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半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~  作者: 壱弐参
第二部

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その615 クマの場合3

 ◇◆◇ マックスの場合 ◆◇◆


「とはいえ、今のは主君に対して良い態度とは言えぬ。以後改めよ」

「は、はっ!」

「私もミックを友人だと思っている。クマックスとは違うが、私もそれなりにミックと親交を重ねてきたつもりだ。無論、そこのランドルフやドマークもそうだ」

「はぁ……」

「内密ではあるが、現在、聖騎士学校ではルナとレティシアがミックの庇護下にある」

「え……で、ですが?」


 陛下はニヤリと笑って俺の言葉を止めた。

 そう、学校とは全寮制。四六時中ミックが付き添う訳にもいかない。それに、俺はルナ王女殿下とレティシア様が聖騎士学校に入学してから、何度もこの国でミックを目撃している。


「クマックスが見ているミックが、いつもミックだとは限らない、そういう事だ」

「何と……!?」

「無論、今は様々な手段で娘たちを守っているようだがな」

「そんな事が……気付きませんでした」

「我々とて、知らなければ知りようがないのだ」


 やはりミックはいつの間にかとんでもなく成長しているのだ。そして、闇ギルドの解体なんてとんでもない事をやり遂げた。あれからミナジリ共和国には多くの人、エルフ、ドワーフが移り住んでいる。軍事的には勿論、開拓や開発も大国と遜色ない段階までそんなに時間はかからないだろう。


「ですが、内密……?」


 陛下たちが共有している秘密を……何故一介の門番である俺に教える必要があるのか。俺はそれが疑問でならなかった。

 陛下は身体をゆるやかに前に倒し、まるでここからが本題だと言いたげな様子だった。


「さて、今日ここに来た理由は他でもない。お前の事だ、クマックス」


 声を落とし言った陛下の言葉が……俺には信じられなかった。そうなると、つまりアレか? 陛下は、俺のためにわざわざ貴重な時間と体力を使い、ミナジリ共和国までやって来たという事では?


「クマックス、お前はシェンドの町に戻りたいか?」

「え……?」


 一瞬、陛下が何を言っているのかわからなかった。

 俺はサマリア公爵を見、ドマーク殿を見た。二人は俺にコクリと頷いて見せた。俺には何故か、二人が「好きに答えろ」と言っているように見えた。

 俺は陛下に一度目を伏せ、それから今の思いを伝えた。


「シェンドは私の故郷。両親こそ早く他界しましたが、あの地は私の父であり母。その地を守りたいという気持ちは今も尚変わっておりません」


 そう言うと、陛下は諌める訳でも怒る訳でもなく、ただ静かに、少しだけ笑ったのだ。


「うむ、クマックスの(げん)は雄弁かつ率直。故郷の愛をここまで素直に語れる臣下は私も含めそうはいない。であろう、二人とも?」

「えぇ、見事と言う他ありませんな」

王商(おうしょう)の身なれど、数字以外の証明を拝見させて頂いた気分です」


 陛下、サマリア公爵、ドマーク殿はそれはもうベタ褒めだった。

 身体がむず(がゆ)いどころではない。シェンドの町では警備隊長ではあったが、このミナジリ共和国では、俺はしがない門番だ。ここまでくると気味が悪いとさえ言えた。


「クマックスのシェンドへの愛、しかと受け取った。しかしここはミナジリ共和国。ドマークが言った通り、ここからは数字の話だ」

「数……字……?」


 俺が首を傾げると、陛下は一つ頷いてその先を続けた。


「我がリーガル国はリプトゥア国、ガンドフ、法王国に比べると人口的、資本的に見ても小国と言わざるを得ない。戦争によってリプトゥア国を属国に置いたものの、それは一時の事。リプトゥア国の体制が整えば自治権を返還するつもりだ。とまぁ、ここまではクロード新聞や公布を通し国民も知っている事。……闇ギルドが崩壊した今、ミナジリ共和国は龍族の加護以外にも多くの後ろ盾が出来た。各国に巣食う闇の組織を潰したのだ、内々ながら多くの感謝がミックに届いている事だろう。当然、リーガル国もその一つだ」

「そ、そんなにも……」

「うむ、ミナジリ共和国は龍も世界も味方に付けた第三勢力とさえ言えるだろう。我がリーガル国はミナジリ共和国の立国を認め、ミックにいくらかの貸しがあった」

「……あった?」

「立国前に全て返されたと言っても過言ではない程にな。しかし、ミックはそれでも恩に感じリーガル国に多大な利益をもたらした。それこそリーガル国という小国では返し切れない程の恩をな。シェルフとの同盟、聖水路の整備、リプトゥア国への報復、さらには我らの娘たちの安全。わかるか、クマックス? 今のリーガル国はミックなしには語れぬのだ」


 足りない俺の頭でも陛下の言わんとしている事が何なのか、薄々わかったような気がした。


「他国の元首なしには語れぬ国……王として、これは何とも恥ずべき話なのだろう。しかし、超大国とさえ言える法王国ですらそうなのだ。これはある種の摂理なのではないか? と、最近は思う程だ」


 凄いな、陛下がここまでミックを称賛するなんて。


「だが、それでは国の長は務まらない。であろう?」

「あ……いえ……」

「ふふふ、構わぬ。()えて答えられぬ質問をした。許せ」

「い、いえ! 滅相もありません! 陛下が謝るような事では……!」

「クマックス、お前はリーガル国の臣民であると共に、最強の軍事力を誇るミナジリ共和国元首の友人だ」

「それは陛下も……――」


 言うも、陛下が手を前に出しその先を止めた。


「我らではダメなのだ。これは、クマックスにしか頼めない事……」


 俺でなければならない理由。

 そして、陛下は俺に何を頼もうとしているのか。

次回:「その616 クマの場合4」

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