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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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619/917

その616 クマの場合4

 ◇◆◇ マックスの場合 ◆◇◆


「私にしか頼めない事……?」


 何だ、俺にしか頼めない事って……ん? 頼む?

 何だ頼むって? 陛下はリーガル国の頭。ならば俺に頼む事をせずに俺に命令すればいいのに……何で『頼む』なんて言葉を?


「このままミナジリ共和国に残ってはくれぬか?」


 …………薄々は気付いていた。

 それが確信に変わらなかったのは、その理由が見えなかったからだ。

 陛下は何故、俺をここに残したいのか。それがわからなかったのだ。


「理由を欲するか?」


 俺はそれに答えられなかった。

 思考が追いついていない訳ではなかった。決断が出来なかったのだ。

 だから俺は、こう聞くしかなかったのだ。


「何故……何故ご命令ではないのでしょうか」


 すると、横目に見えたサマリア公爵とドマーク殿が少し驚いたように、目を見開いて見合った。

 陛下は俺をじっと見、すんと溜め息のような鼻息を吐いた。

 そして、サマリア公爵とドマーク殿を見た後、こう言ったのだ。


「リーガル国には優秀な人材が多いな。これを機に国内を巡り野に埋もれた人材を探すのもいいかもしれん」

「ははは、ですな」

「ご希望とあらば手配致しましょう」


 二人はニコリと笑いそう返した。

 これはつまり、俺が優秀だと言っているのか?

 たったこれだけの質問で?


「まずはその芯よ。一介の兵は私の王という圧に負け、何の反論もなくこの頼みを聞くだろう。これは(すなわ)ち、私に呑まれないだけの覚悟と、それ以上のシェンドへの愛があるという事。ただ命令を聞くだけなら誰にでも出来る。その意を考え、察し、わからなければ自発的に問う事が可能な人材。それは良き人材よ。しかし、それはそこ止まり。だが、国王を前にそれを聞ける者はそうはいない。そういう事だ」

「きょ、恐悦至極に存じます」

「さて、何故命令ではなく頼んでいるのか。……先日、ミックとロレッソ殿と【テレフォン】越しの会談を設けた。当然、その面子で話すのだ。その主題は自国やその交友についてが多い。短い時間ながら雑談もする。その雑談の話題を占めるクマックスの割合はいかほどのものか、クマックス、お前にわかるか?」


 陛下とロレッソ殿だけならば(ぜろ)と言いたいところだが、そこにミックを交ぜるとなると、結構な割合を占めるような気がする。


「不思議な事にな、零だ。クマックスの話など一切出てこない」

「へ?」

「しかし、ミックが留守の中、ロレッソ殿だけと話す時は別だ」


 そんな事って、ある……のか?


「話題の多くを占めるのがミックだ。しかし、ロレッソ殿はこう言う。『ミケラルド様は本当によくクマックス殿の話をされます。クマックス殿が今日はどうだったとか。さっきクマックス殿をからかってきただとか。それはもう大変嬉しそうに』とな」


 ……ロレッソ殿は、本当に俺の名前を知っているのだろうか?


「クマックス、この話の意図がわかるか?」


『ク』が余計な事以外にという意味だろうが、俺は今『ク』をどうやって排除しようか考えていてそれどころではなかった。


「ミックは言わんがな、ロレッソ殿はクマックスがここに残る事を望んでいるという事だ」

「……は?」

「元首というのは国の情勢を左右する(かなめ)だ。超大国になりつつあるミナジリ共和国の元首(ミック)ならば、それがどんなに大きな要かわかるか? ふふふ、そんな顔をするな。案ずるな、私にもわからんからな」


 陛下にもわからない事……。


「だが、ミックを失えば、ミナジリ共和国は一気に傾くだろう。それくらいはわかる。本来、国の長が消えたとしても国が回るように統治せねばならない。しかし、ミナジリ共和国は立国して間もない。ここに関して言えば、そうなるよう動いている段階と言える。だからロレッソ殿は私にクマックスの話をしているのだ」

「へ? そ、その話が何故私に関わってくるのでしょうか?」

「無論、元首のメンタルコントロールだ」


 大変だ……話がどんどん大きくなっている気がする。

 いや、待て。陛下はさっき何て言った?


「……ぁ」

「ふっ、思い出したか。そう、これは【数字(、、)】の話だ」


 そういう事か。

 ようやく陛下が言おうとしている事がわかった。

 そして、俺に命令しない理由も。


「やはり優秀。一本芯が通っているからこそミックが認めるのだ。そういう事だ、これはロレッソ殿の極めて高度な外交なのだ。元首は常に高い精神状態(パフォーマンス)を維持しなければならない。これが低下した場合、国に何らかの支障が出る。それを防ぐためにはメンタルコントロールが必要。であれば、あの手この手でそれを成す必要がある。その一つをクマックス、お前が握っている」

「ロレッソ殿がそれを陛下にお伝えしないのは、それを公に出来ないから。そして、公にすれば陛下は私に命令せざるを得ない。そうなればミック……あいや、ミケラルド様は確実に気付く……」

「困った事に、そうなると外交上の問題やミックのメンタルに影響を及ぼす」


 陛下はニヤリと笑って俺を見た。

 そうか、やはり陛下はここで俺に頼むしかないのだ。

 これは数字の話。

 ロレッソ殿はミックのメンタルコントロールを陛下に求め、リーガル国にこれまでの借りを返せる機会を用意した。

 そして、陛下も国としてそれに乗りたいという事。

次回:「その617 クマの場合5」


※明日は二話投稿予定です。

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