言] こんなダチが欲しい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ